第40話④ 突然の招集
==杏耶莉=灼天の節・十三週目=カーティス宅・リビング==
ほどなくして王の悲報がエルリーンの町へと発信されたらしい。最初は貴族に、そしてその情報が伝播するのを見届けてから平民へと伝えられたそうだ。
慕われていた王様の死であるということもあり、私が次の週にこっちに来た時にはまだ自粛の雰囲気が漂っている。それでも生活の為、働く者がいない訳ではないのだが、街を歩く人はとても少なく、そして雰囲気は暗かった。
貴族の中でも極一部にしか詳細が語られていなかった王様の影霧についてはそのまま伏せられ、大々的には心臓病による急死という事になった。これは影霧の危険性を不用意に広めて混乱を防ぐ意味と、私を貴族に仕立てた際のラングリッドが発症していたという嘘と相性が悪いという理由もあった。最悪ラングリッドが罪に槍玉に挙げられる可能性もあるからである。
そんな中、珍しく転移組三人でカティの家に居た。カティは何らかの依頼へ、そしてエスタルは一度買い出しに出ている。
「なーんか嫌な雰囲気だよなー」
「そうですね」
「……」
当たり前の話ではあるが、私はあの城でのやり取り全てを話さない様に言われていた。日本組他二人にも、カティにもエスタルにもである。
「ランケットも出歩く人数が少なくて暇なんだよな。 わたしどうすっかな……」
「寧ろ、人通りが少なくなれば犯罪発生の確率は上昇します。 人手が必要なのではないでしょうか?」
「そうか? でもどんよりした空気の中巡回したくねー」
「……」
「私は六笠さんがどう過ごそうと知りませんが……」
「そういう宿理はメグミんとこ行かないのか?」
「……マークと共に急な外出中らしく、どうやらここ数日戻っていないそうです。 マークのお宅の近所の方にお聞きました」
「ほへー、そりゃご愁傷様で」
「……」
「リスピラも一度自分の世界に戻っているとの事で、明日夜まではどこかで過ごす他ありません」
「むぅ……。 わたしもやる事ねーし、アーちゃんや? 今回は早めに戻らんかね?」
「……」
「おーい、聞いてるかー?」
「……え?」
「え? ――じゃなくて、早めに戻らないかって話をしてたんだよ」
「……あ、そう? ……そうする?」
「私はその方が助かります」
「右に同じでやんす」
「……そう、だね。 こっちに居てもってのはあるよね……」
私がそう返事をすると、瑞紀に頭を『ペチッ』と叩かれる。
「お前大丈夫か? ここ数日そんな調子で元気ないが……」
「……うん、大丈夫」
「そう見えないって言ってんの! なぁ、宿理」
「はい。 春宮さんはから気力というものを感じません」
「そうかな……。 そうだね……」
「そんなに王が亡くなったってのが気になってんのか?」
「……うん。 私は二人と比べて王族の人と接する機会も多かったから」
その言葉こそ嘘ではないが、実際に王様に会ったのはあれが最初で最後だった。そんな王様亡くなったという事実より、どうにも気分がよろしくない。でもそれは何故か話す気になれなかった。
「ま、そうだよな。 半年はこっちに居た訳で、一応お貴族様であらせられますでございますもんな」
「……」
「春宮さんもこの調子ですし、早めに戻る方針で――」
その言葉を言い終わる前に、この家の玄関が勢いよく開かれる。
「アヤリ様!!!」
そこに現れたエスタルとチェルティーナは、どちらも息を切らして慌てた様子であった。
「チェルティーナさん? それにエスタルも――」
「火急の要件ですわ。 アヤリ様を招集しますわ」
「わたしは道中合流しました。 同行いたしますので準備をお願いします」
「わ、わかった……」
そう言って、エスタルは私が貴族として行動する着替えを準備する。
「ちょっと待て、何があったんだ?」
「……そうですわね。 客人であるお二方にも話は聞いていただいた方が良いですわね。 準備をお願いしますわ」
「準備って……」
「会合の際に使用した衣類がこの家に置かれていた筈ですね。 エスタルさん場所をお聞きしてもよろしいでしょうか」
「はい、案内します」
「おいおい、ちょっと待てよ宿理。 何が何だかわからんだろ」
「唯事でない事は把握できました。 六笠さんも準備しましょう」
「わたしは思い通りにならんのは好きじゃない。 説明を求める!」
「その説明をするのですわ。 事はこの場ではなく別の場所で起こっておりますから」
「……それなら瑞紀は残れば良いよ。 私は向かうから」
「チッ……わかったわたしも向かう」
そうして手早く準備した全員で、チェルティーナの示す城へと向かった。
……
「入りますわ!」
チェルティーナが端的にそう伝え、返答を聞かずに開け放たれた一室。そこには多くの人……社交界でも見かけた顔の多く、貴族が詰めていた。そしてその中心には第一王子ディンデルギナの姿もある。
「レスタリーチェ嬢は兎も角、男爵であるハルミヤ殿とそれ以外の部外者が何用だ! ここは中級以上の貴族以外呼んでないだろう!」
「協力を要請すべくチェチェに連れて来させたのは我だ。 何が不服であるか?」
「で、殿下が……。 では不満など御座いませぬ」
興奮した様子の貴族の人は、王子の言葉でその勢いを失速させる。
「……今話してしまったが、其方を呼んだのは他でもない。 知恵を貸して欲しいからである」
「知恵ですか?」
私が尋ねると、王子はこの集まりと私達を呼んだ理由、そして今発生している問題への回答を端的に伝えた。
「今現在、大軍を引き連れてギルノーディア帝国の軍勢が我が国へと押し寄せておる」
その言葉は開戦を意味していた。




