第34話⑭ 闘技大会を終えて
==杏耶莉=快天の節・十一週目=エルリ―ン城・応接室==
闘技大会を終えた翌日。私と瑞紀、宿理にカティが第一王子によって集められていた。
「では、誓約書に書かれている通り、我が立場を利用したアヤリへのアプローチはしないとここに誓うものとする」
「……あぁ」
「だが、あくまでこちらからはという意味であり、当人の希望の是非には囚われぬ事は理解してもらうぞ」
「……」
王子の言葉に、渋々ながらもカティが返事する。今の話は王子から求婚はしないけど、私自信が王子の事が好きならその限りではないという事らしい。結婚どころか誰かと付き合った事すらない私からすれば実感はやはりなかった。
「して、あくまでこの誓約書には求婚に関する内容は記載されているが……、どうやら我はアヤリが爵位持ちになるかどうかについて記載し忘れたらしい」
「……は?」
したり顔で王子はカティにそう呟いた。言い方からして恐らく記載漏れではなくわざとだと思われる。
「であれば、この国の為に是非ともアヤリには爵位を得てもらいたいと思うのだがどうだろうか」
「は、話が違うだろ!?」
王子の言葉にカティは立ち上がって講義する。
「いや、話は違わないな。 あくまで誓約書に沿った約束はしているが、それとこれは違うのではないか?」
「だがな――」
「別に構わんだろう? 我は立場を利用してアヤリをどうにかはできぬのだ。 其方の懸念はなにもなかろう」
「……」
「なはははは! つまりカッちんは嵌められたんだな! こりゃ傑作だな!」
傍から見ていた瑞紀がカティを指差して大笑いする。
「おいミズキィ! お前は反対してただろ!」
「……いーや? わたしが反対だったのはあくまでこの王子様がアヤリを手籠めにするのがって話であって、べっつに貴族どうこうってのはどっちでもいいな。 寧ろアヤリが貴族になってくれりゃあ、友人の好でその恩恵だけ受けれそうだし、この話ならわたしは賛成だぜ!」
「おまっ――」
「うむ、ミズキは意外と話が分かるものだな。 して、当人の判断を仰ごうではないか」
「え、私?」
話の引き合いに出された私はじっくりと考える。
(貴族……ね。 別に私はどっちでも良いんだけど……)
前回の話し合いから引き延ばされてしまった返答であるが、改めてじっくり考えてみる事にする。
「宿理さんはどう思う?」
「……そうですね。 アヤリさんの人脈から考えてみるのは如何でしょう」
「私の人脈……?」
「例えばですが、騎士の方の中には爵位を持っている方が居ますよね? そうした方々と一応対等になると考えれば良いのではないでしょうか?」
「……別に私が貴族じゃなくても普通に接してくれてるから何も変わらないよ」
「ではチェルティーナさんはどうでしょう? きっと春宮さんが爵位持ちになれば喜ぶのではないでしょうか」
「……そうかもしれないけど、そんな理由で良いのかな? きっとそんな気軽になるものじゃないと思うんだけど……」
それよりも宿理は貴族になる事に対して賛成なのだろうか?
「それに仕事とかも出来ないよ? 長くても基本的には週に二日しかこっちに居ないし……」
「それは構わぬ。 どの道他の爵位持ちと同じ扱いは出来ぬと申したであろう。 具体的には何らかの行事に参加してもらう程度だ。 その都度報酬として賃金を渡す雇われ貴族みたいなものであるな」
「……それぐらいなら別になっても良いのかな?」
「アヤリ……」
カティの悲しそうな声も空しく、私は爵位を賜ることになった。
……
早速とばかりに私が爵位を得るのに対する準備や手続きを進めていた。
「――居住はカーティスの物で構わぬと……。 それで本当に良いのか?」
「はい、構わないです。 別にあの家で不便はしてませんし、広すぎる屋敷なんて貰っても管理できませんよ」
「……屋敷の管理は使用人に任せれば良かろう?」
「雇うお金はどこから出るんですか……」
もっともな疑問に、王子は考える素振りをする。
「うむ、あれは後程でよかろう」
「……?」
「一応特別扱いとは申したものの、其方らを公には出来ぬ。 立ち居振る舞いはチェチェに頼むこととなっておるから教えを乞いでおけ」
「はい」
「……やるべき事は多いぞ。 本当に大丈夫なのか?」
「……多分大丈夫です」
「はぁ……」
その後の手続きも事前に準備していたらしく、とんとん拍子で進められた。
適当な部分も多かったからか、他の人に呆れられてしまった。これから勉強すべき事の多さに僅かならず後悔していた。




