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第4話④ チェルティーナの来訪


==杏耶莉(あやり)=マクリルロ宅・リビング==


 路地裏での一悶着があった翌日。マークと共にいつも通りに朝食を食べた片付けをしていると、玄関のベルが鳴らされる。


「来客の予定はなかった筈だけど」

「私、出ようか?」

「それならお願いするよ」


 マークに断りを入れて、玄関に向かう。

 ドアを開けるとそこにはフェンが立っていた。その後ろには馬車が見える。その馬車のカーテンが開かれると、チェルティーナが顔を覗かせていた。


「突然の来訪で失礼いたします。 お嬢様がアヤリ様に会いたいと申されましたので」

「は、はぁ……」


 一度フェンは馬車の方に戻り、扉を開いてチェルティーナが降りてくる。


「話を聞く約束をしていたのに、次会う日を決めておりませんもの。 (わたくし)やきもきしてしまい、思わず訪ねてしまいましたわ」

「よくマークの家(ここ)が分かりましたね」

「それはフェンに送らせましたもの。 当然わかりますわ」

「あ、そっか……」


 彼女は手を口に当てて上品に笑う。

 そうこうしていると、戻らない私が気になったのか、マークが後ろから姿を表す。


「誰が来ていたんだい? ……キミは?」

「お初にお目にかかります。 レスタリーチェ家次期当主、チェルティーナ・レスタリーチェと申します、以後お見知りおきを。 ベレサーキス様で間違いございませんか?」


 チェルティーナは、スカートの左右を摘まみながら挨拶をする。


「……間違いないね」

「でしたら、気軽にチェチェとお呼びくださいませ」


 にっこりと笑顔でそう答える彼女に、ため息をつきながらマークは返した。


「マクリルロ・ベレサーキス、マークで構わないよ」

「では、これからはマーク様、とお呼びさせていただきますわね」

「任せるよ」


 あまり穏やかとは言い難い自己紹介を交わす。マークは眼鏡を正す仕草をして面倒くさそうに私達に告げる。


「立ち話もなんだし、入ったらどうだい?」

「あら、それではお言葉に甘えてお邪魔させていただきますわね」


 ぽかんとする私を置いて、チェルティーナとフェンはマークの家へと入って行った。


 ……


 フェンに手伝われながら紅茶を準備して座ると、チェルティーナは改めて来訪の目的を話し始めた。


「約束をするにしても予定が合わなければ意味ありませんし、まずはアヤリ様の空いている日を聞きたいですわ」

「私は別に予定はないですけど――」


 そこまで言いかけて、昨日の講義で出会った男の子、サフスの顔を思い出す。約束をしていたわけではないが、二日後は講義に出ようと思っていた。


「明後日は予定が入ってますけど、それ以外は予定はないです」

「意外と暇ですのね。 ……フェン、四日後は空いてましたわよね」

「はい、その日は予定が御座いません」

「では、アヤリ様。 四日後は我が別荘へと、改めて招待いたしますわ」


 特に予定はないので頷くと、彼女は「迎えは寄こしますのでここでお待ちくださいませ」と笑いながら答えた。


「さて……(わたくし)の目的は果たしましたし、本題に入らせていただきますわね」


(今のは本題じゃなかったんだ……)


 彼女の後ろに控えたフェンが一枚の紙を取り出す。


「明日、王城にて聖天の節の社交界が開催されますわ。 実はある方からアヤリ様(貴方)を招待してほしいと頼まれましたの」

「社交界?」


 手渡された紙を見るが、文字ばかりでとても読めない。


「それは招待状ですわ。 社交界は貴族同士で交流を深め、この国の未来をより良くするためのパーティですの」

「私、貴族じゃないですよ?」


 その答えにマークも同調する。


「誰の招待か知らないけど、このような招集は立場を悪くするんじゃないかな」

「その点については抜かり有りませんわ。 何故ならアヤリ様を招待したのは()()ですもの」


(王族の知り合いはいないんだけど……)


 王族……、この国で一番偉い人だろう。どうして私を招待することになったのかわからないが、あまり喜べる情報ではなかった。


「……彼女を見世物にするつもりはないんだけどな」

「あら、マーク様。 貴方も招待されているはずですが、今回も今まで同様に参加しないおつもりですの?」

「ボクはそういう場に興味ないからね」

「貴族としての義務ですわよ」

()からボクにそういう責任はないと聞いてるからね」

「あの方としては出席すべきと考えているから、貴方にも招待状を送っているのですわ」


 玄関の時同様、マークとチェルティーナは険悪ムードで言葉を交わす。


「そもそも、アヤリ様への対応も気に入りませんわ」

「……それはどういうことかな?」

「あのような恰好で外を出歩かせるなど、常識のない方への配慮として足りませんわ」

「恰好が、何かな?」

「まぁ! 本当におかしいと思っておりませんのね……」


 チェルティーナは手で目を覆って息をつく。フェンが「お嬢様」とだけ答えると、顔を上げなおした。


「……話が脱線しましたわね。 兎に角、アヤリ様には社交界に参加してほしいですわ」


 マークとの言い合いの熱が残っているのだろう。少し勢いのあるまま私にそれが向けられる。


「は、はい……」


 そう答えると、彼女は私の手を取って喜ぶ。


「助かりますわ。 それでは時間がありませんので、準備を始めましょう」


 私の社交界への参加にあたり、資金提供がなされているそうだ。サイズを知っている靴と、髪飾りを既に注文していたらしい。

 相場の数倍の金額で今現在、職人が働いているとのことだった。


(見知らぬ職人さん、ドンマイ……)


「続いて衣類(ドレス)ですけれど、これは流石に仕立て上げる時間が足りませんわ。 (わたくし)の所有する者のうち、袖を通していないものを差し上げますわ」

「それは、悪いですよ」


 両手を前に出して遠慮するが、チェルティーナは上品に首を横に振る。


「仕立てる際の費用はいただいている資金から引くと伝えておりますし、(わたくし)とアヤリ様であればサイズ調整も必要ありませんわ」

「でも……」


 以前譲られた服とドレス類は、額が何桁も違う。受け取り拒否をする私に彼女は「その文句は招待した方にお願いしますわ」と抗議を突っぱねる。


「最後に、装飾品は(わたくし)のものを貸すとして……、大丈夫そうですわね」


 チェルティーナは優雅に立ち上がると、マークに向けてスカートを摘まんで挨拶する。


(わたくし)達は御暇させていただきますわ」

「……そうかい、それじゃあ任せるよ」

「えぇ、お任せくださいませ」


(何を任せるんだろう?)


 玄関の方へと歩いて行くチェルティーナをその場で見送っていると、振り返った彼女が私に一言。


「アヤリ様も行きますわよ。 靴と髪飾りがそろっていないとはいえ、ドレスや装飾品の調整はしなくてはなりませんもの」

「はい?」


 彼女の言葉が理解できず、マークの方を見る。


「ボクは、研究があるから……。 じゃあね」


 彼は、そそくさと研究室へと引きこもってしまう。


「忙しくなりますわよ」


 チェルティーナは頭上の大きなリボンを揺らし、可愛らしい微笑みでそう私に告げた。


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