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第29話④ 瑞紀とランケットと雑談


==杏耶莉(あやり)=酒場・ウィズターニル==


 改めて瑞紀(みずき)との紹介と昼食を済ませた私達は話を続けていた。


「……そういえば瑞紀(みずき)、さっき怪しい勧誘がどうとかって言ってなかった? 大丈夫なの?」

「あ……? ランケットのリーダーとか何とかって奴が、わたしを一目見て――『町の治安維持に興味はないか』って聞いてきてな」

「ランケットの……」


 その話を聞いていたチェルティーナが興味深そうに話しに加わる。


「まぁ、グリッド様に会ったのですわね。 あの方は人を見る目がありますので、何らかをミズキ様に感じたのかもしれませんわ」

「ほーん。 悪い気はしないな」


 私は顔も見たことがないリーダーを思い浮かべる。


「でもわたしは、そんな崇高な何かに興味ねーしな。 クソどうでもいいから断った」

「それは勿体ないですわ! 別にメンバーの誰しもがそういった広い目で活動している訳でも、未来を見据えて行動している訳でもありませんわ。 ですが、時折誰かを助けたりして遣り甲斐を見出してますもの」

「なるへそ、ちょい検討してみっかなー」


 両手を後頭部に回してそう呟く瑞紀(みずき)。私としては彼女にもこっちの世界の知り合いと仲良くなってもらうのは嬉しい限りだが、一度集中してしまうと歯止めが聞かない性格なので様子はしっかりと見張ろうと誓った。


「……アヤ、話良い?」

「どうしたの?」


 話が一段落した所で、私はサフスに話しかけられる。


「……アヤに聞いてほしくて。 実は今、町の小さい子に文字を教える教師をやってて……」

「あー、そうなんだ。 サフスは教えるの上手かったもんね」

「……ありがと。 それで、そんな切っ掛けになったアヤには改めて感謝したかったから……ありがとう、アヤ」

「どういたしまして。 でも、文字を読めない人ってあんまり居ないよね? 学校とかないのに凄いと思うな」


 語弊なく言ってしまうとこの世界の文化レベルは日本より低い。だからなのか、義務教育といった制度がないので私としては文字が読めない人がもっと多そうなものである。だが、実際はほぼ全ての人達が文字の読み書きが不自由なく出来ている。


「それは、国の制度として整備されているからですわ。 今の国王様の先代の方が大規模な文化革命として大量の学者を雇用して、国全体に教え回らせましたの。 その後の法として我が子に『教育を施すべし』というものが存在しますわ。 正しく教育されていない場合は厳しい罰則を課せられますの」

「罰則……。 厳しいんですね」

「めんどくせーな。 勉強しないと親が捕まるのか」


 私と瑞紀(みずき)の反応に、チェルティーナは肯定の意味を含めて頷く。


「国の発展に欠かせない文化だと考えておりますので、それを妨げる者は反国民という考え方ですの。 我が家の領地では主要都市に学び舎を設けてますが、人口が格段に多い中央の領地、ここエルリーンではそういった設備はありませんわ。 そんな折サフスは希望者を募って親が忙しい家庭の子を預かっていますの」

「……そうなんだ。 まだまだ力不足だけどね」


 少し後ろ向きなサフスにチェルティーナが元気付ける。


「そんな事ありませんわ! サフスの教え方は優秀ですので、手紙を領地に送って我が領でも取り入れてますのよ?」

「え!? それは初耳……」


 「当然ですわ! 言ってませんもの」と自信満々で開き直るチェルティーナである。権利とかないのだろか……。


「そいえばわたし、文字読めんな。 今日こっちに訪れたのが初めてだからな」

「それにしては言葉が流暢――っと、そういえばそれがありましたわね」


 言葉を言い掛けて、瑞紀(みずき)の耳に付いている翻訳機を見つけた彼女は納得する。


「……それ付けてると識字学習の覚えが早いから、欲しいな……」

「これはマーク様の持ち物でしたわね」

「……ミズキも識字するのか?」


 カティがそう質問すると、本人は露骨に嫌そうな顔になる。


「うへー、めんどいから嫌だな。 やっぱこっちに来るの止めるか……?」

「そこを理由にしちゃうんだ……」


 勉強もそうだが、瑞紀(みずき)は何かに縛られるのを露骨に嫌う。私には理解できない感覚だが、一貫しているその姿勢は嫌いではない。

 私としては犯罪さえ犯さなければ多少は許容出来る部分も手伝っているのだろう。ただし、他人に迷惑をかける言動は都度矯正させているが……。


「ですが文字が読めないのは不便ですわよ? アヤリ様に付いて此方には度々訪れるのではないのですか?」

「んー……そうだよな。 どうすっかなー」


 結局煮え切らない様子の瑞紀(みずき)を他五名で説得して、サフスの教えを受ける事になった。


 ……


 一しきり話をし終えた私達はこの後の日程を確認していた。


「この後はどうするんだ?」

「お城の二人の王子様も知り合いなんだけど……今日突然行っても会えないよね」


 そこまで深い中ではないが、世話になった相手ではあるので挨拶したかった。


「……アヤリ様達が来られるのは今日から見て七日後の多くて二日間、でしたわね」

「それで合ってますね」

「でしたら、殿下両名には会いたい意志があると伝えておきますわね。 アヤリ様と殿下どちらもの都合が良い日に場を設けますわ」

「へー、杏耶莉(あやり)はそんなお偉いさんとも知り合いだったんだな」


 瑞紀(みずき)に意外そうな表情でそう言われる。


「……成り行きでね」

「お前の態度からゲスい奴ではないんだろ? 上層部が腐ってるとかありがちだしな」

「……ミズキ様。 貴方にそんな意志がないと(わたくし)は理解できますが、王族を侮辱していると取れてしまう発言は控えるべきですわよ?」

「あー、そっちも気を付けねーとか。 慣れなんだろうが、大変だな……」


 ため息を付く瑞紀(みずき)と席を立ち、カティ、チェルティーナ、サフスに別れを告げてマーク宅へと戻る事にした。


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