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第34話⑧ アヤリの第二試合


==杏耶莉(あやり)=快天の節・十一週目=闘技大会会場・控室==


 私は二回戦に向けて大会の控室で呼吸を整えていた。

 思いがけず一回戦は難なく突破したが、油断せずに次の戦いへと準備を進める。


(――何て考えても、ドロップは多めに準備してるしやる事はないんだけどね……)


 闘技大会の本戦に出場している場合は、勝ち続けている間大会の観戦は出来ない。

 直前の様子を見て対策を打ったり出来ない様する為の配慮という事になっているが、それ以前から有名なカティであったり、私みたいに予選で目立てばその限りではないと思うので対策の効果はいまいち実感できない。


「アヤリ選手、入場をお願いします」

「あ、はい」


 何もせずにぼーっとしていると、そう声を掛けられて会場中央にあるステージへと向かう。


「私の対戦相手は……」


 どうやら私が先に呼ばれたらしく、まだ来ていないみたいである。


「一撃も攻撃を受けずに対する選手を気絶させてきた異国の剣豪、アヤリ選手です!!!」

「「「わあああああぁぁぁぁ!!!」」」


(私はいつ、剣豪になったんだろう……)


 大げさなアナウンスをする実況に心の中でツッコミを入れていると、対戦相手も入場していた。


「対するは、これまた同じく全ての攻撃を回避し続けた漆黒の男、ジャムーダ選手です!!!」

「今度はしっかり戦えよ!」「すかしてんじゃねぇぞ!」「キャー! かっこいぃー!!」「真面目にやれー!」「戦い見に来てんだよ!」


 私とは対照的に盛り上がる声援ではなく、野次を飛ばされるジャムーダという男性。一部黄色い声援も混じっていた気がするが……。


(……? あれ、この人どこかで見た事ある気が……)


 上から下まで黒色の姿であるこの男性に、そんな既視感を感じる。だが、ここまで極端な服装であれば嫌でも頭からこびり付いて忘れなさそうではあるのだが……。


「……よろしくお願いします」

「……ふっ」


 私が挨拶をすると、ジャムーダは人の顔を見て鼻で笑った。


「なんでしょうか。 私の顔に何か付いてますか?」

「いんやぁ? 単におもしれーなって思ってな」

「……?」

「折角具合を確かめに来たんだ。 本気で掛かって来てくれよ?」

「……怪我をさせない程度にやってみますね」


 そう言って、武器も持たずに飄々とした態度で話すジャムーダに私は生成した剣を向ける。


「それではアヤリ選手対ジャムーダ選手……レディー――ファイッ!」


 試合開始の合図がなされ、私は一気に距離を詰めると、その剣を振るった。一応刃は向けずではあるものの、直撃すればそれなりの怪我になり得る勢いであったが、それは予想通り避けられてしまう。


「おいおい、その程度か?」

「――っ。 それならこれはどう!?」


 私はルーガスが使っていた連続で剣を振る動き。それに細い剣である強みを乗せた独自のルーチンを加えた連撃を繰り出す。

 絶え間なく放たれた斬撃ではあったが、その全てを彼は回避してしまった。


「なっ!?」

「あー。 ま、それなりなんじゃねぇか?」


 私の連撃にも余裕そうに話すジャムーダに、私は向きになってさらに剣を振るう。

 気が付けば剣の刃を向けてしまい、直撃すれば体が切断される攻撃を連打していたのだが、幸いと言うべきかそれらすらも呆気なく躱されてしまった。


「――!?」

「おっと、気が付いたか」


 体に剣が当たった。その感覚は間違いなく存在したのだが、その手応えは感じなかった。その一瞬ではあるが、視界に見えた彼の体が歪んで剣は届いていなかったらしい。


「……これは幻術のドロップ?」

「あー、そうなっちまうか。 確かに似てるから、ここではそう判断するのもおかしくねーな」

「……?」

「けど、一々言葉で説明して、テメェにネタ晴らしってのも冷めっから嫌なんだよなー……」


 私の剣を尚も避け続けながら、ぶつぶつ話すジャムーダであるが、突如私から距離を取ると私の顔を真っ直ぐ見据えて言葉を続けた。


「一気に白けた。 別にちんけな大会に興味はねぇし、ここいらが潮時だな」

「何を……」

「羽根ババアを殺ったって聞いて、穴埋めにでもなるかと思いきや、とんだ無自覚ヤローだったからな」

「!!?」


 羽根で女性と続くキーワードに、私はある一つの存在を思い出す。それは、この世界とは別のフェアルプにて私が斬ったあの女性……翼の女王と呼んでいた存在であった。


「貴方は一体……?」

「さーな。 オレはもう少し様子見させてもらうことにしたわ。 オレの見立てではかなりの逸材だからな。 もー少し熟成させてみるわ」

「ちょっ――」


 私が言い終わる前に、目の前でジャムーダは姿を消した。まるで元々この場に居なかったかの如く霧散して、私はステージ上に取り残された。


 ……


 私の不戦勝が決まり、控室に戻るとリスピラがふわふわと空中に浮いて私を待っていた。

 確か、大衆に見つからないようにと特別な観戦場所を設けてそこで試合を見ていた筈である。


「リスピラ? 一体どうしたの?」

「アヤリさん、きいてほしーの。 わたしたちのせかいでわるいことしてたわるいやつとおなじかんじをさっきのひとからかんじたの」

「さっきの人って、ジャムーダって人の事?」

「たぶんそーなの。 なまえはおぼえてないけどさっきアヤリさんがたたかってたくろいひとなの」

「やっぱり……」


 先程の会話で出ていたのはあの翼の女王で間違いないだろう。


「それと、フェアルプをおそったくろいのににたかんじもあったの! アヤリさんもきをつけてほしーの」

「……そっか。 うん、気を付けるよ」

「そーなの。 アヤリさんもくろいのなんかにたよっちゃだめなの」


 そう言うと、彼女はハンカチらしき布を頭から被ると、控室を出て行った。

 傍から見れば布が浮いているように見えるのだが、それで大丈夫なのだろうか……。


「黒いのって、やっぱり影霧の事だよね……」


 翼の女王や翼四天が操っていたが、今回ジャムーダが使っていた様子は見られなかった。


(……考えても仕方ない! 今は闘技大会に集中しよう)


 ある程度思考が廻った所で面倒になった私は、無理やり頭を切り替えた。


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