表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

166/341

第33話③ 異世界転移者の扱い


==杏耶莉(あやり)=快天の節・六週目=エルリ―ン城・応接室==


 全員が見守る中、第一王子は話を続けた。


「これまで、異世界から来た者は一時的な扱いとして貴族でも平民でもない特例な身分としていた。 だが、様々な観点からそれは難しい状況となった」


 いつぞやの社交界で聞いた話である。


「様々な観点ってのは?」


 瑞紀(みずき)の質問に、王子は頷いた。


「うむ。 元々マクリルロの話では裂け目を通って来た者はある一定の期間で元の世界に戻るか、留まるかを迫られることとなる。 しかし、例外が二つ現れてしまった」

「例外……」

「そうだ。 先ずは、リスピラ殿の世界に存在するステアクリスタル。 その効力によって行き来が可能な者だ。 これにはそこの娘三名とリスピラ殿が該当する」

「そーなの! ステアクリスタルはすごいの!」

「うむ、そしてもう一つがメグミである。 元の世界に戻る事の叶わない身であると報告を受けている。 それに相違ないな?」

「はい。 仮に戻れると言われても戻りませんが、戻れる保証も失ってます」


 又聞きした情報だが、どうもメグミの帰還日が来るであろう時期を越えても、彼女が通って来たと思わしき裂け目は観測できなかったらしい。


「……戻る意思がないのであれば、かの者……アドルノートと同じ扱いでも構わんだろうがな」

「そうですね。 それなら私は――」

「結論を出すのは少し待て。 これからその話をするのだからな」


 確かあの人の扱いは平民とされて、自由気ままに他国に流れてしまっている。


「閑話休題。 して、個人的な考えとして各々適した扱いをすべきと考えている」

「一人ひとり、違う身分を与えると……」

「うむ。 先ずほぼ確定なのはリスピラ殿だ。 この国で身分を与える必要もなく、異世界とはいえ他国の新大使という扱いで問題なかろう」

「そうなの! むこーでもわたしはえらいからそれでいーの」


 リスピラは、自信満々に両手を腰に当てて胸を張る。


「うむ、これまでの扱いもそれに近しいものであった。 では、先にメグミの扱いを確定させるか」

「私ですか……。 確か、マーク――マクリルロは爵位持ちでしたね」

「そうだ。 ドロップ製品を始めとする技術を国内に広める為の横槍を阻止して、既得権益への介入が必要になったから公爵の爵位を与えた。 城内の扱いも特別なのだがな」

「……では、その養子とさせてもらえませんか? 行く当てもありませんし、間接的に貴族特権を行使できます」

「其方が良ければそれで構わん。 本音を言えば、何らかの特殊な技能を持ちうる異世界人を他国に流すのは不利益であるからな」

「私にそんな価値があるとは思えませんが……」


 自信なさげに言いつつも、自分の希望が通って一安心する様子のメグミ。 事実、年齢が当てにならないリスピラを除けばこの場で最年少なので、どの道なんらかの保護はまだまだ必要だと思う。


「……それでは最後に行き来の可能な三人を決めよう」

「はいはい! わたしは平民で構わないぜ!」


 待っていたと言わんばかりに瑞紀(みずき)がそう答える。


「……一応理由を聞いても?」

「貴族とか面倒そうだろ? それに、平民みたいな気楽な生き方が好きなんだよ」

「考えは理解したが、仮に貴族との揉め事を起こした際の保護も出来ぬぞ?」

「知らねーよ。 そんときゃそん時だ」

「……うむ。 では其方は平民として扱う」


 潔いというか何というか……。私からすれば彼女らしいと思えた。

 続けて、控えめに手を上げた宿理(しゅくり)が質問をする。


「……ディンデルギナ殿下。 これまでの物言いからして、望めば爵位を給えるのでしょうか?」

「その通りだ。 希望とあらば、貴族として迎え入れる準備は整っておる。 其方に与えられる位は最低の男爵であるし、領地は与えられぬから税を得る事も出来ぬがな」

「であれば、私もお断りします。 恩恵は決して高くありませんし、必要とあらば頼れる相手もいますので」


 宿理(しゅくり)そう言って、メグミやチェルティーナの方を見る。


「うむ、それも構わない。 それで、最後に残ったのはアヤリだけだな」

「私ですか……。 うーん……」


 突然爵位を貰えると言われても、実際問題どうすべきか悩ましい。

 私は、貴族らしい貴族と接する機会がなかったのだ。本人が聞けば何か言われそうだが、チェルティーナや第七隊の一部隊員も、どちらかといえば誰にも等しく接するタイプである。私からすれば貴族であろうと平民であろうと同じ人間で、そこに区別など付けられなかった。


「他の二人と違い、即座に拒否しないのだな」

「え? は、はい。 貴族になっても、人そのものが変わる訳じゃありませんし。 でも、きっと立場が状況に影響する事ってありますから……」

「……うむ、実はアヤリに限れば其方には無理にでも爵位を与えるつもりであった」

「な!?」


 それに驚いたのは誰でもない、これまで自己紹介を除いて喋らなかったカティである。


「……具体的な理由は何ですか?」

「打算的な理由は勿論存在する。 其方の能力はこの国において有益だと考えている」

「という事は、それ以外の理由も?」

「うむ。 回りくどい物言いは通じないであろう、単刀直入に申そう――我と婚姻を結ぶ気はないか?」

「うぇへ!?」「――ぶっ!」「まぁ!」「キャー!」「はぁ!?」


 私が素っ頓狂な声を上げ、丁度紅茶を飲んでいた瑞紀(みずき)が噴き出す。宿理(しゅくり)は嬉しそうな声を、リスピラは黄色い声を、そしてカティは怒を含んだ声を出した。

 ランケットのリーダー二人はわからないが、サフスはそれどころじゃないので無反応なのは理解できる。だが、この場において騒ぎそうなチェルティーナが驚いていない所を見ると、既に知っていたのだろう。


(今回の目的って、まさかこれだったの!?)


 驚いた様子で再度王子を見ると、その表情は真剣であった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ