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第34話① 大会に向けた特訓


==杏耶莉(あやり)=快天の節・八週目=騎士団第七隊宿舎・訓練広場==


 迫る闘技大会に向けて、私は剣の訓練をマローザにしてもらっていた。


「ふっ! ていっ!」

「―ーよっとー」


 訓練場には硬いものと硬いもの同士が衝突する『カンカン』という音が鳴り響いていた。

 どちらも訓練用の木剣を使用しているが、直撃すれば痛くない訳がないので必死に回避する。


「むっ……、また負けだー。 やっぱりアヤリちゃんは強くなったねー」

「はぁ……はぁ……。 ありが……とうござ……」


 手を『ぱたぱた』と振りながらそう答えるマローザに対し、私は全身で息をしながら膝に手を付いて呼吸を整えていた。


「……でも、持久力のなさは致命的だねー。 時間稼ぎするみたいな人とかとかち合ったらキツイかもしれないよー?」

「はぁ……そ、うです……ね……、はぁ」


 彼女の言葉は尤もで、私も自分の体力のなさは実感していた。毎日素振り千本していたのだが、ちっともスタミナが身に付くことはなかった。

 元来運動神経は下から数えた方が早い人間だったので、短期決戦特化に割り切るのが向いているのかもしれない。


「それにしても、十本やって一度も勝てないとはー……。 回数こなす毎にその差も広がってるしねー。 これでも二周期は騎士として剣の訓練欠かさずにやってたのに、追い抜かれて悲しいなー」

「……私には、これしかないですし……」

「そーかもだけどさー」


 マローザ本人曰く、剣の才能はからっきしなのだそうだ。実際の戦いでも、得意な氷を使った絡め手が好きだと話している。

 それに対して、私は剣の才能こそあれ、それ以外の特技と呼べるものは存在しない。家事が好きなのはそうだが、プロみたいには出来ないのだ。


「にしたって、私が長年で培った剣先を回して獲物を吹っ飛ばす技を、一目で真似されたら落ち込むんだよー?」

「……確かに、やろうと思って出来てしまったのは自分でも驚きました」


 先週意地悪にも木剣をぐるりと回転させて遠くに飛ばされたのだが、意地返しに同じことをやってみて所、成功してしまった。


「……んで、呼吸も整ったみたいだしー。 そろそろ再開するのー?」

「はい、よろしくお願いします」


 そうして、私は木剣を手に取って、模擬戦を再開した。




==(かえで)=快天の節・八週目=ランケット所有訓練場==


 私は六笠(むかさ)の付き添いで、彼女の訓練を見学していた。

 否、正確には半ば無理やり見学させられていた。


「……メグミとしては、楽しい……のでしょうか?」

「私は楽しいですよ? 偶にはあの研究馬鹿眼鏡の家から出るのもいいですね」

「……」


 私は血生臭いのが苦手で、訓練とはいえ怪我や流血はある程度存在する。その為、こうした見学はあまり気乗りしなかった。

 それに対し、メグミは毎度の組手を楽しそうに見ている。近頃の言葉遣いもあって、悪影響にならなければ良いのだが……。


「おっしゃあ! 行くぜ!」


 男臭いこの場にも自然に解けこんでいる六笠(むかさ)は訓練用の弓を持ち出して中央に立った。


「やっちまえ!」「ミズキー!」

「女に負けんなよー!」「頑張れ!」


 対するのは、刃を潰してあると思われる二本の短剣を手にした男性だった。名前は存じ上げないが……。


(近づかれたら六笠(むかさ)さんの負けですね……)


 無意識に冷静な分析をしてしまう性分に嫌気が差しつつも、一応付き添いである相手の組手なので目は逸らさずにいた。


「んじゃ、始め~!!!」


 常に嫌な笑みを浮かべているグリッドの合図と共に、組手が開始される。

 先手は勿論六笠(むかさ)である。速射によって何本も飛ばされる矢を男性側は的確に回避したり弾いたりする。


(いくら矢じりがなくても、目に当たれば失明しますよね。 よくそんなものを人に向けられるものです)


 私は絶対に参加したくない。そんな感想を抱きつつ、近づかれた六笠(むかさ)は構えていた弓を降ろすと右足を前に出す。


「くらうじゃんね!」

「――甘いぜ!」


 振り下ろされた短剣を難なく躱した六笠(むかさ)は、今度は左足を大きく突き出して蹴りを放った。


「――ぬぉっ!」

「へへっ、弓兵が近接戦闘出来ないと思ったら大間違いだ!」


 何とか強めの蹴りを防いだ男性であるが、その隙を突いた六笠(むかさ)が距離を取りながら弓を引く。


「やるじゃんね!」

「だろ!? もっとわたしを褒めたまへ」


 距離を取られるのが不利だと判断した男性は再度接近を試みる。それを見越した六笠(むかさ)は何本か空に向けて矢を射ると、弓を放り投げてしまう。


「もらったじゃん!」

「どりゃあ!」


 再度振り下ろされた短剣を今度は蹴り上げた靴底で止める。いくら潰されたとはいえ鉄製の武器を防げるとは思えないのだが、明らかに鉄と鉄がかち合う『ガキン』という金属音がした。どうも、彼女は靴底に鉄板でも仕込んでいたらしい。


「あ、ミズキの勝ちだ……」

「……?」


 隣で呟いたメグミの言葉を聞いた刹那、空から先程射った矢が男性の頭に直撃した。


「――っ、痛いじゃんね!」

「……矢じりありの矢なら、今のは重心からして真っ直ぐ直撃だろ、審判!」

「あ~。 ま、そういう事にしとくか。 それじゃ、ミズキの勝ちだな~」

「うぇーい! ピース!」

「負けたじゃん!」


(はぁ……。 早く終わらないですかね……)


 嬉しそうに拍手をするメグミを見ながら、そんな事を一人で考えていた。


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