第34話⑫ 闘技大会決勝
==カーティス=快天の節・十一週目=闘技大会会場・控室==
準決勝の長期戦を終えて、控室へと戻り一呼吸付いた頃、先程対戦していた第一王子ディンデルギナが現れた。
「すまなかったな。 途中から劇に突き合わせる結果となった」
「あぁ……。 アンタの立場を考えれば、素顔を晒せば通常通りに試合が出来るとは思ってなかったからな。 寧ろ顔を露にさせた俺にも責任がないとは言わないしな」
「……うむ、そう言ってもらえると助かる」
俺が直接的な攻撃を出来なくなったのと同時に、殿下も攻撃の手を緩めていた。そうでなければ流石の俺でもあの時間を稼いて消耗させるのは殿下の能力からして無理であるし、察しの良い彼がドロップが底を付く直前まで気が付かないなどという事態にはなり得ない。
事前に裏合わせをしていた訳ではないのだが、自然とあの様な顛末へと導かれた。
「だが、良かったのか? 事実として十回本気でやり合って全部勝てると自信がある程アンタは弱くないし、試合開始時点では勝ちに来ていたのは事実だろ? 大会の結果として負けになるって筋書きだからって、あの制約書を反故にする腹積もりだったりすんのか?」
「……いや、約束は果たす。 どの道あの氷の一撃でほぼ勝ちはないと悟っていた。 全く……今代の勇者は容赦という言葉を知らぬらしい」
「そりゃそうだろ。 アヤリの今後が関わってるんだからな」
「それにしたって、重力操作はやり過ぎではなかったか? あれは貴重な品であるだろう」
「知るか。 俺にとってはアヤリの将来の方が高々ドロップ一つなんかよりよっぽど大事だ。 それは肝に銘じておけよ」
「……うむ、相分かった。 必ず、あの誓約書に書かれた内容を厳守すると女神ノービスの名に誓おう」
「なら構わない」
実際問題、俺としてはそこさえ守られるのであれば闘技大会の勝ち負けなどどうでも良いとさえ思えてくる。
「では、失礼するぞ。 物言い顔の家臣を振り切ってこの場に来ておるのでな」
「……俺は悪くないからな」
控室から退出するや否や、全速力で走り出した足音を聞きながら、長期戦で披露した体を少しでも休めようと椅子の上に横になった。
==杏耶莉=快天の節・十一週目=闘技大会会場・控室==
「それではアヤリ選手、入場をお願いします」
「はいっ!」
私が会場の中央へと進むと、全開の声援や拍手で出迎えられる。
「アヤリ選手はここまでに一度も膝を付くことなく数太刀で武器を切断しここまで勝ち進んできました他国の剣豪でございます! ですが、相手は多種多様なドロップの使い手。 どう勝ちを得るのか楽しみですね!」
「「「わあああああああああああぁ!!!」」」
(そこまで大層な存在じゃないんだけど……)
照れを感じなくはないが、人前に立つのは苦手ではない。それに、ここまで期待されるなら応えたいものである。
「対するはあの殿下との接戦を経て辛くも勝利を収めたカーティス選手です! 殿下に勝利した分、是非とも優勝して貰いたいものです!」
「「「わあああああああぁぁぁ!!!」」」
(あ、王子バレちゃったんだ……。 でもカティが勝ったんだね)
私の将来がどうとかという話は、途中で面倒になってしまい、結果的に彼らに押し付ける形となってしまった。他人の事より自分の事を気にすべきだと母からも言われた事があった。
「……久しぶりだな」
「……別に顔は合わせてたでしょ?」
「いや、こうして面と向かって話すのがだな……。 最近は訓練に忙しくて話せなかっただろ?」
「まぁ、そうだけど……」
そうなのだ。あの依頼を手伝って以降、この方一度もカティとまともな会話も出来ていないかった。
「……よし! これが終わったら落ち着いて話しよう?」
「そう、だな! そうしよう!」
そうして私とカティは距離を取って所定の位置に付く。
「どうやら、今年の決勝は知り合いである様子! 相手を知っているからこそ見られる戦いを期待したいものです! それではアヤリ選手対カーティス選手……レディー――ファイッ!」
私は勿論剣をディートして、カティは何らかの物をディートする。
当然私は近接戦闘しか出来ないので一気に距離を詰めて駆け寄る。私の剣の威力を知っているカティはそれを受けるつもりもないらしく、雷撃を放って牽制する。
「――邪魔!」
「っ! やっぱそれ反則だろ!」
私は放たれた非物質である雷撃を斬り裂いて攻撃を退ける。勢いそのままにカティへと刃を向けずに剣をフルスイングした。
「ていっ!」
「――くそっ」
カティは足に纏わせた雷を走らせて、迅雷の速度で距離を取る。
「……そんな事できるんだ」
「まぁ、な。 慣れるまでは足首が千切れるからおすすめはしないぞ」
「えぇ……」
距離を取ったは良いものの、制御の難しさだけでなく燃費も悪いらしい。早々に次のドロップを取り出してディートしていた。
現れたのは石火槍だった。そんな石火槍を構えたカティは手早くその筒の先を構えると、私目掛けて石を発射した。
「――はっ! そういう小さいのを飛ばされると斬りづらいから止めてほしいんだけど」
「……そう言いつつも的確に小さな石を斬り弾いている奴の言葉じゃないだ、ろ!」
私が不満を口にすると、それに返答する形で文句を言いながらも、消失生成を繰り返して投石を続ける。私はその飛ばされた石を左右に斬りながら着実に距離を稼ぐ。
「チッ! それなら――」
カティは石火槍での攻撃を諦めて、ディート後に見えない何かを生成すると、私の周囲を回るこむように回転し始めた。
「……何のつもり?」
「ま、ちょっと待ってろ、よ!」
その言葉を聞いた直後、私は足を引っかけられて盛大に転んだ。




