第37話② ドロップの才能と適性とレベル
会話がややこしくなってしまった。。。
==杏耶莉=快天の節・十五週目=マクリルロ宅・研究室==
マーク宅へと到着した私達はメグミに出迎えられた後、早速彼の研究室へと押し掛けた。
「まったくキミ達は……。 どうしてこうボクの邪魔ばかりするんだろうね」
「ごめん……。 でも、ドロップについて聞くならマークかなって……」
そして私は、前置きもそこそこにドロップの特性について尋ねる。ここまで私が思い立った直後に動いているのにはある訳があった。
「――ふむ、武器を生成するドロップには、その武器を扱う技能向上の副次的効果があるのか。 という意味かい?」
「うん、そう。 その可能性ってないのかな?」
私は剣を持ったどころか見た事すらない時点で、ある程度剣を扱う事が出来た。構えこそ散々駄目出しされていて矯正しているが、それでも初めての戦闘……あの路地裏でランケットの人と戦った際に、労せずに相手方の武器を斬り裂いていた。
「……キミはこの世界の常識にも疎いだろうから、順を追って説明するよ」
私が首を縦に振ると、マークは話し始めた。
「まずこの大陸で最も影響力を有しているノービス教では、ドロップは神から与えられた奇跡の道具であるとされている。 これは、かの宗教が初代勇者に力を与えた女神、ノービスに由来しているからなんだ」
どこかで聞いたので部分的には知っている。それに、実際に超常的な能力を発揮できるドロップが信仰の対象になるのは不自然な話でもない。
「少し話は脱線するけど、託宣のドロップはその名である理由もここに由来しているね。 その者に神から与えられし才能――ドロップの適性を発現させる事が可能だからね。 それを神のお告げ、神託であるとしているからなんだ。 比較的近年判明した託宣のドロップの副作用も、神の力を人の身に与えるには代償が……なんて言っていたりもしたかな」
「へー」
仰々しい名前の裏には、そういった背景があるらしい。
「それで先程の話しに戻って、副次的能力に関してだけど……はっきりとノービス教では否定されてる」
「え……」
「神の力のみに頼るべからずって教えがあるみたいだよ」
「そうなんだ……」
私は、当てが外れて思い切り落胆する。
「私は教会の教えとかは詳しくなかったけど、エスタルは知らなかったの?」
「出身の村には教会がありませんでしたので、詳しく知りませんでした。 私自身、ノービス教の信者ではないというのもあります」
「……この国の人間はノービス教と距離を置いているからね。 生活基盤に余裕があって、識字能力を始めとした知識が普及すれば自ずと宗教が及ぼす影響力は減少する。 この国はその最中にあると見て間違いないんじゃないかな?」
「あーわかるかも。 私の元の世界でも、昔は宗教の力が強かったって言うし……」
それでも、葬式や生死感では宗教との関係は切っても切れない関係にあるし、日本国外では宗教に関わる人の人数は決して少なくない。
「でもそっかー。 技能の向上みたいなのはないんだ……」
「ん? キミは何か勘違いしていないかい?」
「え……?」
「ボクはあの宗教団体の言葉を借りただけだよ?」
「それじゃあ、マークとしての見解はどうなの?」
「そうだね……。 ボクとしては副次的なものはあると思っている」
「それって……」
落ち込んだ感情がある程度回復してくる。
「うん、ドロップの適性の強さ――レベルに比例して身体的影響は少なからずあるだろうと踏んでいる。 だっておかしいだろう? 例えば何かを生成する際に生成物に対して体の一部である様な感覚になったり、そもそも生成出来る様になる事自体が普通ではない。 この世界の常識以外を知っている者からすれば奇異の目でみるのは当然だろう」
「……確かに」
「それなら、ドロップの効果が残っている間は技能面にも影響が出ていても何ら不思議ではないと思わないかい?」
マークの言葉を要約するなら、ドロップにはそれに対応した技能も授けられる可能性がある。けど、世間的にはそれが認められていないという事なのだろう。
「……キミは忘れているだろうけど、適性と訓練の影響を調べる手伝いを以前してもらっていたよね?」
「そういえばそんなのもあったね」
「そんなのって……。 まぁ、そこである程度判明した内容に憶測を含めればこうなるかな。 例えその技能に関する経験がなくても、その人に応じたドロップのレベルは生まれた時より定められている。 ドロップを使う際とそれ以外では秘められた才能をある程度引き出しているんだろうね。 それで……例えばキミの場合、剣を扱う技能は普通に訓練しても身に付くけれど、ドロップを介してやった時はその感覚をより身に着けられたんじゃないかな?」
「それはあるかも……」
実際に私は、早い段階で剣の基礎動作を覚えられていた。物覚えも運動神経も良いとは言いづらい自分があれだけ早熟だったのはそれが手伝っていたと考えられる。
「そして、逆に技能を伸ばせられればドロップのレベルもある程度伸びる。 それがどこまで伸びるかは人それぞれだろうけどね。 折角だから久しぶりにキミのレベルも調べるかい?」
「……そうだね。 折角だし調べようかな」
そうして適性測定器改め、レベル測定器を使って私を調べる事になった。
別に私達の会話での名称は変化していないが、日本語で会話をする際や心の中で表現する時の名前を変えた。命名は瑞紀である。
……
「よし、結果が出たね」
「見せて? ……えぇと、前はどうたったか忘れた」
およそ三年前に見たと思われるモニターに映し出される情報を見るが、変化があるかがわからない。
少なくとも、剣のレベルが高かったのは記憶しているが、七という数字が高いのかどうかの判断ができない。
「自分のレベルでも、せめてよく使うものぐらいは覚えておいてほしいんだけど……。 以前は四だったから相当な技術向上なんじゃないかな?」
「あ、上がってたんだ。 じゃあ、それって良いペースなんだね」
「……良いペースどころの騒ぎじゃないよ。 人の一生を掛けてようやく到達出来るであろう値が五という想定だったのに、それを大きく上回っている。 キミ達の世界は一体全体どうなっているのか不思議でならないね」
「……そう言えば、瑞紀も宿理さんも高いって話だったね」
瑞紀も宿理も最も高い適性は六レベルだった筈である。唯、私は他二人と比べて全体の適性のあるドロップの量が少ないので、一概に優れているとは言いづらいのであるが。
「念のため、エスタルも測ってもらって良い?」
「え、私ですか? 構いませんが」
同じく測定器を動かす。しばらくして表示された結果は、殆どが完全に零で、ごく一部は一に満たない程度。レベルが一へと到達しているのは水のドロップだけであった。
「……アヤリ様の結果を見た後では、自身をなくしそうな結果ですね」
「いや、普通それぐらいの年齢なら一に満たないのが当たり前だよ。 その中で二に迫る勢いがあるだけ秀才と呼べるだけの能力はあるんだ。 それより異常な彼女らと比べる事自体が間違いだからね」
「はい、ありがとうございます。 マクリルロ様」
「異常って言われた……」
余談だが、使用人であったり、家庭の水場を担当する主婦を始めとした女性は水の適性を有している事が多いらしい。
およそ三年メイドとして働いていた彼女の頑張りが実を結んだのだろう。




