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第6話② 叔父貴族の騎士・ドロップの拾い物


==カーティス=エルリーン城・城内通路北側==


 城内に入り三度目の応戦にて、エネルギーが尽きたことで鎖鎌が消失した。

 ただ遠距離からの属性ドロップに頼り切りの教徒数名など脅威ではない。ドロップを使用しない蹴りのみでノックダウンすると、近くの騎士に幻術ドロップの対処法を伝えて東側へと向かっていた。


「怨敵勇者の騙りが! これでも喰らえ!」


(本物という選択肢はないのか……?)


 頑なに真の勇者であるとは言わないダルクノース教徒は、待ち構えるように通路に横並びで立ち、一斉に風のドロップで攻撃を放ってきた。

 左右上下を壁で囲まれた通路では、風の威力が集中して強烈な暴風となる。窓ガラスが激しく割れて、調度品らしき物が吹き飛ばされる。

 だが咄嗟にディートしたドロップによって俺は、髪や服が乱れる程度でその場から一切動くことはなかった。


「何!? 何故この風の中で平気なのだ!」

「なんでだろうな?」


 距離を詰めて端に居た一人を蹴り飛ばす。すると、その一人は()()()()()()()で壁に叩きつけられた。


「ごぶぁ……」

「ひっ……」


 突然の光景に腰が引けた残りの教徒達。続けてもう一人には踵落としをかますと、地面に突っ伏した。

 残りの奴らも殴りや蹴りで確実にノックダウンさせる。


(やっぱ、思ったより集中力が必要で使いづらいな……)


 重化のドロップ。自らの重さを一時的に増やすことができるドロップだ。それを使って最初の暴風を凌ぎ、攻撃時の威力上昇に利用した。

 ただ、重くなった状態で必要以上に動くと、筋肉への損傷が激しく、扱いの難しいドロップでもある。風を凌ぐときは動けなかったし、攻撃時も命中する一瞬だけにしなければならず、精神的に疲れる。

 そのため、あまり出回るドロップではないこともあって、普段持ちあることはないのだが、以前ダルクノース教(こいつら)に使われた暴風攻撃の対策として今回用意していた。


(正直これ一つで、今回の報酬の半分ぐらいするからな……)


 なんだか出費的に悔しいので、気絶もしくは絶命した教徒の懐から風のドロップを幾つか拝借すると、社交界会場の方角へと再度走り出した。


 ……


「ぅんぬぅるぅぁあ!!!」


 城の北側に差し掛かった場所では、甲冑では隠せていない筋肉の中年男性が、実武器の剣を振り回していた。


「貴様ら、この場所をどこだと捉えておる!!! 我らが王の住まうエルリーン城なるぞ!!! それを理解して尚、脅かすというのであればこのワシが相手をしよう!!!」


 遠距離攻撃をものともせずに教徒を斬き切り、その全員を殲滅すると、その剣先は何故か俺に向けられた。


「貴様!!! 何故子供がこのような場に()る!!! 貴様もダルクノースか!!!」

「ちげーよ」


 必要以上に五月蠅い中年男性は、なおも武器を俺に向けたまま話を続ける。


「なら何だ!!! ここは子供の来る場ではない!!! 戦場に来て良いのは大人だ!!!」

「……ランケットとして来てるんだがな」

「ランケットだと!!! やはりかの団体は信用ならん!!! 栄えある騎士だけでこの城を守り通してくれるわ!!!」

「(……うっせえ)」


 面倒臭いので無視して通り過ぎようとするが、再度空間が歪んで教徒が突然現れる。


「我らが正義を示せ!」

「ダルクノースの浄化を受けよ!」


 その掛け声とともに岩や氷のつぶてを発生させるも、大した制度ではなく苦なく躱す。

 槍のドロップで武器を生成しながら距離を詰めて三人を対処する。その時点で後ろを振り返ると、この中年男性も同じく三人を下していた。


「……貴様、かなりやるのだな」

「あんたもなかなかだと思うが?」


 一瞬の躊躇を経てこの男性は突然、俺に対して頭を下げる。


「ワシはこの場を動くことができん。 その代わりに会場に居るワシの姪を助けては貰えぬだろうか……。 大人が子供を頼らねばならぬという恥は重々承知だが……頼む!!!!」

「……あぁ、任せろ」


 元々そのつもりではあったが、その願いを聞き入れるとその会場へと駆け出した。




==杏耶莉(あやり)=エルリーン城・城内通路東側==


 人の波というものは恐ろしいもので、五十、六十を優に超える重量の幾つものものが意思を持って迫ってくるのだ。そんな安全を求めて波となった貴族たちの群れに私は紛れるように走っていた。

 その折に、騎士に倒されたのだろう。胸に鋭い切り傷を負って絶命した黒いフードの人が通路脇に転がっていた。普段見かけたら嘔吐してしまいそうな状態ではあったが、アドレナリンでも出ているのか、不快感を感じる程度に収まってしまっていた。

 恰好からダルクノース教徒と思われるそれに対し、同乗の余地は感じられない。因果応報である。その男性の持ち物なのだろう。潰れたポーチとすぐそばにドロップが一つ転がっていた。人の波に乗ったまま反射的にそれを拾うと、そのドロップをまじまじと見てみる。

 燃えるような赤色のドロップであるそれは、ドロップ製品の使用時に何度も見ていた火のドロップであった。


(一応、持ってった方が良いかな?)


 現在のドレス着用時にいつもは肌身離さずの剣のドロップを手放しており、私自身が身を守る術がなかった。火のドロップを自分で使ったことはなかったが、何かの役に立つかもしれないと考えて、そのまま手に持って行くことにした。


「私を先に通せ!」「道を開けろ!」などという身の危機に瀕した貴族たちの、醜い様子にうんざりしながら、怪我だけはしないように身動きしづらい服装のまま立ち回った。


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