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第37話⑤ リスピラの気になる話


==(かえで)=快天の節・十六週目=エルリーン城・客室==


 私は怪我をして暫く療養していたリスピラが居る城へメグミと共に来ていた。


「もうへーきなの。 おさわがせしましたの」

「いえ、寧ろ向こうの世界に招待したにもかかわらず、危険な目に合わせてしまってすみません」

「それはだいじょーぶなの。 それよりちょっときになったことがあるの」

「気になった事ですか?」

「わたしをさらったひとともうひとりについてなの」


 実際あの出来事で出会ったお二方について判明していることはほぼないといって差し支えない。


「……因みにですが、攫ったほうは兎も角、もう一人については他の方に話していますか?」

「はなしてないの。 はなすのはだめだったの?」

「はい。 その方から他言無用と言われてますので、それを守ろうかと」

「そーだったの。 それならはなさないでおくの。 あのひとはわたしをたすけてくれたおんじんなの」

「助けた……。 やはりそうでしたか」


 私の予想と一致している。どうやら彼女らは敵対関係であったのは間違いないらしい


「そのひとたちはたたかってたの。 でも、わたしはつかまっててなにもみえなかったの」

「会話とかはしていませんでしたか?」

「してたみたいだけど、わたしはふりまわされてそれどころじゃなかったの」


 私が見つけた時には気絶していたので、激しい戦いだったのだろう。それにしてはもう少し情報がほしいのだが、彼女を問い詰めるのは筋違いである。


「そうですか……。 であれば、気になったというのは?」

「そーなの! えぇと、わたしをさらったひとがいなくなるときに、べつのところにつながってるとびらをひらいてたの」

「異世界転移していた、ということですか」

「ちょっとちがうの」

「違うのですか?」

「そーなの。 もともとべつのところにつなげるのはいっぱいちからをつかわないとなの。 でもそれをものすごくつかってたの。 じゅっこよりおおくつなげられるぐらいつかってたの」


 リスピラは両腕を広げて、いかに多くのエネルギーを使っていたかという表現を全身で表す。


「……十倍以上ものエネルギーを転移時に消費していた、という意味でしょうか?」

「そう、それがいいたかったの」

「それは、リスピラさんを攫った方がでしょうか。 それとも助けた方がでしょうか」

「わるいひとのはなしなの。 そのあとわたしはねちゃったからたすけてくれたひとはどうかわからないの」

「そうですか……。 情報ありがとうございます」

「どういたしましてなの。 わたしじゃよくわからないけど、あたまのいいカエデさんならゆーこーかつようできるとおもうの」

「……」

「あれ? ミズキさんがいつもあたまがいいっていってたけどちがうの?」

「……想定的かつ客観的に見れば、知能は高い方だと自負しています。 ですが、あまりそれを誇示するのは好きではありません」


 常々思っているが、自頭の良さや膨大な知識量は私という意識が間借りしているだけで、この体本来の記憶の持ち主の所有物だという感覚がある。なので、褒められても困惑の感情が嬉しさを上回ってしまうので素直に喜べない。


「カエデ。 あまり気にしない方が……」

「……わかっています」

「??? よくわからないけど、ドンマイなの!」


 リスピラと、今回の会話を傍観していたメグミに励まされる。

 私以外の人には話していないそうだが、メグミは他人の思考が朧げに感じ取れるらしい。だからなのか、他人同士の会話にはあまり積極的に参加しない。


 この後、他愛もない話をしてから城を出て戻った。


 ……


 マーク宅へと戻ると、家主であるマークから数時間前に春宮(はるみや)が探していた事が告げられる。

 その後はカティ宅を訪ねてみるも、入れ違いとなってしまって彼女の姿が見当たらない。


「どこへ行ったのでしょうか……」


 無暗に歩き回るのも非効率だと感じた私はマーク宅へと戻り、彼女が再度尋ねて来るのを待った。

 日も傾き、外が暗くなった頃、疲れ果てた春宮(はるみや)が訪ねて来た。


「はぁ……はぁ……。 お願いなんだけど、宿理(しゅくり)さんの課題を見せてもらえないかな?」

「それは構いませんが、クラスが違って担当教員が違う分は内容が異なりますよ?」

「え……。 みんな同じじゃないの?」

「はい。 Bクラスと同じなのは数学Ⅰと現代社会だけですね。 もしかして課題を終わらせていないのですか?」

「そうなんだよね……」

「新学期は明日ですよね」

「……」


 一応新学期初日は学校側の都合で午後開始で、式と課題提出のみである。


「それに、写すのは構いませんが、私は向こうに置いて来てしまっているので、今すぐには無理です」

「え……」


 今すぐ戻るのはステアクリスタルの使用可能時間の制約と六笠(むかさ)がこの場に居ないので、無理だろう。この時間帯では共に三人で戻る必要があった。


六笠(むかさ)さんの居場所はご存じですか?」

「……知らない」


 一応朝一で集合する約束はしているが、今現在方々にふらふらしている彼女の居所は行方知れずである。


「何故最終日まで残していたのですか? 性格から考えて六笠(むかさ)さんなら胸を張ってやってないと言いそうですが、春宮(はるみや)さんがやらないとは……」

「今まで夏休みの宿題は欠かさず毎日やってたんだけど、今回は立て込んでたから……」


 事実、彼女は忙しそうにしていた。だが、それも言い訳の範疇を越えないと私からすれば感じられる。


「……はぁ、わかりました。 手伝います。 私は自分でやった分は覚えていますし、メグミに手伝わせるのも勉強になりそうですから」

「本当!? ありがとう!」

「ですが、筆跡は真似れませんので、原則記載は自分で実施してください。 私は回答のみに徹します」

「それでも助かるよ。 ありがとう!」


 この後遅くまで時間を掛けて何とか終わらせることが出来た。最後の方は春宮(はるみや)のペンを持つ手が震えていたが、何とか完遂させた。

 今までの私なら、これを理由に秘密を探ろうとしていた所だが、六笠(むかさ)との約束もあったので止めておいた。


 誇らしげに「課題? やってないぜ!」と宣言する六笠(むかさ)と合流して日本へと転移した。

 うちの高校は進学校なので、彼女の単位が非常に心配であるが、それは彼女の問題だろう。


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