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第5話① 社交界開催前


==カーティス=エルリーン城・中庭==


 社交界が開かれる当日。その集まりが開催される何時間も前、城の中庭には自警団ランケットの集団と、騎士団と思わしき統一された甲冑を装備した集団があった。この場所ではイベント前特有のどこかそわそわしたような雰囲気が漂っている。

 その中の、特に目立つものを身に着けた男性のうちの一人がランケットの集まりへと歩み出てきた。


「ランケットの皆様! 本日は協力していただきありがとうございます。 私は王国騎士団の第七隊隊長、メルヴァータと申します。 本日の社交界では我が国の要人が集まります。 我々騎士団は建物内の警備を担当しますので、皆様は建物外の警戒をお願いします」


 騎士団の一隊長でありながらも、ランケットに対して丁寧な物腰で話す。その様子は他のランケットのメンバーとしても好意的に感じられたらしく、「まかせてくれー!」「よろしくな!」と気さくな返事を返している。


「皆様もご存じでしょうが、今回の社交界ではダルクノース教が動きを見せています。 かの教団の動きはつかめておらず、今回戦闘となることが予想されます。 我々騎士とは違い、命を賭して戦う様に強制はしません。 危険を感じたら無理をせずに騎士団と合流してください」


 元々傲慢な性格ではないのだろうが、それでも騎士という立場でも協力のためにああいう態度で接することができるのは純粋に驚いた。

 他国ではまず見られない光景だろう。この国では身分にかかわらず騎士になれる、というのも関係しているのかもしれないが。


 その後は詳細な警備担当の説明となる。盗難のリスクを踏まえて詳細な見取り図がないので、騎士の面々が直接担当位置へと案内することになった。

 俺も担当となる位置に案内される。その道中に騎士に話しかけられた。


「あんたさ、この前の闘技大会で優勝してたやつだろ?」

「……そうだな」

「当日非番でさ、見てたんだよ。 まるで本物の勇者みたいに数種類のドロップを扱ってたよな。 その年でどうやってそんなの身に着けたんだ?」

「秘密だ。 知れ渡ると面倒だからな」

「だよなー。 ま、今日はよろしく頼むぜ」

「あぁ」


 その後も彼のお喋りは案内が終わるまで続いた。特筆すべき内容はなかったが。




==杏耶莉(あやり)=レスタリーチェ家エルリーン別荘==


「ふぅ……、何とか間に合いましたわね」


 チェルティーナ宅にて、私の頭の側面に髪飾りを差し込まれるのを確認して、チェルティーナが一息つく。

 私は、中身が出そうな程に腰を締め付けられ、身動きが取りにくいドレスをかぶせられ、ハイヒールを履かされていた。

 体の至る所にリボンやら、ブローチやらをクリスマスツリーの如く飾り付け、仕上げに特注の髪飾りである。


「そういえば、どうして髪飾りだけ新しく注文したんですか? 他の装飾品みたいに借りれば良かったと思うんですが」

「それはですね、貴族の女性は瞳の色と同じ髪飾りをする習わしが御座いますの。 ですから、(わたくし)のものを貸す訳にはまりませんわ」


 「ほへー」と頭の飾りに触れる。確かに私の瞳の色と同じブラウンカラーの花を模した品である。チェルティーナも頭上の赤いリボンとは別に、私のものと似た形の青紫の飾りを付けていた。


「……歩きづらい」


 移動を試みるが、ヒールが高い靴に慣れておらず、ドレスのスカートが膨らまされているので重心がブレる。


「慣れるしかありませんわ」

「とはいってもですよ……」


 思わず転びそうになるのを、近くで待機していたメイドに支えられる。


「アヤリ様は一歩一歩が大きいですわ。 小刻みに歩くことを意識して下さいませ」

「こう……かな?」

「……左右に揺れすぎですわ。 もっと真っ直ぐ歩くようにし、膝を曲げずつま先とかかとを水平に着地するように――」


 彼女のアドバイスを元に何とか歩けるようにはなる。


「アヤリ様は動きに無駄が多すぎますわ。 社交界ではあまり歩き回らないようにしてくださいませ」

「はい……」


 日が傾き、夕暮れの時刻になる。もうすぐ社交界が開かれるお城へと彼女と向かうことになった。


 ……


 「早めに会場入りする」というチェルティーナの宣言通り、私達以外は数組しか会場にはまだ到着していなかった。

 城内の通路は複雑なつくりをしていて、何度も左右に折れながら社交界の部屋へと到着した。

 会場となる部屋は特に天井が高く、煌びやかなシャンデリアが幾つも吊るされていた。

 椅子の類は壁際に寄せられ、長めのテーブルが中央に置かれていた。この後、そのテーブルに料理や飲み物が運ばれ、立食パーティの形式を取るらしい。

 それ以外にも、鎧を着た人たちが点々と待機している。その人達はこの国の騎士であるらしく、警備として立っているのだそうだ。


「全然人がそろってないですが、もう少し時間に余裕があったんじゃないですか?」

「たしかに開始まで時間がありますが、レスタリーチェ家はある派閥の代表ですわ。 同派閥の方々に後れを取るわけには参りませんの」


(そういうものかー)


「とはいえ、ここに居ては他の参加者や給仕の邪魔になってしまいますわね。 端の方で待機していましょう」


 脇に逸れて、社交界が開催されるまでじっと待つ。

 数組が会場へと入った来た頃に、直立していた私の脚に負担が積もり始めていた。


「…………」

「チェルティーナさん、足が疲れたのですが……」

「我慢してくださいませ」


 もう何組かが会場入りする。入ってきた人達の中で同じ派閥だと思われる、三十代ぐらいの男性が私達の方へと向かって来て、チェルティーナと挨拶を交わしていた。

 私はその時点で立っているのがつらくなり、足の姿勢を頻繁に変え始める。

 名乗っていたはずだが、覚えていないその男性が立ち去ってしばらくしたのち、チェルティーナが呆れたように私に話しかける。


「……アヤリ様、そこまでつらければ、そちらにある椅子に座って待ってくださいませ」

「すみません……」


 お言葉に甘えて、壁際の椅子にゆっくりと座る。普段使わない筋肉が少し張っている感覚がする。

 すると、近くに居た騎士の一人が、私の元へと近づいて来た。


「ご気分がすぐれないので?」

「あ……、いや、大丈夫です。 少し足が疲れただけで……」

「左様で。 見かけない方ですが、どこの家の方ですか?」

「家というかなんというか……」


 チェルティーナから、あまり自分が異世界から来たと伝えない方が良いと言われていた。特にこの社交界では、どんな騒動に巻き込まれるかわからないので、彼女が許可していない相手に教えるなと口止めされている。


「べ、別の所から……。 詳しくはチェルティーナさんに聞いてください」

「ふむ、承知しました」


 私がはぐらかすと、質問してきた割にあっさりと彼は身を引く。彼女の名前を出したからだろうか。


「何かあれば、我ら騎士団の第一隊にご申しつけ下さい」

「ありがとうございます」


 それを伝えると、騎士の人は元の位置へと戻って行った。


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