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第5話④ 騒動の予兆


==杏耶莉(あやり)=社交界会場・玉座前==


「それでは、(わたくし)達はそろそろ失礼させてもらいますわね」

「うむ、良き話ができた。 アヤリも何か困りごとがあれば相談してくれ」


 スカートの左右を摘まむ挨拶をチェルティーナと共に行う。


 低位置へと戻った時点で、チェルティーナに先程まで話をしていた王子について詳しく聞いてみたいと思っていた。


「今の王子様って第一王子ってことは、ゆくゆくは王様になるんですよね?」

「確かに第一王子は継承権は上ですが、であるから王位を継げるというわけではありませんわ。 ただ、ディンデルギナ第一王子殿下に才覚があり、他の御兄弟様達が継承の意思を見せておりませんのでその認識で間違いはありませんわね」


(兄弟か……、継承争いとか面倒そうだよね)


「やっぱり兄弟は居るんですよね。 あの王子様以外にどんな人がいるんですか?」

「現在の王族は国王様と第一王妃様、それ以外は王子が御二方に王女が御一人ですわ。 どちらもディンデルギナ殿下より年下ですわね」

「……ここには居ない弟と妹がいるってことですかね?」

「そうなりますわ。 ですが、王女様はまだ表立つ年齢ではありませんし、第二王子殿下は……その、外に出ない主義ですの」


(引き籠りかぁ……)


 彼女は間をおいて言いにくそうに第二王子のことを話す。


「……一応理由はありますわ。 他のご兄弟と違って第二王子殿下は、今は亡き第二王妃様が母親ですの。 城内で数少ない味方を亡くして悲しんでましたわ……」

「そうなんですか」


 その経緯と聞くと可哀そうではある。

 しかし、正直な話をしてしまうと、交流予定のない第二王子に興味はなかったので第一王子の話題へと戻す。


「とはいえ、あの王子様は何でわざわざこの社交界に呼んだんですかね? 一応謝られましたけど、何だか扱いに困ってそうでしたし」

「え……?」

「え?」


 一瞬『きょとん』としたチェルティーナはすぐに表情を戻す。


「何で今驚いたんですか?」

「……何でもありませんわ」

「何で、今、驚いたんですか!?」


 同じ言葉を繰り返して問い詰めると、観念したようにその理由を話す。


「…………伏せておくように言われてましたが、実は今回アヤリ様をお呼びしたのはディンデルギナ殿下ではなく、第二王子ですわ」

「何で……?」


 引き籠りの王子に呼び出される訳がわからない。当の本人はこの場に来ていないし、私自身面識がない。


「というか、それ言っちゃってよかったんですか?」

「それは構いませんわ。 あくまで可能なら伏せるようにとのことでしたの。 それに、(わたくし)はアヤリ様を騙すようなことはしたくありませんわ」


 そう話す彼女は、手で口を隠しながら上品に笑った。


 ……


 チェルティーナが他の貴族を対応したり、王子への挨拶回りを眺めていると、明らかに目立つ騎士の男性が私達の方へと真っ直ぐに向かってきていた。それは、騎士の鎧では隠し切れない体格の中年男性であった。


「チェチェ!! 大事ないか!!!」

「声が大きいですわ、叔父様」

「ワシはお前が心配でな!!」

「見ての通り何事も起きておりませんわ」

「だがな……貴様はだれだ!!!」

「うえっ!?」


 突然大声の矛先がチェルティーナから私へと向けられる。


「アヤリ・ハルミヤ様ですわ、叔父様。 昨日お話したではありませんの」

「……そうであったな! アヤリ殿、ワシはルヒオルド・レスタリーチェ。 チェチェの叔父にあたる者だ!!!」


 ルヒオルドは、腕を組んでドヤ顔で自己紹介をする。そういえばチェルティーナも初対面では同じことをしていたのを思い出す。


(レスタリーチェ家ってみんなこんななのかな?)


「叔父様は騎士団の第六隊副隊長ですの。 で、叔父様? 本日第六隊は城内北部担当でしたわね? 何故この会場にいるのかしら?」

「うぐ……それはだな、チェチェが心配でだな……」

「叔父様、副隊長が突然場を離れると、現場の指揮系統に支障がでますわよね?」

「だが、ダルクノース教の動きがだな――」

「お、じ、さ、ま?」

「解かった、直ぐに戻る!! 邪魔をしたな、アヤリ殿!!!」

「は、はい」


 嵐のように現れて、去っていったチェルティーナの叔父を見送る。


「叔父様には困ったものですわ……」

「チェルティーナさん、ダルクノース教って何ですか?」

「……それについて説明するなら、まずはノービス教についての説明が必要ですわね。 ノービス教について知っていますの?」

「少しぐらいなら――」


 教会で講義を受けたことについて簡潔に話す。


「……基本的な部分についてから説明しますわね。 ノービス教とは、ノーヴィスディア聖王国を聖地とし、ドロップを人知を超えた神の力として崇める宗教ですわ」

「ドロップを……ですか」


 私の感覚でも、噛むだけで特別な能力を発揮できる魔法のアイテムだが、それを軸とした宗教があるとは考えていなかった。


「ノーヴィスディア聖王国はレスプディア(我が国)から見て南東に位置する国ですわね。 南にドレンディア共和国、東にギルノーディア帝国がありますので、直接面しているわけではありませんけれど」


 国の名前が幾つも出てきて混乱しそうだが、まとめると以下になるのだろう。


 今いる国がレスプディアで、北西に位置する。

 北東の国がギルノーディアで、レスプディアと冷戦状態。

 南東の国がノーヴィスディアで、ノービス教の総本山。

 南西にドレンディアという国がある。


 それ以外の要素については分からない。地理が苦手なので、あまり興味もなかったりするのだが。


「それで、そのノービス教の信仰に異を唱える集団がダルクノース教ですわ。 元はノービス教だった方々から派生して誕生したと聞きますが、その実態はよくわかっておりませんの」


 実態はわからないとのことだが、先程の叔父の扱いから良い団体であるとは思えなかった。


「ルクノース教の動きどうとか言ってましたが、それはどういうことですか?」

「……少なくとも、かの団体は現状のノービス教でのドロップの扱われ方や、この国でのドロップの利用方法に不満があるみたいですわ」

「利用方法」

「アヤリ様も使っていたではありませんの。 ドロップ製品のことですわ」

「……あれのことですか」


 ドロップを燃料とした家電製品のことであった。マークの家には一式揃っていたことと、日本での物とそこまで差異がなかったので意識していなかったが、この世界の文化的にオーパーツである。


(技術レベルが違いすぎる……。 あれを研究の副産物として作ったっていうマークって一体……)


 そう考えていると、ある一つの仮説が思い浮かぶ。

 常識不足であり、明らかにこの世界基準を超えた技術品を生み出せる知識。もしかするともう一人の異世界転移者は……、マーク?

 それなら、何故そのことを話してくれなかったのだろうか?そうしなければならない理由が――


「アヤリ様?」


 思考を巡らせていると、無言になった私を心配したチェルティーナに声を掛けられる。


「……何でもないです。 それで、そのルクノース教はどうしたんですか?」

「それが、この社交界を襲撃するのでは? という噂がなされてますの」

「襲撃……」


 ようやく、私はとんでもない何かに巻き込まれてしまっていたことに気が付いた。


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