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第34話⑨ ミズキの第二試合


==(かえで)=快天の節・十一週目=闘技大会会場・観戦席==


「カエデ、アヤの予選が終わっているな」


 そうランケットの方からの伝言を受け、メグミを連れて観戦席へと戻っていた。


「メグミ、気分はどうでしょうか?」

「はい、もうすっかり元気になりました」


 春宮(はるみや)の試合が終わったという伝言を受ける少し前に、明らかに悪かったメグミの顔色はすっと健康なものへと切り替わった。

 この様子であれば、大丈夫だと思うのだが、無理はしないように逐一確認を取ることにする。


「それでは! 第二試合も後半戦となりました! 今回の試合こそ見ごたえのある内容となるであろうと約束します!」

「本当かよ!」「しっかりしろー!」


 ひとつ前の試合、春宮(はるみや)と黒い人の戦いにて何やらトラブルが発生したらしく、それに対する不安の声が観客から上がる。


「――ちょっと!」

「ったく、良いだろ、どうせ入場するんだから!」


 そんな中警備の方を押しのけて現れたのは六笠(むかさ)である。


「この場を盛り上げてやんよ」

「勝手な事をしないで下さ――」


 徐に弓を構えた彼女は、どうやら何らかのパフォーマンスをするつもりらしい。静止を振り切った彼女は会場の上部に浮かんでいた風船らしき装飾目掛けて矢を放った。

 連射されたそれは見事に風船を突き破ると、落下する矢が観客に落ちる前に空中で霧散させた。歓声と共に拍手の巻き上がる会場をみた実況の方は、即座に機転を利かせた内容で続けた。


「――と、見事な弓の腕前を見せたミズキ選手です!」

「「「わああああああああぁぁぁぁ!!!」」」


 一転して熱を帯びた会場に、今度はあの人が現れた。


「続いては、予選には参加しなかったもののその出場権を譲り受けた謎の戦斧使い、デッディ選手です!」

「「「わあああああああぁぁぁ!!!」」」


 深々とフードを被り、さらには目元を仮面で隠した男性……ディンデルギナ殿下その人の登場である。


「……本当にあれで戦うんですね」


 メグミの言葉に私は肯定の意思を示して頷く。

 事前に聞いてはいたが、まさかあそこまで徹底して身分を隠して参加するらしい。


「一応わたしはどちらかと言えばカッちん派なんだ。 なんならここで敗退させてなし崩し的にあいつの勝ちにさせても良いんだぜ」

「うむ、遠慮はいらん」


 そう言って、ドロップを取り出すのを確認して試合開始の合図がされた。


「それではミズキ選手対デッディ選手……レディー――ファイッ!」


 先手で動いたのは勿論六笠(むかさ)である。彼女は生成した弓で以って遠慮なしの連射を繰り出す。


「威力が足りぬわ!」


 殿下は生成した戦斧を振り回し、的確に放たれた矢を両断したり、弾いたりする。

 生成物とはいえあのサイズの獲物を傭兵でも騎士でもない王族が巧みに扱えることに驚かされる。


「クソッ!」

「ではゆくぞ――」


 殿下は攻撃を凌ぎながらじりじりと、着実に距離を詰める。

 一応中央の端から外に出れば降参扱いとなる。遠距離武器である弓を持った六笠(むかさ)では長期戦になれば不利となるのは明白であった。


「ちっ……、仕方ない」


 そう言った彼女は、連射による攻撃を中断すると、弓を引き絞ってそのまま動かなくなる。


「――好機!」

「……」


 距離を一気に詰められるのも構わずに微動だにしない六笠(むかさ)は戦斧が届くぎりぎりまで粘ると、その弓を放った。


「ぬぉっ――」


 それなりに遠く離れたこの位置からでも聞こえる空中を裂く音、それと共に放たれた一矢は咄嗟に防ぐのに使われた戦斧をも貫通し、殿下のフードを側面を斬り裂いて観客席下の壁へと鋭く深く突き刺さった。


「いつ見ても凄まじいですよね」

「はい……」


 貫通弓矢と自ら名付けたと語るそれは、引き絞れば絞るだけ威力の増す強烈な特性であった。

 現に矢を防ごうとした戦斧は半ばから砕けて霧散してしまった。ドロップで生成した物なので、残エネルギーか追加のドロップがあれば痛手ではないだろうが……。


「驚いた。 よもやそのような特技を持ち合わせておるとはな」

「……」


 戦斧を再生成しながらそう答える殿下に対して、明らかに戦斧の射程とステージ外に阻まれた六笠(むかさ)は詰みである。


「して、一歩足を下げるか、尚も足掻くか選ぶが良い」

「……生憎、諦めるのは苦手なんだよ――」


 至近距離で諦めたかに見えた六笠(むかさ)であるが、何らかのドロップをディートすると、生成した武器を殿下へと向ける。


「薙刀……?」


 棒状の武器で先端に片刃の刃物が付けられた武器である。僅かに反応の遅れた殿下に対し、薙刀を全力で振り下ろした――


「んぐぇ」

「未熟であるな」


 本来リーチのある薙刀を振るうには聊か距離が近すぎた。その一瞬と弓の腕程ではない棒捌きでは力及ばず、六笠(むかさ)は戦斧で薙刀ごと場外へと吹き飛ばされた。


 ……


「いやー、負けちまったな」

「中々の戦いでしたよ」

「中々って……、『とても良かった』だろー?」


 本戦敗退となった六笠(むかさ)は私達の座る観客席へと来ていた。


「……メグミは本調子ではないのであまり揺さぶらないでください」

「……あー、すまん」

「平気です。 もう気持ち悪い感じはどこかに行きましたので」


 確かに、普段通りには見える。だが、いつまた先程の体調不良になるのか不安なので、安静にしておくに越したことはない。


「にしても強かったなー。 年中書類やらで忙しい奴の動きかってんだ」

「……寧ろ私から見ると、一切気にせずに弓を放てる貴方の方が驚きなのですが……」

「別に私の国の総理大臣って訳でもなし、他所のお偉いさんって印象だけどな」

「……」


 速射でそこまで威力のない弓なら兎も角、肉だろうと骨だろうと抉りそうな矢を物怖じせずに放てるのは案外大物なのかもしれない。そんな無鉄砲さは私の人生に不要でありたいものである。


「ほれ、カッちんの試合が始まるぞ」

「……あ、本当です」


 そうして、カティの試合を観戦したが、見せ場もなく対戦相手を瞬殺していた。


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