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第34話⑥ 予選を終えて・本戦準備


==カーティス=快天の節・十一週目=カーティス宅・リビング==


「一先ず、全員本戦出場決定という事で! カンパーイ!!!」

「「「カンパーイ!」」」


 予選を終えた俺達は、自宅リビングへと集まって打ち上げをしていた。とはいえ、明日も本戦が控えているので酒類はなしである。

 そもそも俺は好んで飲まないし、彼女らの国では法律で飲酒が駄目な年齢らしいので果実水のみである。


「いやー。 予選は大変でしたなぁー」

「……六笠(むかさ)さんは何やらペアを組んで挑んでいたではありませんか」

「けどよ、弓を狙ったとこに当て続けないといけないのは結構集中力いるんだぜ?」


 話を聞くに、ミズキは多くの敵に対して致命傷を与えずに退場させたという快挙を成し遂げたとランケットの奴から聞いている。

 同じくアヤリも負傷者こそ出しているが、大怪我や死者は出さずに無傷で残ったと言うから驚きである。


「アヤリも、ここ数週間は訓練してたしな。 その成果はあったか?」

「……うん。 そう、だね」


 俺のさりげない問いかけにアヤリはぎこちなく答える。あれ以降接する機会が少なくなったのもあり、まだぎくしゃくした関係になっていた。


「折角なら、宿理(しゅくり)も出れば良かったのに」

「……私は、見てるだけでお腹いっぱいです……」


 以前聞いた話ではあるが、どうやらカエデも実力自体はかなりのものだとマクリルロが言っていた。だが、気質的な問題からかこの手の話題は忌避感がある様に俺には見える。


「ミズキ、あまり無理に誘うなよ。 誰にでも得意不得意はある」

「……あー、そうだな。 悪かった」

「い、いえ。 問題ありません」


 両手を振って大丈夫だとアピールするカエデ。因みに彼女が普段共にしているメグミはこの場に居ない。何やらマクリルロに頼まれ事をしたとかで、心底嫌そうな顔をしていた彼女とは別れている。


「ま、話は後にしてー。 先に食おうぜ!」


 闘技大会に乗っかって盛んな露店販売の食品を買って来ている。闘技大会に参加しているアヤリに料理を今日させるのは酷だろう。


「だな」「はい」「うん」


 食卓に広げられた料理へと手を付けた。


 ……


「(あの……少しよろしいでしょうか?)」


 料理も捌き終わる頃、小声でカエデに話しかけられる。


「……。 (どうしたんだ?)」

「(気になる事がありまして、別室でお話でませんか?)」


 ちらっと見ると、ミズキはソファーで爆睡していて、アヤリは皿洗いをしている。少し考えたのち、構わないと答えて別室へと移動した。


「……んで、どうしたんだ?」


 俺が話を促すと、言いにくそうにしつつもカエデは口を開いた。


「……実は、今この場にメグミが居ないのは体調不良の所為で、用事を頼まれたというのは嘘なのです」

「嘘? なんでまたそんな事を……」

「それが、アヤリさんに会うと気持ち悪くなるみたいで……」


 彼女はアヤリが居るリビングを目だけで見ると、俺に視線を戻す。


「……アヤリと?」

「はい。 以前はそのような事はなかったのですが、今日予選後に会った時からそうらしく……」


 それを聞いたアヤリが気分を害さないように配慮して別室へと移動したのだろう。


「何かこっちの病気で思い当たる節はありませんか?」

「……思い当たるのはないな。 メグミは他にどんな事を言っていたんだ?」

「他にですか……。 そうですね、懐かしい感覚もあると話していました」

「懐かしい感覚……?」


 確か、メグミの転移元である世界の詳細は不明であった筈である。


「もしかして、メグミの元の世界と何か関係があったりしないか?」

「……確かに、その可能性はありますよね。 ですが、本人が何も覚えていないと言っている以上、追及のしようがありませんか……」

「確かに、そうだよな……。 取り敢えずアヤリとの接触は避ける様に俺も気を付けるよ」

「お願いします。 六笠(むかさ)さんにも後でこっそり話は通しておきます」

「頼んだ。 理由がわからないとは言っても、本人が聞けば良くは思わないだろうしな」

「そうですね。 カティさんも何かわかり次第共有をお願いします」

「あぁ」


 そう言って、カエデは先にリビングへと戻った。疚しい気持ちはないが、下手に勘ぐられるのも良くないので、俺は部屋から適当に物を持ってきた体を装ってリビングへと戻った。




==ディンデルギナ=エルリーン城・第一王子執務室==


「殿下、報告宜しいでしょうか」


 闘技大会開催に際し、行わなければならない無数に存在する手続きや、発生した問題への承認の書類を片づけていると部屋の外から声が掛かる。


「うむ、構わん。 入れ」

「はっ……」


 入って来た筆頭側仕えの男が、即座に報告へと移る。


「先刻の闘技大会予選にて本戦へと進むことが決まった者のリストを優先でお持ちしました」

「貰おう」

「はっ」


 手渡されたリストを読むと、あの非公式会合にて参加表明していた三名の名前があった。


「殿下がここまで本戦出場者を気に掛けるのは珍しいですね」

「……」


 実は本戦へと出場する事は事前に周知していない。秘密裏に紛れ込ませた騎士の者一人と入れ替わる形で自分も参加するつもりである。

 これも予選に出なかった理由と同じ、謀殺などへの警戒が理由である。この部分は事情を知るメルヴァータに講義されて止む無しである。


(このように、身分を振りかざすことなくあの者と手合わせできれば良いのだが……)


「――今年もボルノス殿が本戦に残りました。 今年は譲ったりせずに出るのでしょうか。 また、前回優勝のカーティス殿も同じく出場となっております」

「うむ」

「殿下は今年も本戦は観覧に向かうおつもりでしょうか」

「そう、だな。 会場へと向かう」

「承知しました。 では元々重要な日程は入っておりませんが、空けておくように手筈を整えておきます」

「……うむ」


 そう告げると、忙しそうに執務室から出て行く。

 明日の行事に備え、自らの獲物であるドロップの準備を始めた。


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