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第34話② 予選開始


==杏耶莉(あやり)=快天の節・十一週目=闘技大会会場・予選第二ブロック==


 闘技大会の当日、私はある予選ブロックの会場へと来ていた。


「んーっ……。 いい天気だー!」


 闘技大会への参加を決めてから、連日剣の訓練を続けていて遂にその日が来たのだ。


「アヤリちゃん頑張れー」

「はい、頑張ります!」

「まー、アヤリちゃんの実力なら余程の実力者にでも目を付けられなきゃ負けないよー」

「そうですかね?」


 予選は大勢が一か所に集められての乱闘となっている。それなりの広さは確保されているので、一対一で戦えるだろう。横槍を入れられる可能性もあるので油断はできない。

 その為、応援に来ているマローザを除いて知り合いはこの場には居なかった。主催者である王子を始めとした人による職権乱用である。

 今頃カティと瑞紀(みずき)も別のブロックで予選に参加している事だろう。因みに王子は知名度もあり暗殺などから身を守る為に本戦からの参加と言っていた。


「私は警備に戻るけど、陰ながら応援しとくよー」

「はい、ありがとうございます」


 そう言って、彼女はこの会場の警備へと戻った。ランケットの地位向上もあって人手に余裕があるとは聞いているが、それでも騎士団はこのような催しで駆り出されている。

 多少の我儘を通して特別に私が参加する予選に配属してもらっていたマローザに感謝しつつ、この後の戦いへと集中する事にした。


 ……


「では、栄えあるレスプディア闘技大会! その本戦出場者を決める第二予選のブロックに、全参加者が集まりました! この中から本戦に出場できるのはたったの三名となっております!」

「「「わああああぁぁぁぁぁ!!!」」」


 前回優勝者であるカティが参加しているブロックより観戦者は少ないだろうと予想されていたのだが、それでもそれなりの人数が私達の戦いを見に来ていた。

 現代日本と比べれば娯楽の少ない国――世界なので、多くの国民が待ち侘びていたという事なのだろう。


「注目の選手は、全大会準優勝のルーガス選手! 今年は前年の優勝者のカーティス選手や、長年の宿敵ボルノス選手を打ち負かして優勝を手にする事が出来るのか! では、試合開始とカウントダウンが始まります!」

「「「十……九……八……!!!」」」


 大勢の観客と共に、減っていく数字が数えられる。


(あれ? そんな有名な人も参加してるんだ……)


 前回準優勝であれば、決勝で戦っているので私も見た事がある筈である。


「「「五……四……三……!!!」」」


(何か忘れている様な……)


「「「一……!!!」」」

「――試合開始です!」


 最後に『ゴーン!』という鐘の音が響いた所で、予選試合が開始された。


「げへっ! おれと同じブロックに当たったのを後悔しな、小娘ぇ!」

「……? 邪魔――」


 私はディートして生成した剣で、真っ先に襲ってきた男性の武器を真っ二つにする。


(殺生は不味いから……)


 一応参加に際して書かされた誓約書に、怪我や死亡時に相手を訴えたり出来ないという文言があった。同時に、意図的に不要な殺害は罪に問われるともあったのだが、予選みたいな乱戦であれば私に過失があるとは判断されないだろう。

 それでも、犯罪者ではない相手を無暗に殺すつもりは毛頭ない。開始前から一見弱そうな私を一番に狙う下種であっても、である。


(これで――)


 私は、あえて刃を向けずに剣を打撃武器として振り抜いた。普段使う機会がないのだが、私の剣は相手を気絶させる能力も持っている。


「――ほごっ!」

「よし……」


 呆気なくその場に気絶した男性から目を離して、次に迫る敵へと集中する。

 見た目で侮っているからか、次々と襲い来る参加者の相手が始まった。


 ……


 私は迫りくる参加者を一人、また一人と気絶させながらマローザとの会話を思い出していた――


「アヤリちゃんの弱点はズバリ、持久力がない事だねー」

「持久力……ですか」

「そそー。 本戦は一戦一戦落ち着いて戦えるけど、乱戦になる予選で負けてしまう可能性が高いと踏んでるんだよねー」

「……」

「だから極力その場を動かずにー、迫り来る参加者を最小限の動きで対処するのだけ考えれば――」


 私は、その教えに従って戦闘エリアの端に立ち、進んで攻撃をせずに待ち構える形で剣を構える。


「おらっ――」

「……てい」

「――むごっ!」


 ステージ端に一人立っているだけの少女をわざわざ狙う参加者、というのはそれ相応の実力らしい。誰も彼もが私でも難なく一撃が直撃して敢え無く気絶してしまった。尚、戦闘が困難だと判断された参加者は騎士の手で回収される。鎧もそうだが、分かり易く旗を背負っているので見間違える事はない。


(……大分参加者も減って来たね)


 ほぼほぼ同じ位置に立ち尽くしているだけで脱落者はどんどん増えていく。遠くに見える他の戦闘は闘技大会に相応しい程には苛烈を極めていた。


「――っ! テメェはぁ!!!」

「……あ」


 そうしていると、私の目の前にある一人の男性が現れる。名前は忘れてしまったが、顔は忘れもしない。あのノークレスで私を連れ去った横暴な男性である。


(……そう言えば、前の闘技大会でカティと戦ってた人だ)


 先程の実況で引っ掛かっていた部分が判明し、心のつっかえが取れる。

 現れた大きな剣を持ったこの男……ルーガスは、それなりの血に塗れていた。


「あの時の小娘! あの生意気なガキも居やがるのかぁ!?」

「……カティは別の予選ブロックに参加してます」

「なら丁度いい! おれの汚名を今度こそ返上してやるよぉ!」


 手にしていた大きな剣の血を振り払って、ギラギラとした欲望の目を輝かせた。


「で、テメェはここで何してやがんだぁ!?」

「……ステージに立ってますので、見ての通り闘技大会に参加してます」

「は!? ……くくく、っはっはははは! こいつぁ傑作だな! ノークレスでしょんべんちびりながら震えてたガキが一丁前に闘技大会に参加してるだぁ!? ここはガキの遊び場じゃねぇんだぞ!!!」


 あの一件で無様を晒したのは否定しないが、漏らした記憶は特にない。

 それと、私はどうも実年齢以上に若く見えるらしく、三年(一周期)を待たずにこっちでの成人年齢となると告げると驚かれる。

 これは比較的童顔な私だけでなく瑞紀(みずき)も同様なので、私の顔というより日本人顔がそうなのだろう。比較的美人ではっきりした顔立ちの宿理(しゅくり)は当てはまらない。


「闘技大会参加に、年齢制限はないですよね?」

「はっ! 遊び気分のガキが使う場じゃねぇって意味だ。 戦えないなら背中のステージから降りろ」

「……この時間まで残ってるという意味は理解できないですかね?」

「……」

「試して、みますか?」


 数年前とは違う。それを真の意味で証明すべく、私は剣を生成して構えた。

 同じく、私の言葉でルーガスも大きな剣を構えた。


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