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第34話⑤ カーティスの予選


==カーティス=快天の節・十一週目=闘技大会会場・予選第一ブロック==


「くらえっ!」

「――ふっ!」

「ぐっ……」


 ドロップで生成していた六尺棒で迫りくる敵を叩き伏せた。


(まだ続くのか……)


 俺は、闘技大会の予選に参加していた。

 前回優勝者なので注目を集めている他、ランケットで活動していた期間もそれなりにで知名度もある。故に、苛烈を強いられる程には大勢の相手を余儀なくされていた。

 自らの腕を確かめたい者、何が何でも優勝したい者、徒党を組めば勝てると踏んだ者……。それらを次々と対処する。


(殆ど俺が倒してるんじゃねぇのか、これ……?)


「おら!」「去ね!」「どるぁ!」

「面倒だな、おい!」


 ディートした直後に地面から土壁を生成して、突進してきた三人組を遮る。そのうちの一人は機転を利かせて回り込んでくるが、それも回し蹴りでノックアウトさせる。その後、遅れて追撃してきた二人も、片方は頭上からの土塊で動きを封じ、もう片方は足元を土て覆って足止めをすると勢いだけ残っていたのか地面へと勝手に倒れる。

 駄目押しに三人へと大量の土をプレゼントして土葬すると、その場を離れた。因みに、空気穴は確保してるので死にはしないだろう。


(こうも連戦続きだと疲れるな。 だが、俺が引く訳にはいかんだろ!)


 俺の戦績が悪く、予選落ちでもしてしまえばアヤリがこの国の王族へと嫁いでしまう。

 安定を得ると考えるならば、大国であるこの国の王族は一見安全そうかもしれない。だが、これでも戦時中なので絶対ではない。万が一敗戦でもすれば、敗戦国の王族が生き残れる可能性は限りなく少ない。

 それ以上に、俺自身が彼女の婚姻に対して拒否感を感じていた。


(向こうの世界の相手なら諦めも付くが、こっちで結ばれるならせめて――)


 そんな事を考えながら走っていると、槍を構えて突撃してくる男性が見えた。俺は盾をディートすると、的確にその穂先の力を外側へと流す。


「ぬぉ!」

「――よっと」


 単調な突撃程対処の楽な物はない。俺は勢い余ったその男性の脚を引っ掛けて転ばせると、腹部に一撃だけ蹴りを入れて飛び越してまた移動する。


(考えごとをしている暇はなさそうだな)


 俺の移動を追いかけてくる一団を見つけ、次のドロップをどうするかという思考へと頭を切り替えた。


 ……


(それなりには落ち着いたな……)


 何人を相手にしたのかはもう覚えていないが、俺へと挑戦をする相手は居なくなっていた。

 そもそも大会の本戦へと進みたいなら俺へと挑む必要はなく、決められた人数になるまで残れば良いのだ。


(あと何人だ……?)


 ざっと見たところ、十数人といった所であろう。戦闘している様子が遠目に見えた。


(残りは、本戦に出そうな奴の観察でもしてるか……)


 そう考えた俺は、よく目を凝らして戦いの様子を見る事にした。望遠鏡のドロップを使えばしっかりと見えるかもしれないが、これでも戦闘中なので周りの様子が見えなくなるのは危ないのでやらない。


(……何だありゃあ?)


 遠すぎてはっきりとは見えないのだが、全身黒色の男性が何人かに囲まれて攻撃をひたすら避け続けていた。

 時折、人体の動きから考えて回避不可能な攻撃すら避けている節がある。

 闘技大会に参加しているのであれば敵は斃さなければならないし、回避技術からしても相応の実力はある様に見える。


(気になるな……)


 そう考えた俺は、そんなやり取りが繰り広げられている地点へと駆けて向かう。


「くそっ! 何で当たらないんだ!」

「舐めるなよ、おい! 遊んでんじゃねぇぞ!」

「……」

「何とか言えよ!」


 その地点に近づくと、複数人で罵声を浴びせながら黒い男性は無言で攻撃を避け続けていた。


(……ん?)


 近づいて見てみれば、どうやら命中しそうな攻撃は空間が歪んで当たらない。そんな素っ頓狂な状況にも見える。


「――! そこのアンタ! こいつをどうにかしてく――あ」


 何が何でもこの黒い男性を倒したかったらしい奴が、近づいていた俺に対してそんな言葉を投げかける。だが、俺が前回優勝の有名人である事に気が付いて、血の気が引いた表情へと変貌した。


「……理由は知らんが、多対一ってのは好きになれんな」

「くっ! このや――」


 俺は水をディートすると、水球を発生させて黒い男性を除く全員の顔へと貼り付ける。

 突如呼吸が出来なくなった大勢は藻掻き苦しむと、攻撃の余裕すら見せずに次々と気絶した。


「……んで、お前は何やってんだ?」


 隙のない姿勢で、且つそれでも敵対心を一切見せずに佇んでいた黒い男性へと声を掛ける。


「……そうだな。 一応の目的があって来たんだが、誰かを傷つけるのは苦手なんだよ」

「は? 意味がわからない。 お前は闘技大会に参加してるんじゃないのか?」

「そういう気分だった。 それじゃあ駄目か?」


 面倒臭そうにそう答える黒い男性。何かを誤魔化しているみたいで不可解な様子に見える。


「……よくわからんが、それなら闘技大会になんて出るなよ」

「それもそうだな。 正直アンタには助けられた。 ありがとさん」

「俺の目にはそれなりの実力者に見えた。 恐らく本戦に出場できるだろうが、そん時は俺は助けられないからな?」

「へーい、肝に銘じておくよ」


 そう言っていると、終了の合図である大きな鐘が鳴る。周囲を見渡すと、俺とこの黒い男性。そして、最後まで戦い続けていたもう一人だけが参加者の中で立っている様子が見えた。


「……残れたみたいだな。 そういえばお前の名前は――」


 そう言って振り返ると、先程まで近くに居た黒い男性の姿は既になかった。


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