表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

184/341

第35話② ノーヴスト大陸の歴史


==杏耶莉(あやり)=快天の節・十二週目=レスタリーチェ家エルリーン別荘==


 まだまだ私はチェルティーナの下で勉強を続けていた。


「それではこの国……いえ、この大陸の大まかな歴史について教えますわね。 手始めに――」


 そうして、私はノーヴスト大陸に関する一連の話を受けた。


 まず群雄割拠な時代を経て何代にも渡る壮絶なノーヴスト統一戦争を経てノーヴィスディア聖王国が建国された。

 それ以前の資料の殆どは建国と同時に誕生した今も残る宗教、ノービス教の教えや弾圧によって殆どが失われてしまったのだという。

 一応この国にも以前の時代に関する資料はあるのだが、かの宗教で禁忌とされるのもあって厳重に保管されて持ち出せない。チェルティーナは大雑把な事であれば知っているそうだが、今回の話には一切関わらないので端折られてしまった。


「……ノービス教ってそんなに昔からあるんだね」

「そうですわね。 ですが、中心となる考え方を除けばその時代や文化の移り変わりに際して教えは日々更新されていますわ。 今と当時とで別の宗教であるなどと称する学者が存在する程度には柔軟である部分は美点なのでしょうね」


 そんな統一国家であったが、その安寧は数代も世代が入れ替われば異を唱える者も現れる。

 教団の一部には立場や権力を以って教えとは真逆の行為に手を染める者が現れたのもあり、大陸全体が分裂する程の内乱が勃発する。

 当時の大司教の名を取って、ルーメグヌスの雫と呼ばれるその戦争で大陸西側のおよそ半分が独立。ポルソディア連合国家が生まれた。


「……今はそのポルソディアって国、存在しないよね?」

「その通りですわ。 レスプディアの前身とも呼べる国ですが、今のレスプディアとは正反対の道を進んだ国でもありますの」


 だが、連合国として共通の敵であるノーヴィスディアから独立すれば、その権力を欲する者も現れる。

 独立直後に内乱が勃発し、その結果ポルソディアの南側は再度分裂し、ドレンディアとなった。


「今までノービス教の信徒であった多くの民からすればポルソディアの審問は耐えられぬものだったのでしょう」

「ドレンディアも結構昔からあるんだ」

「えぇ。 ですが、今と比べればその領土は半分もない小国でしたわ。 その話は追々しますわね」


 そうしてポルソディアが誕生したが、それを見ていたノーヴィスディアでも動きがあった。

 大陸北東は作物が育ちづらい厳しい土地であり、どれだけ祈りを捧げても収穫量は増えず、それに耐えかねた者達によって反ノービス教の動きが発生する。

 当時は国として認められなかったものの、現代では国として区分されるギアース独立国がこの時代に宣言もなく生まれ、その勢力は北から南へと徐々に広がってゆく。

 ギアースは、大陸北西の豊かな土地を求めてポルソディアへと日々小競り合いを起こしていたらしい。何度か大戦にも勃発していたのだそうだ。

 その様子を見かねたノービス教からすれば目の上のタンコブであるギアースは、外交問題にも発展しかねないとして独立を促した。

 そうして誕生したのが、現在まで続くギルノーディア帝国だという。


「――とは言っても、当時帝であった血は一度途絶えていますわ。 初代皇帝がギアースの首領であったのですが、潜在的に子が生まれづらい血だったそうですの。 それで、結局どこかの代で何とか生まれた皇帝が子を成せずに別の貴族の者が継ぐ事になったらしいですわ」

「へー」


 元々ノーヴィスディアから派生した国というのもあり、ギルノーディアにはゴルドゥノ教なる宗教が存在したという。現在はその所在は希薄となり、消滅しているとの見解らしい。意外とその宗教は国の裏で暗躍しているのかもしれない。

 時を同じくして、ドレンディアでもネンマー教という宗教が生まれたそうだ。だが、紆余曲折あってノービス教に吸収合併されているので現在は存在しないらしい。

 その後もポルソディアがドレンディアへと戦争を仕掛けて返り討ちに遭い、それを見ていたギルノーディアが今度はポルソディアへと戦争を仕掛けたが、それは双方多大な犠牲を出した痛み分けで終戦したという。


「ポルソディアとドレンディアの争いが地名から取ってエリムの丘戦役。 ギルノーディアとポルソディアの戦争がイーグスヘイド平野の戦いと呼ばれていますわね。 当時は地名を名前に使うのは流行っていたのではという話を聞きましたわ」

「……関ケ原の戦いとかの感覚なのかな? それにしても小国なのにドレンディアが負けないなんて凄いね」


 エリムの丘戦役では勝ち負けこそなかったものの、次なる戦準備を恐れた当時南部を仕切っていた貴族がポルソディアから離反して、領土の多くを土産にドレンディアへと鞍替えしたという。

 こうして領土を得た上に、ノーヴィスディアとも国交が盛んであったドレンディアはめきめきと力を付けていった。


「――そして、ドレンディアへの離反を見ていた他の貴族も旗色を気にしたのでしょう、このままでは駄目だと。 そうして、ポルソディア内で革命が起こり、現在のレスプディアが建国されたのですわ」

「やっとレスプディアですか。 ノーヴスト大陸四大国の中では新参なんですね」

「……そうですわね。 国としての歴史は他国と比べれば浅いというのは否定できませんわ。 ですが、今現在最も優れた国であるという事実は揺らぎませんわ!」


 新参などと言っても、レスプディア建国からもう三百年は経っているのだそうだ。

 その後も、レスプディアになって早々、ギルノーディアから襲撃を受けて戦争となったが返り討ちにしたらしい。

 だが、終戦宣告の後、僅か二十年程で再度戦争となり、現在も続く冷戦状態に以降しているという。


「……未だに、国境付近では小競り合いは絶えませんわ。 あくまで我が国は防衛に徹してますが、向こうの気分次第で血が流れる現状はどうにかしたいものですわね」

「……」


 緊張状態にある両国では、些細な切っ掛けで本格的な戦争に移りかねない状態が長く続いていると彼女は話す。


「平和な世の中にする。 それが(わたくし)達、貴族の責務ですわ」


 そう答えるチェルティーナの横顔は、私と同じぐらいの少女とは思えない、真っ直ぐな信念のある強い貴族の顔だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ