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第6話① ダルクノースの社交界襲撃


==杏耶莉(あやり)=社交界会場==


「あら、レスタリーチェ家のお嬢ちゃんじゃないの」


 私とチェルティーナの会話が一段落したのも見計らって、一人の貴族女性がチェルティーナへと挨拶に来ていた。


「ご無沙汰しておりますわ、イマジュリー夫人。 今回の社交界には不参加だとお聞きしてましたが?」

「都合が付いたので来たのよ。 それよりも、そっちの恰好だけ寄せている庶民は何方かしら? そのような者と関わるのは品位を疑われますわよ?」

「……アヤリ様は殿下の客人ですわ。 その様な物言いはお止めくださいませ」

「そうでしたの……、この国のトップはそういう趣味があるのですわね」

「…………そういう物言いはどうかと思いますわ」


 話をし始めるも、すぐに『ばちばち』と聞こえてきそうな程の口喧嘩が開始されてしまう。


「まぁいいですわ、その者が何者かは関係ありませんもの」

「……? どういう意味でしょう?」

「……どうもこうもねえよなあ”」


 この貴族女性は、口調と見た目はそのままに突然人が変わったような話し方になる。


「!? どうされましたの、イマジュリー夫人……?」

「あ”!? こういうことにだよ、ぉおらあ”!!!!」

「下がってください、お嬢様!!」


 細い針のようなものを構えてチェルティーナへと襲い掛かる貴族女性。それを後ろに控えていたフェンが、いつの間にか生成しているドロップの短剣で弾く。


「ぢっ……、忌々しい勇者の末裔が。 大人しく死ねばいいものを、なあ”!!!」

「イマジュリー夫人……いったいどうされたのでしょうか。 様子がおかしいですわ」

「オレはそんなもんじゃねえんだよなあ”!!!」


 そう言うと、貴族女性は懐からドロップを取り出す。それを乱暴に噛み砕くと、それと同時に顔が『ぐにゃ』と変形するのと共に、体格も縦横に広がって男性になってしまった。

 変化した男性は、用済みとなったドレスを脱ぎ捨てると、今しがた使ったと思われるドロップで氷のナイフを生成した。


「百面相のペルナート。 ダルクノース教の幹部にして、変装の達人ですわね……」

「オレのことをしってんのが!!!! 流石はレスプディア有数のお貴族様であるレスタリーチェ様だなあ”!!!!!」


 突然起こった社交界の騒動に、周囲の騎士が動き始める。荒事に慣れていないのか、参加している貴族達の中には騒ぎ始める者が出てきている。

 フェンの実力は確かなもので、襲い掛かるペルナートに互角以上の立ち回りをしていた。


「……アヤリ様はお逃げください。 この者は(わたくし)で抑えられますわ」

「抑えられるなら、逃げる必要があるんですか?」

「……おそらくですが、この会場はダルクノース教の者に囲まれていますわ。 このタイミングまで襲い掛かって来なかったのは、社交界の様子を外部に漏らすためでしょう。 すぐに大勢のダルクノース教徒が襲撃してくることでしょう」


 周囲を見渡すと、貴族達の避難誘導を騎士達が行っている。あくまで安全保護を優先した結果なのだろう。一人でもペルナートという男を抑えているフェンが居るので、加勢しなことが正しい選択なのだろう。

 王子が座っていた方を見るが、その姿はすでになかった。それ以外の貴族たちは優雅さを感じられない慌てっぷりで出口の扉へと押し寄せている。


 そんな時、『ガシャーン』という音と共に、幾重もの炎や雷が窓を突き破ってこの会場へと放たれる。会場内は阿鼻叫喚という様子で、方々から悲鳴が聞こえてくる。


「アヤリ様!!!」

「……チェルティーナさんは逃げないの?」

(わたくし)はフェンの近くに居りますので大丈夫ですわ。 ですが、フェンとはいえど複数人を守るのは難しいですわね。 メイド(この者)達と共にお逃げくださいませ」

「……わかりました」


 彼女の言葉に頷くと、混乱状態にある出口へと急いで向かった。




==カーティス=エルリーン城・建物近辺西側==


 前触れなく現れた黒フードの集団との戦闘が開始されていた。

 そのフードには、隠すつもりもないのだろう。でかでかとノービス教の逆さにしたシンボル、見知ったダルクノース教のシンボルが施されていた。


「悪しき者どもに裁きを!」

「神玉を物として扱う人々に、神の鉄槌を!」


 ダルクノース教の奴らは、火のドロップや雷のドロップをディートして、周囲に居る騎士やランケットに攻撃を行う。適度に対処できているランケット達に対し、実武器の剣を主体とする騎士は遠距離からの攻撃は太刀打ちできずに苦戦していた。

 当然この場に居る俺もその対象であり、戦いを余儀なくされる。


「貴様! その髪色は勇者の眷属か、唯の模倣か。 どちらにせよ死あるのみ!」


 相変わらず勇者への当たりは強いらしく、俺の髪色を見ただけで集中砲火の対象となる。


「その方が面倒がなくて、都合が良いけど、な!」


 手持ちの鎖鎌のドロップをディートして生成する。飛んでくる火球や雷撃を避けて、鎌の柄を教徒達の頭や足へと順番にぶつける。

 刃を当てずに加減こそしているが、硬い物体を体の何か所にも打ち込まれた教徒は次々とその場に伏せっていく。

 打ち所が悪かったのだろう。頭部からどくどくと出血していたりもするが、襲撃した側にこれ以上の配慮をしても仕方がない。


「す、凄い……。 これだけの人数を一瞬で――」

「極力殺してないから、早く確保しろ!!」

「は、はいっ……」


 驚く騎士達にすかさず指示を出す。


(この場は制圧できたけど、別の場所に向かうか)


 現在位置は社交界の反対側の城外なので、人数の多いであろうその方角へと向かう必要がある。

 窓をたたき割り、そこから城内へと侵入した。

 城に侵入した位置には教徒の姿がないが、遠くで戦闘と思わしき音が聞こえるのでそこへと向かう。


 その場所では外と同じように、騎士と教徒が戦っていた。

 手に持っていた鎖鎌で先程と同じように鎌を振り回して対処する。勇者だなんだと、俺に群がってくるのでむしろやり易いぐらいだった。


「助かりました。 ランケットの方ですよね」

「……そうだ」


 ランケットとして参加しているので間違ってはいないが、所属しているとは言えないので少し引っ掛かる。だが、その説明をするのも面倒なので肯定しておく。


「この者たちは突然、何もないところから現れたのです。 何故このようなことが……」

「おそらく、幻術のドロップだろうな。 認識を阻害して見えなくすることができる」


 ここ五十年でレスプディアの産出量が減り、ギルノーディアで増えていると聞く種類のドロップだ。一部の人間は変装の類に応用することもあるらしい。

 だが、産出量が増えたとはいえ、希少なドロップなのでこれ程の量を用意するとは……。それに、このドロップは適性持ち自体も珍しいので、今回の作戦にかなりの力を入れていることが伝わってくる。


「幻術のドロップは目に映るものにしか影響しない。 音や匂いに気をつけろ!」


 それを言い残して別の戦いが行われている場所に駆けていった。


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