第30話① 瑞紀の第一適性
==杏耶莉=快天の節・三週目=マクリルロ宅・研究室==
「ドロップの時間だぜぇい!」
「……何なんだい、こっちに来て早々に騒がしい」
彼女にとって初めての異世界転移から一週間、何度となくドロップに対する興味がある旨を話し続けてきた瑞紀のテンションは歯止めが利かくなっていた。
「ごめん、マーク。 瑞紀が聞かなくって……」
「だってファンタジーだぜ!? 魔法だぜ!? これでアガらない方がおかしいだろー」
「……慣れるとそんな感動する程でもないよ?」
私は何度言って聞かせたかわからないセリフを口にするが、お構いなしな瑞紀はマークに詰め寄る。
「わたしも適性を調べろー!!!」
「……ボクはデュアルの研究に忙しいんだけど」
そう言いつつも、なんだかんだ私と宿理がユニーク持ちであったので気になってはいたのだろう。すんなりと適性測定器を取り出して調べる事となった。
……
「……結果は平均よりやや高めだけど、それ以外は普通だね」
マークの言葉に、私と瑞紀はモニターを覗き込むが、言われた通り別段特筆すべきものはなかった。
「一番伸びてるのは……弓?」
「この数字は何だ? 強さか?」
瑞紀の言葉にマークが頷くと、ぽつりと『レベルだな』と答える。ゲームにありがちなレベルという表現は妙にしっくり来ていたので、今後はこの値をそう呼ぶことにした。
「んじゃま、わたしの適性は弓なのか?」
「その可能性は高いけど、この測定器はあらゆるドロップを観測できる訳ではないし、前例として流通している特製とは違う物である可能性は否定できないかな」
前例、とは恐らく私の事だろう。私は剣のドロップで行使できるものの、その性質は他者のそれとは明らかに違っている。
「なら、試そうぜ!」
「そう言うと思った……」
マークから託宣のドロップを受け取った瑞紀が庭へと意気揚々と出かけるので、私はそれを追った。
「っと、マクリンは来ないのか?」
「普段なら興味津々で見に来るだろうけど、今はかなりステアクリスタルにご執心みたいだからね」
大した興味もないのか、「ふーん」と適当に流した瑞紀は恐れる事なく託宣のドロップを口にした。
「無味無臭」
「食べ物じゃないからね。 それと、口に含んで喋らないで」
飴玉のみたいに頬張っていた彼女だが、私の言葉を聞いて噛み砕いたらしい。その次の瞬間、手を構えて見せると、そこに弓が生成された。
「想定通り、弓だったんだ」
「……」
「瑞紀?」
私の問いかけに返事をせずに、黙って弓を見ていた瑞紀だが、不意に生成した矢を番えて構える。そして、庭に生えていた木に狙いを定めた彼女はじっとしたまま動かなくなった。
「どうし――」
再度話しかけようとして、先週話しかけるなと言われていた事を思い出す。黙って彼女がその弓を構え続けるのを見ていた。
「……」
「……」
彼女と木の距離は決して遠いという長さではない。以前騎士の宿舎で見せてくれた際の的までの距離の方が倍以上遠い。にも関わず、狙いを定めて動かない彼女に何らかの違和感を覚える。
(狙いが定まらないって事はないよね。 弓が使いづらいって訳でもなさそう。 寧ろドロップで生成した武器とかって使いやすいし……)
だからこそ動かなくなった瑞紀が理解できない。何分経過したのかわからないが、痺れを切らした私は諦めて声を掛けようとしたその瞬間、彼女は矢から指を外して射出した。
「……」
「うわっ!!!」
それと同時に巻き上がる疾風に驚いた私はその場で尻もちを搗く。周囲の空気を暴風に変化させながら直進する矢は直撃した木に大穴を空けてそのまま空中を真っ直ぐ進み続ける。
幸いその後何にも命中せず、誰も居ない空間を突き破った矢は最終的に塵となって消え失せた。
「瑞紀、何が……」
「これは、ヤベェ……」
矢が消えるのと同時に消失する弓、それを持っていた手のひらをじっと眺めながら彼女は呟いていた。
「貫通弓矢ってとこか? 一定の力で弓の弦を引き絞り続ければ続けるだけ発射される矢の威力が上がり続ける。 原理的にあり得んが、そんな感じみてーだ」
「……まさか、唯の弓矢じゃなくて、特別だったって事?」
私の質問に彼女は頷いた。
「ちょっと、物凄い音が聞こえましたが……えぇ!」
慌てた様子でマーク宅から現れたメグミと、その後ろに控える宿理。そして、無残な風穴を空けた木をみて呆然と立ち尽くしてしまった。
「木が……」
「あ、ヤベ……。 大事なもんだったか?」
首を振るメグミだが、驚きの表情はそのままである。
「マークがこの家を購入する前の住民が植えたものらしいですが、それがどうしてこんな……」
「わたしだ、何か悪かったな」
彼女は二人に対して簡単に経緯を説明する。
「……では、ここの片付けはやっていただけますね?」
「は?」
一応の話を聞いた後、メグミはそんな言葉を口にする。
「よくよく周りを見渡してください」
険しい表情のメグミの従って周囲を見渡す瑞紀だが、疑問の表情でメグミに顔を戻す。
「……この木から落ちて来た落ち葉、その片付けはお願いしますね」
私は気づいていたが、その言葉で初めて意識したのだろう。周囲の地面には緑色の葉っぱそれなりの量で散乱していた。
木に直撃した瞬間、地響きと共に落ちて来ていたのだが、それに対して頭は回らなかったのだろう。
「それと、その気ですが……。 別段誰かが好き好んで手入れしていた訳ではありませんが、流石に穴の開いた木は目立ちますし、もう助からないでしょう。 アヤリさんには樵を頼めますか?」
「あ、はい……」
不機嫌そうなメグミに対して返事をすると、宿理の手を引いてまたマーク宅へと戻ってしまった。
「片づけるか……」
「そう、だね……」
なんだか巻き込まれた気がしないでもないが、一因となっているのは間違いないので大人しく片付けに参加した。




