第34話③ アヤリの予選
==杏耶莉=快天の節・十一週目=闘技大会会場・予選第二ブロック==
対峙したルーガスは、私側から動く意思を見せない事を確認すると、待ち構えていた私目掛けて突撃して来た。
「おらぁ! 去ねや!」
「――っ!」
先程までに倒して相手とは格が違うと判断し、早々に私は動かずに倒すのを諦めて大きな剣を回避する。
「ぐっ! ぉらあ!」
「……」
(攻撃の軌道をよく見て――)
大振りで読みやすいのもあるが、後々の行動も考えて極力動き回らないように最小限の動きで回避する。
「ちょこまかと舐めやがって!」
「……」
余裕を見せつける為にぎりぎりで回避している訳ではないのだが、彼にはそう見えたらしい。
縦振りで大きな剣を振っていたが、それを切り替えて避けづらい横薙ぎへと切り替える。
(これを待っていた――)
振られた武器に対し、構える様に私の剣の刃を向ける。
「――ぐっ!」
「駄目か……」
大きな剣に切れ目こそ入れられたが、早い段階で武器が破壊される事に気が付いたルーガスは軌道を切り替えてそれを免れる。
「やはり、厄介な武器だなぁ!」
「……」
その後は武器の破壊を恐れたルーガスは注意しつつ攻撃してくる。腕力はありそうだが、その一撃一撃に高度な剣技が含まれていないのもあって、攻撃の読みは簡単に読めた。
(次は縦……次は逆向きに斬り上げ……)
重たい剣を効率よく振り回す動きではあるが、そのルーチンがこの短い戦いで即座に見破れてしまった。実際に他の人と戦う場合はパターンにバリエーションがあるのだろうが、それもチラつかせた絶断の剣がそれを許さない。
「ぐむっ……」
「……」
時折痺れを切らして別の攻撃を繰り出されるも、それを見越して入れた一太刀でこの武器に傷を付けていく。
「っるおぉらぁ!!」
「……」
イライラを募らせたこの男性は、武器に切込みを入れた状態のまま軌道を切り替えて私の剣を圧し折る。
だが、ドロップで生成している私の武器は大した効力もなく、再度生成して事なきを得る。
「――糞がぁ!」
「……」
『戦場にて冷静さを欠いた者からやられる』。何故か決め顔で瑞紀にそんなセリフを唐突に言われた事があった。恐らくアニメか漫画にでも影響されたのであろうが、そんな言葉を如実に感じていた。
(あくまで冷静に……確実に……)
「っぐ!?」
「……」
そうした攻防をし続け、遂に限界を迎えた彼の武器は半ばから壊れてしまった。
「っざけんじゃねぇ!」
「……」
折れた武器を私にぶん投げると、そのまま筋肉質なルーガスの拳が飛んでくる。
「――さよなら」
「ごっ……」
私は剣の腹で振られた拳を弾くと、その勢いで剣を振り下ろした。
流石に刃を向けるのはやり過ぎなので、気絶させられるように物理的な衝撃を頭部へと叩き込む。
直撃した私の剣は、あっけなく気絶してその場に倒れ伏せた。その直後――
「「「わぁぁぁぁぁぁ!!!」」」
「んえっ!?」
大きな歓声が私を包み込んだ。気が付けば、私とルーガスはこの予選ブロックの注目を浴びていたらしい。
「なんと……。 なんと! 年端も行かない少女の華麗な剣戟によって! あのルーガス選手が敗れました! これにより、ここ、第二ブロックの本戦出場者が決定しました! ここに、本戦に負けず劣らずな戦いをしてくれた少女にもう一度大きな喝采をお願いします!」
「「「――わぁぁぁあああ!!!」」」
大きな歓声と一緒に、今度は『バチバチバチ』という拍手も一緒に送られる。
ステージの方を見ると、私とは別に立っている二人が遠目に見えた。私とルーガスとの戦いで終わりで予選も終了だったのだろう。
「いやー、アヤリちゃんお疲れー」
「あ、マローザさん……」
見ていたのであろう、マローザが私の下へと駆け寄って来ていた。
「見事な戦いっぷりだったよー」
「そうですか?」
「そーだよー。 ああした手合いにここまで立ち回れるならじゅーぶんだよー。 もっと自身もちなよー」
「……はい」
肩をぽんぽんと叩かれて、そう告げられる。そんな折、先程まで戦っていたルーガスが運ばれてゆく。
「……これで懲りないかなー」
「……? あの人がどうかしたんですか?」
私が質問すると、マローザは私の耳元に口を近づけて内緒話をする。
「(ここだけの話、あの男ルーガスだけどねー。 強さはそれなりで闘技大会を盛り上げる一因にはなってくれてたんだけどー……。 素行は酷くってー、何度も騎士団の世話になってたんだよねー)」
「(そうなんですか?)」
「(そそー。 ドレンディア出身で、闘技大会の時期にここまで来るんだけどー。) でも今年はカーティスくんとかアヤリちゃんが参加してくれるし、盛り上げ役としては十分だよねー」
「……そう、ですか」
そういうものなのだろうか。
しかし、プロレス好きの意見からすれば、強い選手というだけである程度の人気は得られるものだと納得できなくはない。
(私は強弱より対戦相手へのリスペクトが出来る人の方が好きだけどな……)
「んでー、向こうで本選進出の手続きやるから向かってもらえるかなー」
「あ、はい。 りょーかいしました」
彼女の指示に従って、私は受付をしている場所へと向かった。




