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第38話② 社交界開催前の報告


==杏耶莉(あやり)=灼天の節・六週目=エルリーン城・社交界会場==


 続々と到着した貴族やその従者によって、疎らであった会場内もそれなりの人で埋まる頃。最後に到着した第一王子、ディンデルギナに注目が集まるのと同時に話し声が止んで静まり返る。

 王族席へと到着した王子は、全体を見渡したのちに口を開いた。


「皆の者、今宵の参加、ご苦労であった。 毎度の事ながら、今集まりに際して我が国の騎士と自警団らによって厳重な警備が徹底されておる。 安心して会に望まれよ」


 その言葉と同時に、会場内で等間隔に配備された騎士が一斉に鞘から抜いていない剣を天井に掲げる。訓練の行き届いた一連の動きに思わず声が漏れそうになる。

 この場の警備を担当しているのは第一隊を始めとした各隊の精鋭なのだそうだ。だが、残念ながら私の知り合いである第七隊の姿はない。何故ならかの隊は、会場警備のような連携が重要となる担当は苦手としているからである。その反面、臨機応変な個としての動きは他の隊に引けを取らないので適材適所という事なのだろう。


「して。 開催開始の合図を下す前に、話さねばならぬ内容がある。 ……この場の一部の者は知っていようが、我らがレスプディアにとって二つ喜ばしい知らせがある。 その紹介をさせてもらおう」


 その言葉を合図に、閉められた会場の扉が開き、その奥から一人の少女が現れる。その髪は兄王子と同じく金色の輝きを放っており、自信満々に歩く姿は他の貴族達と比べても引けを取らない風格があった。

 迷うことなく王族の壇上へと上がったその少女は、先程の王子と同じく全体を見渡して可愛らしく笑みを浮かべる。


(……目が合った気がする)


 普段なら間違いなく気のせいだと判断する所なのだが、獲物を見つけたとでも言いたげな一瞬の目の光が嫌な程にそれを意識させられる。


「見ての通り、王の血を継ぐ我が妹君が九歳(三周歳)を迎え、今宵から社交の場へと参加する手筈となった」

「ご紹介に預かり参上いたしました。 存じ上げている方が多くを占めてますでしょうが、自己紹介をさせていただきますわ。 わたくしはディクタニア・エルリーン。 皆さまには懇願申し上げますわ」


 頭を下げずに深い礼を尽くす一連の動作を見せつける様にこなして見せる。直前に貴族動作の訓練をやったからこそ理解できる洗礼された一流の動作を見て、私の半分に近い年齢とは思えないし、この後を考えると緊張が走る。


「それともう一つ。 新たに貴族を、我が国に迎え入れる事となった」


 会場には僅かながら響きが巻き起こる。表立って知らなかったという態度を示す貴族は居ないが、私に関してはかなり情報を絞って広めていたとチェルティーナから聞いていた。


「(アヤリ様、出番ですわよ)」

「(わかってます)」


 私は言葉で背中を押され、王子達が立っている壇上の前まで到着する。だが、その段の上には上がらずに、後ろを振り返って多くの貴族に顔を晒した。


「この中にはこの者の顔に見覚えのある者も多いであろう。 先の闘技大会にて優勝を果たした異国の剣士、アヤリ・ハルミヤである」


 その言葉を皮切りに、動揺が会場全体に広がる。他国の、それも闘技大会に出場していた様な存在が爵位を得るという前代未聞な事象に驚きを隠せていない。


「この者アヤリは闘技大会に出場する為に腕を磨き、その際に会得した特別な剣技によってこの国である功績を得るに至った。 それは……知っての通り、病弱で床に臥せている我が弟を救って見せたのだ」

「……どういう意味ですか? 説明を求めます」


 貴族の中の一人がそう挙手する。それを聞き入れた王子が話を続けた。


「うむ、その弟、ラングリッドがある病に倒れた。 それは、完治不可能とされている影霧である。 これは皆も知っていよう?」

「影霧を治療したのですか? このアヤリ殿が?」

「である。 異国の卓越した剣戟によって病の元となる悪魔を斬り伏せたのだ。 アヤリが治療可能である重症化する前であったのが幸いして我が弟は一命を取り留めた」

「そのような事が……」

「殿下! 披露してもらえませぬでしょうか!」

「……それには患者が必要であろう。 都合よく準備できぬので今は無理だが、国内で発生したかの感染地帯にアヤリを向かわせる事で証明すると約束しよう」

「金輪際発生しなければ……?」

「それに越したことはあるまい。 仮にアヤリが存命中に発生しなかった場合は、我がその功績が真実であると保障する事で納得してもらう他なかろう」


 この一連の話全てが嘘っぱちである。実際の第二王子ラングリッドことグリッドは、元気に今日もランケットのリーダーとして活動している事だろう。特に今日の社交界に向けて大忙しである筈だ。

 この一芝居には、他の貴族が納得する功績が必要となる。その為に、引き籠りとして扱われているグリッドを出しにしてしまおうという計画であった。

 一応私が感染から広がる前段階であれば影霧を斬って完治させられるので、誤魔化しも効く。どの道影霧が発生したら手を貸して欲しいと言われているので結果は変わらないのだ。


「他に異存はないか?」


 王子が周囲を見渡して反対意見がない事を確認すると、本格的に社交界開始が宣言された。


「ではレスプディア王国第一王子、ディンデルギナ・エルリーンとして、ここに灼天の社交界の開催を宣言する!」


 その言葉を聞いてから、私はチェルティーナと居た位置へと戻ろうと歩き出した。その背中に強烈な視線を受けたまま……。


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