第39話③ 家主と従者の会話
==カーティス=灼天の節・十一週目=カーティス宅・リビング==
「ただいま戻った……ぞ?」
俺が依頼から戻るがアヤリの姿はなく、その代わりに居たのはメイドのエスタルだけであった。
「あれ、アヤリは?」
「アヤリ様は騎士団の宿舎にお出かけでおいでです。 一度わたしも向かいましたが、訓練を続ける様子でしたので戻って掃除をしておりました」
「お、おぅ……」
アヤリの側仕えである彼女は、寝泊りしているこの家雑務全般を買って出てくれていた。
七日に長くて二日しか滞在しないアヤリが来ていない日はチェチェの屋敷に戻っているのだが、それでも僅かな時間で手早く仕事をこなしてくれている。そこまで広い家ではないものの、公爵家で働いていただけの事はある。
「……」
「……」
(なんか、気まずいんだよな……)
何を考えているかわからないというか、そもそも殆ど彼女と会話をした事がなかった。
「あのさ――」「あ、カティ様。 アヤリ様が昼食にと、料理を準備なさっておりました。 宜しければ温めますがいかが致しましょう」
「そう、だな。 頼めるか?」
「はい、承知しました。 少々お待ちください」
料理はエスタルが来るようになってからもアヤリがしていた。そもそもメイドの業務に料理が含まる場合は殆どない。大概別口で料理人を雇っているからである。
一応エスタルも料理の基本は抑えているが、向こうの世界の技術を遺憾なく発揮しているアヤリと比べれば数段劣る。稀に一緒にキッチン立っている事はあったが、それでも料理の主体はアヤリが担っていた。
「……」
「……」
(沈黙がキツイ……)
アヤリと一対一の時はかなりはしゃいだ様子で会話をしているエスタルであるが、俺が居たり外に出ている際は寡黙な従者に切り替えてその業務に勤めている。
仕事熱心かつ主人と良好な関係が築ける優秀な従者なのは結構なのだが、もう少し俺に対しても砕いて接してほしいと思う。
「用意できました」
「あぁ、ありがとうな……」
「いえ」
席に着いて、準備された照り焼きハンバーグを味わって食べる。
(やっぱり美味いな)
恵まれた食材の集まるこの町で、向こうの世界のレシピをアヤリは十分に発揮している。
万悦の笑みで食べるのを終えると、時折俺をちらちら見ていたエスタルに話しかける。
「何か用事か?」
「あぁいえ……。 そうですね、少しお伺いしてもよろしいでしょうか」
「構わんが……改まってどうしたんだ?」
少し緊張をはらんだ様子のエスタルは重々しく口を開いた。
「カティ様とアヤリ様のご関係についてです」
「……俺とアヤリのか」
「はい。 当初は同性していらっしゃるとのことで、籍を入れているないしは婚約しているものかと想像しておりました。 ですが、その気はアヤリ様に一切ありません」
「アヤリには、か……」
それは即ち、第三者から見て俺の態度はバレバレだという事だろう。直接の言葉こそ言わないものの、そこまで神経質に隠していないので、それが露呈するのは構わない。寧ろ、何故アヤリは気づかないのか不思議なものである。
「その辺チェチェには聞いていないのか?」
「はい、詳しくは……」
「(流石にその辺の説明は俺に委ねたのか)」
チェチェの事だから、説明忘れという事もないだろう。彼女なりの気遣いだと受け取っておこう。
「……俺から説明するのも何だが、俺の感情は置いておいて、今の所アヤリと恋愛関係にはない」
「その様ですね」
「それでいて、アヤリは向こうとこっちを行き来しているからな。 それには寝泊りする場所が必要だろ。 だから俺がこの家を用意した」
「……アヤリ様は殿下の要望で爵位を賜っていらっしゃるので、屋敷の一つは準備していただけたのではないでしょうか?」
「そんな話もあったけどな、なんだかんだこれで落ち着いたんだよ。 広い家は落ち着かないだろうってアヤリも言ってたしな」
「……それは、理解できます。 チェルティーナ様のお屋敷も当初は嬉しかったですが、冷静になると寂しさを感じてしまいます」
小さな村の出だったという彼女には通じるものがあるのだろう。
「俺が話せるのは以上だな」
「……つまるところ、カティ様はアヤリ様をお慕いしているのに、それを告白出来ていないと言う事ですか」
「そう、冷静に分析しないでくれ……」
距離を感じていた状態から少しは改善したが、その代わりに可哀そうな相手として見られることになってしまった。




