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第40話③ 王族の責務


==杏耶莉(あやり)=灼天の節・十二週目=エルリーン城・城内三階王療養の間==


 私が事を済ませて王子達の待つ通路へと戻ろうとすると、遠くから騒がしい声が聞こえてくる。


「――きなさい! 退きなさいと言っているのが理解できませんの!?」

「ですから、今は王子殿下が取り込み中で……」

「関係ありませんわよ! わたくしだって王族の一員ですもの!」


 その声は先の社交界で聞いたある少女の声であった。


「ディクタニア、何用だ」

「ま! お兄様。 用も何もありませんわ。 わたくしが何時如何なる場所に向かおうと勝手ではありませんこと?」

「上に立つ者ってのは、そう容易く動けるもんでもないだろ」

「あら、ラングも居たのね。 王族としてのオーラが感じられずに気付きませんでしたわ」

「そりゃ願ったりだな」

「お前ら……」


 どうやら王子二人でさり気なくこの部屋に来ない様に食い止めているらしい。先程までのしんみりとした様子を見せずに気取って対応している。

 一瞬こっちを見たラングリッドは、その場で待機するように目で訴えたので私は室内で待機する。位置からしてディクタニアには見えない位置である。


「それでレスタリーチェを引き連れてこの場に赴くとはどういう了見ですの?」

「それはだな――」

「お前には聞いてませんわ、ラング。 それでお兄様、一体何を……と、何故レスタリーチェは顔を赤くしてるのかしら?」

「そ、それは……」


 運悪く来てしまったディクタニアへと取り繕う時間が足らず、珍しく失態を犯したチェルティーナに疑問を抱く。

 そしてディクタニアは、王子二人で塞いでいた通路を無理やり突破しようと動き始める。


「ま! それはどうでも良いですわね。 わたくしはお父様に会いに来ましたの。 お兄様、退いてくださる?」

「……」

「聞こえませんでしたの? 道を開けてくださいませ」

「……それは出来ぬ」

「……」

「――不味っ!」


 ラングリッドの焦った声と共に、部屋の前へとディクタニアが躍り出る。恐らく小さい体を活かして潜り抜けでもしたのだろう。高飛車な割に意外とアグレッシブである。

 部屋を守護していた騎士も流石にまだ幼い第一王女を上手い事止められず、ディクタニアは私の視界に現れた。そんな彼女であるが、室内に影霧が一切存在しない状況、そしてその室内に一人私が居る事に首を傾げる。


「ハルミヤ男爵、そこで何をしてますの?」

「それは……」


 私が言い淀んでいると、背後から現れたディンデルギナが仕方なしという態度で説明を始めた。


「……ディナには伏せておくつもりであったが、仕方あるまい。 説明しておく」

「一体何事ですの?」

「一言で申すのであれば、父上は崩御された。 それを成したのは他でもないアヤリだ」

「……え?」


 僅かに戸惑っていたディクタニアの表情が、その一言で消え失せる。


「頼んだのはわたしと兄上だ。 恨むならこっちを――」

「お待ちになってくださいませ! お父様ならここに……」


 私を突き飛ばす勢いでベッドへと駆け寄ったディクタニアは、ベッドの上の王様をペタペタ触る。


「そんな……まさか……」

「うむ……。 想定していたものとは違い、外傷こそないが確かに影霧が霧散するのを見届けておる。 崩御は間違いないのであろう、アヤリ」

「は、はい……。 間違いありません」

「そんな筈ありませんわ! だって、お父様は今ここに……」


 ディクタニアは揺さぶりながら王様を呼び続ける。その声が段々震えて涙声となる。


「どうして、どうして起きてくださらないの? 影霧は消え、お父様を治療しただけなのでは……」

「わかっておっただろう。 もう父上はもう助からない、と」

「違いますわ! お父様は必ず助けるとわたくしが誓って――」

「ディナ!!!」


 ディクタニアは名を呼ばれると、触れていた王様から数歩離れてその場で崩れ落ちる。


「お父様が……もう……」


 そう呟くのと同時に、突如立ち上がったディクタニアは私に突進すると、両肩を思い切り捕まれる。


「お前ですわね! お前がお父様を!」

「だから申したであろう! 唯アヤリは我らの頼みで動いたに過ぎぬ!」

「関係ありませんわ! 手を下したのはお前なのでしょう!? その手で!」

「……」

「いい加減に――」

「お兄様は黙ってください! さあ、自らの口で申してくださいませ! お前がやったのでしょう!」


 鬼気迫る様子の彼女に気圧されながらも、私は正直に答えた。


「……はい、私がやりました」

「――お前には理解出来ないでしょう! あの様な状況にあっても……どんな形であれ、お父様には生きていて欲しかった! それを!」

「…………私も、理解できます。 親にはどんな形であっても、生きていてほしいって気持ちはあります」

「それなら――」

「そこまでだ!」


 私を掴んでいたディクタニアの腕をディンデルギナが引き剥がす。


「ディナ、お前も王族であるなら感情ではなく理性でこの国の為を思って行動せよ」

「ですがお兄様――」

「あの状態の父王が政にどう良い結果をもたらす? 申してみよ」

「それは……」

「であれば、最善の方法であると理解できるであろう? それに、もはや意識すら戻らぬ父上を生殺しのまま放置する事こそ残酷であるとな」

「……」

「それよりもこの国の未来、新たな王を決める手筈を進めるべきであろう。 違うか?」

「……理解できますわ」

「であれば行動を示せ。 父王は後継者を選んでおらぬ。 それが聞けぬ今、支持を集めた王族の内の誰かが新たな王となる」


 ディクタニアは『はっ』とした表情となると、ディンデルギナに捕まれていた腕を振り払った。


「――そういう事ですのね」

「恐らく想像している事態とは異なる。 だが、どう受け取ってもらっても構わぬ。 どの道全力で我は王位を継ぐ所存だ。 それは其方も同じであろう?」

「……その通りですわ。 わたくしがこの国の未来を担うと決めておりますもの」


 立ち上がった私より二回りも小さい少女はディンデルギナを、そしてラングリッドを睨んだ。


「そのなりでもお父様の血を継ぐお前はどうしますの、ラング?」

「……この場では動きたいように動くとだけ伝えておく」

「そうですのね。 では、わたくしは用事がありますので。 御機嫌よう」


 そう答えたディクタニアは取り乱していた先程とは打って変わって毅然とした態度へとなり、この場から立ち去った。


「すまなかったな、アヤリ」

「い、いえ……」


 そうして私は後の事を王子二人に託して、チェルティーナと共にここを出た。


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