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第31話② 視線を感じる女性


==杏耶莉(あやり)=快天の節・四週目=住宅街==


 私とカティは住宅街に存在するある集合住宅の一角に来ていた。


「ここが依頼主の部屋みたいだな」


 依頼を受けるかどうかを決めるにも、まずは話を聞かなければ始まらない。カティはドアノッカーを叩いて暫く待つ。

 その扉を開いたのは、二十代前半……もしかするとそれすら到達していない年齢の女性だった。少なくとも私よりは年上だと思われる。


「あ……」


 その女性は視界に現れたカティを見て怯えた様に一歩下がるが、その隣に私が居るのを見つけてその場に留まった。


「ランケットからの依頼で来た、カーティスだ」

「ええと……あの……」


 カティから目を逸らして私に縋る様な視線が送られて来る。自ら依頼を出したと思われるがその態度からして男性への不信感でもあるのだろう。


「大丈夫、こう見えてカティ私より年下ですから」

「年……下?」


 私がカティの前に立つと、挙動不審だった彼女が多少は落ち着きを取り戻す。そんなやり取りを見ていたカティが軽く提案する。


「……俺は外した方が良さそうか?」

「いえ……あの……。 大丈夫、です……」


 もう一度私をちらっと見た女性は、そのまま私達を中へと招き入れてくれた。


 ……


 席を促されて座って待っていると、紅茶が出された。彼女が一口飲んだのを確認してから私も口を濡らす。

 彼女が悪い訳ではないのだが、普段飲んでいるものと比べると数段格が落ちた風味である。

 そうして落ち着いた状態になったのを見計らって、カティが私に対して無言で頷く合図を送った。その意味を理解した私は、話を切り出した。


「……それで、依頼内容っていうのを教えてもらえませんか?」

「ええと……はい……。 こんな話をしても信じてもらえないかもしれませんが……」


 そう前置きをした彼女はつらつらと話し始めた。


「最近私、誰かに見られている気がするんです……」

「誰かに見られる?」

「はい……。 深夜に街を歩いている時だけ、どこからか視線を感じるんです。 でも、人の姿はどこにもなくて……」

「深夜に出歩かなければ良いんじゃないか?」

「ひっ……、ええと……あの……」


 ぶっきらぼうにそう言ってのけたカティに怯えた様子でたじろぐ女性。私は黙ってデリカシーのないカティを睨む。


「……」


 無言で謝罪の念を表すカティを確認してから、女性に話を促した。


「深夜にどうしても出歩かなければならない事情があるんですね?」

「ええと……はい……。 私、仕事が大衆浴場の受付と掃除で……。 なので、帰りはどうしても遅くなってしまって……」


 町の北にある工業街にはそういった施設が存在すると聞いたことがある。炎天下で働いた職人が汗を流す為に利用されているのだそうだ。

 ただし、時間で男女が切り替わるのだが、女性は夕方の早い時刻に短い間だけ利用可能となっている。理由は単純に職人の多くが男性で、利用客を考慮した結果らしい。その為、私は利用した事がなかった。


「それで、視線を感じるっていうのは街中だけ何ですか?」

「はい……。 人の居る場所では普通なんですが、一人で歩いている時だけ、です……」

「独り身の女性がそうなると怖い、ですよね」

「は、はい……。 両親を早くに亡くして、家業も継げずに婚期も逃してしまったもので……」


(私とそう変わらないと思うのに……。 あれ、見た目で判断してるだけだから以外に年離れてるのかな?)


 この世界の結婚適齢期は十八歳前後らしい。成人である十八前に旦那を捕まえるのが理想なのだそうだ。私からすれば二十代の間に結婚出来れば御の字だと思う。先の事過ぎて今は考えられないし、相手も居ないのだが……。


「働いている時や日中は視線を感じない、と……。 何か物がなくなるとかはありませんか?」

「そういった事は特に……。 物をあまり持ち歩かないというのもあるかもしれませんが……」


 真夜中に視線を感じる。それ以外の情報も何もなかった。


「(カティ、どう思う?)」

「(どうも何もなぁ……。 気のせいか、そうでないなら直接調べるしかないな)」

「(だよね……)」


 これ以上この場で話しても得られるものはないと判断した私達は、彼女の通る道と職場を聞き出してから席を立つことにした。


「それでは、一度調べてみます。 お茶、ご馳走様でした」

「あ、あの……。 依頼料ってどうなりますか?」

「……どうなの、カティ?」


 あくまで私とこの女性、私とカティが会話をする状態になる様に仕向ける。


「本当に気のせいだったらほんの少しだけ依頼料……今飲んだ紅茶が三杯飲める程度の額だけ貰う。 そうじゃなくて本当に見ている奴が居るならそいつからまとまった額をふんだくるな」

「……だ、そうです」

「そう、なんですね。 意外とお安い……?」


 安いかどうかは知らないが、なし崩し的に依頼は受ける形となった。


 ……


 カティと並んで工業街の公衆浴場へと歩いていた。


「一応通る道と職場は見に行くが……多分空振りだろうな」

「そうなの?」

「多分だが、今回の一件はドロップが関わってる」

「ドロップ……」

「あくまで俺の予想ではだがな。 元々こういう事件は珍しくないんだよ。 ただ、この国では産出量の割にドロップの種類に偏りが多い。 だから、今回みたいな騒動で使われるドロップをあまり見ないんだ」

「使われる種類ってどんなのなの?」

「幻術か透過のドロップだな。 どちらもレスプディアで見かけない類だな」

「幻術って、あの?」


 幻術のドロップは、社交界の襲撃にて使われたものである。私もペルなんとかという主犯格に捕まった際にその能力を味わっていた。


「懐かしいなー。 初めてカティと話したのがあれだったよね」

「……そんな懐かしむ様な出来事でもないだろ……」

「でも、幻術のドロップがって言うなら、もしかしてダルクノース教だったよね? それが関わってる可能性も……」

「……多分、そんな大層な事件じゃないと俺は思うぞ?」


 少し呆れた様子でそう話すカティと、依頼女性の通り道を巡った。


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