第34話⑬ 決着!闘技大会優勝
==杏耶莉=快天の節・十一週目=闘技大会会場・中央==
「おーっと!? アヤリ選手、何もない所で転んでしまった! 初めて膝を付く形となってしまったがどうなる!?」
実況のアナウンスによって視界が回転してどんな状態になっていたのか把握できなかったが、自分が横向きに倒れていたことに気が付く。
「あー痛てて……。 ――っと、これは……」
足元に引っかかった何かを見ると、それは細い糸らしきものであった。
「鉄糸、つまるところ鉄製の丈夫な糸だな。 それを忍ばせて転ばせたんだ」
「……まったく、尻餅ついちゃったじゃん」
得意げな割に警戒しているのか近づいてこないカティを気にしつつ、私は立ち上がった。その際に鉄糸は剣で切断している。
「追撃しないの?」
「……あぁ。 狙いは時間稼ぎだからな」
「時間稼ぎ……」
確かに私の剣は他と比べて燃費がすこぶる悪いらしい。特に何かしらを斬っていると早々にエネルギーが尽きてしまう。
それでなくてもドロップの前に尽きてしまいそうな程にスタミナのない私に対してであれば、どの道時間稼ぎが最も的確な戦い方であるかもしれない。
「んじゃ、行くぞ――」
「おっけぃ。 もう同じ攻撃は食らわないから」
カティは鉄糸を張り巡らせて私への牽制をしようと試みるが、私は片っ端からその糸を断ち切っていく。
「チッ……!」
「舌打ちは品がないよ――」
カティはステージを広く使ってかき回すが、それでも私はじりじりと剣が届く距離へと詰めていく。
「……うーん、ていっ!」
「――うおっ!」
なんとなく剣の残エネルギーが少ないと踏んだ私はカティ目掛けて剣を放り投げる。直撃すれば刃に触れた部分からスライスされる必殺の一撃にカティは僅かに怯む。
「――捉えた」
私はその隙を逃さずに一気に距離を詰める。そして、追加のドロップを口の中で『パキッ』と音をさせて砕く。近づきながらも剣が持てる状態で構えた手へと武器を生成させると、そのまま横に大きく振った。
「く、そっ!」
カティは悔し気に何かをディートすると、垂直方向に飛び上がった。
「えっ……」
「はぁ……。 これは本当に貴重なドロップだったのに、まさかアヤリ相手に使うことになるとは……」
カティの背中には二つの翼が生えていた。純白の天使の物というよりは、森に住んでいそうな極彩色な緑色の羽がびっしりと付いている。
「飛んだー!!! カーティス選手、なんと空中へと空を飛びました!!! このような事象を引き起こすドロップが存在して良いのでしょうか!!!」
実況も大盛り上がりでカティの様子を讃えている。人一人が自由に空を飛べるというのはどんな世界でも共通の願望なのだろう。
(少し前に飽きる程翼のある種族と出会ってなければ、もっと感動があったんだろうけど……)
私からすれば、飛んだという事実のみでは然して驚く事象ではない。だが、この場に観戦に来ていた多くの観客からすれば凄い事なのだろう。指差して喜ぶ様子や、あんぐりと口を空けている人も居た。
「んじゃ、行くぞ――」
カティのそんな言葉と共に、何本もの鋭く尖った羽根が私目掛けて飛ばされて来る。
「うっ……」
点や線の攻撃に対する対処であれば剣術でどうにか出来る。だが、面の攻撃に対してであれば、剣一本しかない私は無力であった。
対するカティは遥か上へと飛び上がっている。だからこそ、降り注ぐ羽根の雨をなすすべなく耐えるしかなかった。
「うぅ……」
「……」
それでも殺し合いではなく試合だからなのだろう。カティは的確なコントロールで手足へと狙いはするが、頭や胴体といった急所になり得る地点には一度も当たらなかった。
(――痛い。 痛い痛い痛い!)
一撃の重さは注射針か運悪く神経に当たった蚊程の痛みである。 だがそれが手足の至る所へと命中すれば痛みが弱い訳がない。
そうしてカティはあれだけの連撃をしたのもあって、空中へと上がってからそう時間を置かずに地上へと戻って来た。足を付けた瞬間背中に生えた翼は消え去り、傍から見れば酷く痛々しかったであろう私の体中からも羽根は消え去った。
「……降参、するか?」
流石にやり過ぎたと感じたのだろう。手を指し伸ばしてそう促すカティが見える。
「――んか」
「え?」
「誰が降参するもんか!」
激しい痛みからか視界が黒色に染まったが、それでも尚、カティを見据えて私は剣を取った。
「ぐうっ!」
「ちょっ――」
無我夢中で私は剣を振る。剣の型とか防御とか……。そんなものはかなぐり捨てて唯ひたすらに目の前のカティ目掛けて剣を振る。
(もっと早く、もっと。 もっともっともっと早く!!!)
カティが何かの攻撃をしてきた気がする。だが、私は構わす剣を振る。
前に出した足は感覚を失い、縦に振り上げた腕は激痛を伴うが、それでも私は剣を振る。
ドロップのエネルギーが潰えた気がして、懐から追いドロップをした後は、もう一度剣を振る。
誰かの声が聞こえた気がして、その直後に何かが崩れ落ちた音がした直後、黒くなっていた視界がはっきりと見えた。
「勝者! アヤリ選手!!!!! 猪突猛進で一歩も引かず、多様なカーティス選手の攻撃をも退けて、今年の優勝を果たしました!!!」
「「「わああああああああああああぁぁぁぁ!!!!!」」」
その瞬間、私の目の前に気絶していると思わしきカティの姿があった。どうやら、私の剣の打撃によって気絶したらしい。
「きゅう~」
「あ……あれ?」
大歓声の響く闘技大会会場の中心で、只々私は不思議そうに佇んでいた。




