第32話② 二人との会話
==楓=快天の節・五週目=天桜市・杏耶莉宅==
「――ぃよーし、今日も無事戻ってこれたな」
視界が歪んで、気が付けば春宮の家へと転移していた。
土曜日の午前に向こうの世界へと行き、日曜日の夕方には戻ってくるのが日課になっていた。
ステアクリスタルは一日間を空けないと使用できない制約があるので、もっと自由に行き来できれば便利なのだがそれを望むのは高望みだろう。
「……皆さんは向こうでどう過ごしたのでしょうか?」
「わたしは今回もランケットったぜ。 あれで活動していると、店番やってる奴とかにいきなり話しかけられて楽しいな。 団内の戦闘訓練ってのにも参加した」
私が質問すると、意気揚々と六笠が出来事を話す。
彼女は男性寄りな話し方で一見近寄りがたいのだが、いざ話してみると気の良い方であるとわかる。
「私は今回は、カティの依頼で特に手伝うのがなかったから騎士団の方に顔を出したよ。 それと、宿理さんは知ってるだろうけど、マークにも顔を見せに行ったね」
続いて春宮が出来事を話す。
彼女の言う通り、今日の昼頃訪問していた。私はマークの言動をあまり快く思っていないので、あまり気にせずメグミの勉強に集中していたが……。
「そういやぁカッちん見かけたけど、すげー落ち込んでたぞ? 何かあったのか?」
「そ、そうなんだ……」
「……喧嘩か? お前にしては珍しいな」
「別に喧嘩って訳じゃないよ。 あれはカティが悪いし……」
彼女とカティの関係は、私から見れば姉弟みたいなものだった。それにしては弟側は分かり易く好意を示し過ぎているかもしれないが。それでも、境遇からして私とメグミの関係に近いものがあると感じていた。
「……春宮さん、仲直りするなら年長が歩み寄らないとですよ?」
「それならカティの方が……、いやそっか。 ……うん、来週は私から言うよ」
彼女は、一瞬何らかの躊躇いこそあったが、素直にそう答えた。
……
翌日の学校、昼休みの時間にいつものメンバーで屋上に集まっていた。
原因は私にあるのだが、どうしても浮いてしまう為クラスが違う彼女らと行動を共にする時間が増えていた。
「そういえば、お二人は中間試験の結果はどうでしたか?」
「ぅぁ……」
「お前、嫌な事聞くな……」
二人の反応から結果は誇れるものではなかったらしい。
「学生の本分は勉学ですよ。 向こうに行くのであれば、普段から復習を心掛けませんと……」
「……」「……」
「特に六笠さんは授業もまともに聞いていないと、先生方から伺ってます」
「何でんな事知ってんだよ!」
「何でと言われましても……一緒に行動する事が多くなったので、行動が目に余ると間接的に苦言を申し立てられましたんです」
直接見た事はないが、複数の先生から報告があったので余程なのだろう。
「……それ、私もよく言われるよ?」
「杏耶莉もか? 先公が……、直接言えよ……」
「いや、入学初期は言われてなかった?」
「……そうだったか?」
行動を共にする機会が増えて感じた事だが、六笠は杜撰――大雑把な部分がある。時にそれが良い方向に向かう場合もあるが、大概は悪い方向に現れる。今回は勿論後者であった。
「っと、話は戻しますが……希望するなら勉強は教えますよ?」
「……お前も休日は向こうに行ってただろ? いつ勉強してんだ? それに、そういうお前は結果どうだったんだよ!?」
「私ですか……。 うーん、一応全教科ほぼ満点ですね……」
話題を振っているのもあって、自慢みたいになってしまった。
因みに全て満点でないのは数学のケアレスミスがあったからである。記憶力が要求される部分であればまず間違えない。
「本当!? すごいね」
「いつそんな勉強してるんだよ……」
「……正確には知識として入学時点で蓄積してました。 高校で学ぶ範囲は網羅しています」
「何でそんな……ズルいぞ!」
「ズルいと言われましても……、私自身をどういう人物で、何故そんな知識があるのか理解してませんし……」
「あー、そうか。お前記憶喪失なんだったな、忘れてた。 ……すまねぇ」
申し訳なさそうに六笠に頭を下げられる。
「構いません。 記憶を思い出す手がかりも手詰まりで、どうすべきか悩んでいますし……」
「そうだよね。 自分がわからないって、不安だよね……。 私に協力出来る事があれば何でも言ってね」
「わたしも、協力するぞ」
「はい、ありがとうございます」
そう返事をしてみたものの、結局取っ掛かりもなく方針も見つからない。純粋にメグミに会いに行っている部分が多くを占めているが、記憶をなくした直後に転移した向こうの刺激から影響されないかという期待もなくはない。
にしては、出かけずに年中マーク宅でメグミだけと接しているので、もっと外を見て回るべきなのだろう。
(体、鍛えないとですかね……?)
日本と比べれば危険の多いレスプディアで動くには、それ相応の戦闘力が必要なのだろう。あの世界で最も安全な町、エルリーンの中であってもである。
「(……外での活動の為に、身を守る力は付けたいですね)」
「え?」「は?」
私がそう呟くと、二人は驚く。
「よくわからんが、どうしてそんな結論になってんだ?」
「それはですね――」
一応の説明をして、今後の方針について二人と話し合った。




