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第31話① こっちの世界の家事仕事


==杏耶莉(あやり)=快天の節・四週目=カーティス宅・リビング==


 三人でレスプディアに転移して早々、宿理(しゅくり)はメグミの所へ。瑞紀(みずき)はどこかへと出かけてしまう。

 残された私は、カティとの約束を果たすべく市場で食材を買ってきて料理をしていた。


 レスプディアは豊かな土地柄なので耕種や畜産といった農業が盛んである。その為麦や野菜に果物、それに乳製品や多様な肉類が出回っているのでよく食べられる。また、それらから生み出される衣類や油を使った製品、それに酒類といった品々が豊富だったりもする。

 それに対し、海産物はまずお目にかかれない。単純にこの町エルリーンが中央に位置していて遠いというのは一因にあるのだが、そもそもこの国では内陸ではなく西側は海に面しているにも関わらず漁業は殆どされていないらしい。何でもそれらの場所はどれも断崖絶壁で岩山のごつごつとした環境らしいのでまともに近寄れないとのことだった。

 わざわざ海に目を向けなくても肥沃な大地があるので必要なかったというのが実情なのだろう。だからか、見かける塩はほぼ全て国の北側に存在する山岳地帯の岩塩由来なのだそうだ。

 ここまでがチェルティーナから三年前に聞いた話である。だからこそ、私は海産物ではないものを使った料理レパートリーを増やしていた。当然現代的で便利なものを使わずに原材料から作れるものである。


(百歩譲って魚はなくてもいいけど、お米は欲しいよね……)


 実は一度だけ他国から流れてきたという米は見つけていたのだが、値が張るわタイ米っぽいわで結局手に取らなかった。

 文化的にはパン食か麺類が基となる国なので、それに近いおかずを見繕う方向に切り替えていた。


 そんな訳で今回作るのはミネストローネである。

 まずは出汁の準備をする。後で使う具材である野菜の皮とかと安く買い叩いた鶏の骨少量を煮込む。香りが強くなってきたらザルに通して一旦放置。

 適当に見繕った具材を大きめにカットしてそれを植物油を引いた鍋で炒める。弱火で火が通ったら、今度は細かく切ったトマトと水、先程の出汁を投入して火を少しだけ強めて煮込む。

 具材が柔らかくなったら塩を加えて完成である。


「さ、出来たからどうぞ」

「よし来た!」


 何が面白いのか、私の料理風景をじっと眺めていたカティが待ってましたと声を張り上げる。


「特別な料理って訳じゃないけど、美味しく出来たと思う……多分」

「それで良いんだよ。 俺にとってはアヤリが作ってくれただけで十分特別だからな」


 カティは歯の浮きそうなセリフを何故か私に投げかける。前回家を買う際も思ったのだが、カティなりのからかい方なのだろうか……。

 何はともあれ流石に自家製するつもりのないパンを添えて提供した料理を彼は美味しく食べてくれた。


 ……


「戻ったぞいっと……」


 私達が昼食を終える頃、いの一番に出掛けていた瑞紀(みずき)が戻ってきた。


「お帰りー」

「おっ、美味そうなの食ってんな。 わたしにもくれ」

「はいはい、じゃあ手を洗ってからね」


 多めに作っていたので残っていたミネストローネを提供する。恨めしそうにカティが瑞紀(みずき)を見ていたが、三杯はお代わりしていたカティはもう十分であろう。


「それで、どこ行ってたの?」

「んー? ……それがだな、わたしランケットに入る事になった」

「え」「は?」


 私とカティが同時に驚く。何食わぬ顔で料理を食す瑞紀(みずき)を問いただす。


「何で、どうして……?」

「面白そうだったから。 前にも言ったがランケットのリーダーと会ってたんだよ」

「またあいつ……」


 カティは正式にランケットを脱退していた。その為、入れ違いで瑞紀(みずき)が入った形になる。


「……危なくないの?」

「しらね。 けどさ、こっちに居る間はアヤリはカッちんが一緒に居るしな。 それなら楽しくやりてーだろ?」

「何で私があんたにお守りされてる前提なのよ」


 私の不満な一言に対して、カティが何故か瑞紀(みずき)に無言で頷いていた。意味不明である。


「それで、ランケットが負うべき崇高ななんちゃらってのはどうでも良いんだが、単にグリッドと意気投合してな。 それで、手伝ってやるかって寸法だな」

「へー……。 まぁ瑞紀(みずき)が犯罪じゃなければ何をしようと勝手だから良いけどさ。 最低限明日の夜までには戻ってよ?」

「おうよ」


 そう言って彼女はまた出かけて行った。なんだかんだどこでも生きられそうな性格をしているのでほおっておくことにした。


 ……


 料理に使用した鍋や食器を洗い終えると、カティが溜めていた洗濯物に取り掛かる。以前はウィズターニルでまとめてやってもらっていたらしいが、それが私に皺せてされていた。別に家事をするのは必要とされている感じがして嫌ではない。

 体格だけなら既に成人男性と変わりないカティなので、当然衣類も大人ものを使用している。だが、性別が逆なら気にする所かもしれないし、私自身男性の肌着で『キャアキャア』言う程乙女でもないので特に気にせず処理した。とは言ってもドロップ製品の洗濯機に入れて洗剤と共に回すだけだ。その程度ですら家事をしない人からすれば干したり取り込んだりすらも面倒だと言われてしまった。

 掃除は洗濯物が現れている途中に済ませた。拭き掃除こそ毎回はしないが、日々の積み重ねが大事なのでしっかりと塵を掃除機で吸って終わらせている。この国では原則靴を脱がない習慣だったりするが、私の提案で自宅内では靴を脱ぐ決まりにしているので綺麗な方であろう。以外にもカティはすんなり賛成してくれたりもした。


「それで、今日と明日って何か用時とかあるの?」


 そんな家事を一段落させた私はカティにそう聞いてみた。そのうち城の人に挨拶をしに行きたいのだが、それまで私に予定は特になかったりする。


「それがだな……。 実はランケットから依頼の紹介がされてて、それを済ませたいって考えてる。 依頼主が女性だからアヤリが居る日の方が先方も安心すると思ってな。 もし用事がないなら手伝ってもらえるか?」

「そうなんだ。 私は大丈夫。 それじゃあ、早速行こっか」


 気持ちよく家事を終えた私は彼と共に依頼主の下へと向かった。


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