第34話⑩ 準決勝 カティと殿下の闘い
==楓=快天の節・十一週目=闘技大会会場・観戦席==
カティの試合に続いて、春宮とボルノスの試合も呆気なく春宮の勝利で決着が付く。
(春宮さんの剣は、実物の武器を使う相手であれば反則級と言わざるを得ませんね……)
一方的に斬り裂いてしまうあの絶断の剣を使い、その上剣の腕も着々と身に着けている彼女に勝つのは至難の業だろう。事実、ボルノスはまともな打ち合いすらできずに敗北した。
「続きまして、鋭い戦斧捌きを見せてくれたデッディ選手と、多種多様なドロップを扱えるディーターであるカーティス選手の試合となります!」
「「「わああああああああぁぁぁぁ!!!」」」
会場の盛り上がりは最高潮に高まっていた。
「いよいよですね」
「……そう、ですね」
「お前らが緊張してどうすんだよ」
神妙な顔でステージを見ていた私とメグミに対し、六笠が呆れた口調で話す。
「……ですが」
「別に何も変わらないよ。 あの試合の結果なんかじゃあいつは、な」
多少なりとも接点を持ち仲の良くなった春宮の今後が決まる一戦なのだ。嫌でも握る手が汗ばむ。
にも拘らず、関係の長そうな六笠は気楽に構えているし、春宮当人は闘技大会そのものに参加して観戦すらしていない有様である。
「……お望み通り勝ち上がってきたぞ」
「本線のみとはいえそれは同じであろう。 して、以前も話したが遠慮はいらぬ。 全力で来い!」
「そうさせてもらうよ」
両者の会話が途切れたのを見計らって、実況が試合開始の合図を下した。
「それではカーティス選手対デッディ選手……レディー――ファイッ!」
先手で動いたのは意外にも殿下であった。ディート後即生成した戦斧を持ってカティへと駆け寄る。迎え撃つカティは、何かのドロップをディートすると、同じく駆け寄る。一瞬にして開いていた距離は縮まると、カティが咄嗟に生成した盾と殿下の戦斧が激しく衝突する。
「うむ、てっきり初手は遠距離で攻めてくると予測したのだが……」
「大物を使う相手に初手からちまちま攻撃すんのは男らしくないだろ?」
「――違いない!」
何度か殿下の戦斧をカティが盾で防ぐという攻防がされた後、殿下は戦斧を斜めに地面へと突き刺す。そして、持ち手側が斜めに迫り上ったそれを踏み台に跳躍すると、消失からの再生成で手にした戦斧を空中からカティへと叩き込んだ。
人間一人の全体重に勢いが合わさった威力は流石に盾で防ぐのは無理だと判断したカティは、横に転がって回避すると、別のドロップをディートして手を翳す。その先から発生した水球を殿下へと放つ。
「――ぬっ」
「チッ……」
だが、その水球も戦斧によって斬り払われる。カティは連続して水球を放ちながら今度は距離を取り始める。
「逃げ回るか」
「そんなんじゃねぇよ!」
その場に留まって、放たれる水球の内当たりそうなものだけを振り払いながら立ち尽くす殿下に対し、それを囲むように円を描きながら動き続けるカティ。
ある程度水浸しになった時点で、カティが首から下げているペンダントが光った。
「――これで終わりだ」
カティがもう一つ何かをディートした直後、殿下の周囲に存在した水が氷へと変貌し、殿下の足元を凍らせるのと同時に、張っていた氷の床から氷柱のような尖ったものが飛び出した。
だが、それを見ても取り乱さずに自らの周囲へと戦斧を振り回してすべての氷柱を破壊する。その後は突如戦斧をぶん投げてカティへと牽制する。
「うぉっ!」
「……ふん」
そのような状態で反撃されると思っていなかったのであろうカティは、それでも咄嗟にそれを躱す。
その隙をついて追いディートした殿下は自らの足元へと戦斧を振り下ろして氷を破壊した。
「悪くない技であった」
「そりゃどうも!」
その後も空中に発生させた氷柱を放ったり、再度殿下の周りにある氷の床から氷柱を飛び出させるが、それらは避けられたり破壊されてしまう。
「もう、無理か」
水と氷のデュアルディートはエネルギーを使い果たしたのであろう。カティはディートして生成させた槍を持って再度距離を詰めた。
だが、槍が狙えるぎりぎりで、戦斧を振るうには厳しい絶妙な位置取りを維持したまま、カティは突きを繰り返し放つ。
「小癪な」
「何とでも言え」
試合当初からすると殿下の動きには衰えが感じられる。先程の氷の攻撃は見た目以上に効果があったらしい。その所為か、カティの連撃に対処し切れなかった殿下は槍の一撃がフードと仮面に掠める。
そして、六笠の試合でも一部敗れていた部分が広がってフードは破れ落ちた。
こうして露わになったのは光り輝くような金色の髪である。それと同時に壊れた仮面も斜めにズレて、顔を隠すという用途に対する効力を失った。
「なんと! 素顔を隠していたデッディ選手の素顔は見事な美形――え、殿下!? どうなってるんだ、俺聞いてな――」
実況で試合を盛り上げていた男性は驚きのあまり素に戻って周囲の人間に確認を取り始める。だが、周囲の人間も同じく動揺していて話にならない。
「え、マジで殿下!?」「本物!?」「お披露目の際のお顔とそっくりかも……」「う、嘘だろ?」「本当に殿下なのか!?」
闘技大会の運営側である騎士や仕官もそうだが、同じように事情を知らない観客にも動揺が伝播する。
「――そうだ、殿下を守らねば」
誰が言ったのか、恐らく騎士であろうその言葉に我に返った多くの者が殿下の立つステージへと上がろうとした刹那――
「そこを退け、メルヴァータ!」
「……」
無言で両腕を広げて首を振り、騎士の一団を食い止めるメルヴァータ。
「退かぬのなら、切り伏せてでも通って――」
「止めよ! 貴様ら、我がこの場に立っている意味を理解できぬのか?」
そんなやり取りを見ていた殿下が口を開いた。
「そ、それは――」
「今は由緒正しき闘技大会の試合中であるぞ? 何故壇上に上がろうとしておるのだ!」
殿下はぴしゃりと言い放ったのち、集団となっていた騎士から視線を外してカティの方を見る。
「中断して悪かった。 では、試合を再開するぞ」
「あ、あぁ……」
そう言って、両者は武器を構えなおした。




