第34話⑪ カティの狙いと殿下の全力
==楓=快天の節・十一週目=闘技大会会場・観戦席==
一度中断された闘いを再開させるべく、両者距離を取ってからの再開となった。
「……」
「来ぬのか、ではこちらから行くぞ!」
戦斧を持って攻撃を放つが、それに対してカティは攻撃を防ぐのみで攻めあぐねていた。
「とても、やりづらそうですね」
「……ま、わたしは何となくこうなるだろうって予測してたけどな」
「……本当ですか?」
「……」
突如予見していたと口にする六笠は置いておき中央へと視線を戻した。
元々カティは相手が殿下であることは知っていたが、観客や騎士の目が気になって動きが鈍くなっていた。
「どうした!」
「――っ、うるせぇ!」
直接的な攻撃はできず、戦斧を弾いて凌ぐのみで何度も打ち合いをしたのちカティは距離を取った。
「それで終いか?」
「黙って待ってろ」
どうやら槍のドロップの残エネルギーが尽きたらしく、彼はポーチから別のドロップをディートする。
「貴様! 殿下になんて口聞きを!」「身分を弁えろ!」「調子に乗るなよ!」
「黙るのは其方らだ!」
観客や騎士のカティに対する罵倒を殿下自ら止めさせる。
「済まぬな」
「……本当だよ」
カティは分銅鎖を生成すると、意図的に殿下の戦斧を狙って振り回す。
「ぐっ……」
「貰った!」
鎖を巻き付けて戦斧を引っ張ってからそれを奪い取った。
「やるな。 だが無駄なことを……」
「……」
ドロップで生成した武器はエネルギーが尽きるまでは再生成しなおせる。
もう一度同じようにカティは分銅鎖を振り回して生成しなおした戦斧を奪う。
「だから無駄だと言っておろう!」
殿下は追いディートして戦斧をもう一度生成しなおした。
「時間稼ぎのつもりか?」
「……そんな所だな」
そうして直接殿下を狙えなくなってしまったカティは本格的に武器だけを狙い始めた。
同じように武器を奪ったり、時には戦斧を直接破壊しようと試みたりしていく。
その度に殿下は武器を再生成させたりディートして、隙を見つつカティへと反撃する。
「当たらぬか」
「……次!」
そんな攻撃もカティは難なく回避して、またドロップをディートした。
……
「でりゃっ!」
「むっ……」
もう長い時間カティは様々なドロップを駆使して殿下の戦斧を奪い取ったり破壊したりしていた。
実際はそこまでの時間は経過していない筈だが、体感で数時間は戦っていそうだと感じる濃密な戦いが繰り広げられている。
「不必要に試合を長引かせてなんになるの、だ……はっ!?」
再生成が無理だと判断した殿下であったが、ドロップを取り出そうとした所で何かに気が付く。
「其方、まさか……」
「ちっとばかし気付くのが遅かったみたいだな」
どうやらカティは直接攻撃が出来ないアウェーな状態であることを鑑みて、殿下のドロップを付きさせる方針で動いていたらしい。
武器を破壊するよりも、奪い取って再生成を促した方が消費するドロップのエネルギー消費量は格段に上昇する。
「おのれ――」
残り少ない攻撃のチャンスを逃さぬべく、殿下は先程より焦った様子で戦斧を振るう。
それを見越していたのか、カティは今度は回避に専念して、次々と迫る刃を掻い潜ったり、生成していた大槌で防ぐ。
「き、汚ねぇぞ!」「それが男のする事かー!」「卑怯者!」
「お前らが攻撃しにくくしているからわざわざこんな方法を取ったんだろうが!」
この国に属し、王族への敬意がある国民と、それと真っ向から戦いざるを得なくなったカティ。その両方とも違う視点で観戦している私からすればカティの言い分は最もだと感じた。
「んぬぅ!」
「――っ、そこまで暴れられると加減も出来ないな……。 チッ、仕方ない」
カティは新たにディートすると、両腕を翳して殿下へと力を籠める。
すると、殿下は膝をついてその場に崩れ落ちる。何とか両手を支えに四つん這いの状態で耐えているが、何やら強い力によって押し込まれているらしい。
「ぐっ、これは……」
「重力のドロップ。 いつだかお前に貰った奴だな。 仕上げに使わせてもらうぞ」
重力を操れるドロップなどというものも存在するらしい。その力によって身動きが取れなくなった殿下はぽつぽつと喋り始める。
「やは、り……其方は強い、な……」
「……」
「……だが、我もこの国を率いる……者、として負けるわけには、行かぬ……のだ!!!」
直接的な傷こそないが、長期戦となった彼は足元がおぼつかず、ふらふらとしながらも戦っていた。そんな状態で重量を増やされて見るからに抑え込まれた状態に在りながらも、戦斧で体を支えて立ち上がった。
そんな殿下の様子や言葉に、観戦していた人々も、運営側の騎士や仕官も涙を流して殿下を見ていた。
「……なにこれ?」
六笠は冷めた様子でそんな会場の状態への疑問を口にする。私の隣に居るメグミは少し潤んだ目になっているものの、私の感情としてはどちらかと言えば六笠に近い。
それでもこれだけ多くの人に慕われている殿下は、良い王族なのだろうとは思う。
「……これで終わりだ」
「ぐおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」
上から下に掛かっていた力を横へと切り替えたカティによって、殿下はステージ外へと弾き飛ばされた。
「――っ、勝者! カーティス選手!!! 全力で戦った殿下を押しのけ、決勝へと進出しました!!! 健闘を称えて、両名に拍手をお願いします!!!」
「「「……」」」
『しん』と静まり返った会場に、実況のアナウンスから遅れて誰かの拍手が鳴り響く。それに釣られる様に一人、また一人と拍手が伝播していき私達も加わる。そて、最後には会場全員で鳴らす拍手がエルリーンの町に響き渡った。




