第29話① 騎士団と久しぶりの模擬戦
==杏耶莉=騎士団第七隊宿舎・訓練広場==
早速私が向かったのは、騎士団の第七隊の居る宿舎だった。
私が戻った事は伝わっているらしく、到着早々隊員達に出迎えられた。
「久しぶりだねー、アヤリちゃん」
「お久しぶりです、マローザさん」
「お・ひ・さ☆だね」
「……ライディンさんもお元気そうで」
若干引き気味に対応した私だが、その背後に付いて来ていた瑞紀を見つけると、そっちにも声を掛ける。
「やあ、可憐な嬢ちゃん☆。 君のお名前は?」
「おぉ、わかってるじゃないか。 瑞紀ってんだ、よろしくな」
「ミズキ、良い名だっ。 良ければお茶しない?」
「茶だぁ? 酒なら構わんぞ」
「あんたまだ未成年でしょうが!」「訓練中に茶の誘いとは、とんだご身分だな」
私が瑞紀を窘めるのと同時に、背後から現れたゾロギグドにライディンが頭を鷲掴みされる。
「久しぶりだな、嬢ちゃん。 それと、折角来てもらったのにこれが邪魔してすまんな」
「い、いえ……」
力強く掴まれたライディンは苦痛の声出しながら奥へと引っ張られて行ってしまった。それを目で追いながら、ジャッベルが補足する。
「別に悪気はないと思うから、そんなに邪険に……しても、まぁしょうがないよね」
「しょーじき、ちょくちょく私にちょっかい出してきて面倒ですよー」
「あはは……。 そんな態度でよく除隊されませんね」
以前から感じていた事をストレートに聞いてしまう。
「普段からあんなだけど、これでも有事の際は頼りになるんだよ」
「確かに、なんだかんだ根は真面目そうですよねー」
「……それはマロちゃんもね」
「そーですかー?」
そんな世間話を適当に切り上げて、瑞紀と第七隊の隊員との紹介を済ませる。
「――って感じ。 エルリーンに住んでた頃は見習い騎士として剣の訓練させてもらってたんだ」
「騎士とか剣とか、いかにもだな。 それより、杏耶莉が剣術なぞ出来んのか?」
「アヤリちゃんは凄いよー。 短い期間でめきめきと才覚を発揮するだけしてレスプディアから出てっちゃったんだよねー」
「……急な話ですみません」
異世界転移について知らない隊員には、別の国出身でそっちに急遽帰らなければならなくなったと話していた。
別に嘘は言っていないが、意図的に勘違いする言い方になってしまっているので罪悪感があったりする。
「それで、瑞紀とは同郷で、縁があって一緒に来たんです」
「そうなんだね。 またここで暮らすのかな?」
「いえ、一応すぐに来れる位置に滞在はしますが、エルリーンには住みませんね」
これも嘘ではない。だが、騙しているみたいで心証は良くはなかった。
「そうかー。 なら、以前みたく訓練には参加しないのー?」
「……今日の様に、時間さえあればこれからも顔を見せたいと思ってます。 迷惑ですかね?」
「んな事ないよー」
「俺も同意見だし、他の隊員も迷惑だなんて思わないよ」
私が少し申し訳なさそうに言うと、マローザもジャッベルも快く歓迎の意を示してくれる。
「そうだ、折角なら模擬戦やろー。 三年の間にアヤリちゃんがどれだけ強くなったか見てみたいしー」
一度手合わせする事になったので、私はこの世界の外行き衣装から、動きやすい服装へと着替えて準備をした。
……
私とマローザの双方は木剣を持って広い空間で対峙して立っていた。
「アヤリー! 負けるなー!」
「アーちゃん、がんばえー」
私側には二人の応援団が居て、片方は無駄に必死で、もう片方は力の抜けた応援だった。
因みに瑞紀は、私をふざけている時にアーちゃんと呼ぶことがある。小学生低学年時代に彼女から呼ばれていた名残だったりする。
「応援があって良いですねー。 ジャッ君も応援してくださいよー」
「え? どちらかと言えばアヤちゃんに勝ってもらいたいし……」
「何ですかー、酷いですねー。 私は寂しく独りでアヤリちゃんに勝ちますよー」
「……やるからには勝ちは譲りませんよ」
そう意気揚々と言ったは良いものの、実際は三年前の模擬戦では勝った事の方が少なかったりする。経験による差は小さくなく、私の戦法は剣の特殊性を利用した一撃必殺が中心だからである。木剣では勝てる見込みはなかったのだ。
だが、三年間欠かさず素振りや仮想敵を相手取った訓練をこなしていた。それに、先のフェアルプの戦いで連戦に次ぐ連戦を過酷な状態で続けていたので、相応の自信もあった。
「それじゃ、始めよう……ファイッ!!」
開始の合図を務めるジャッベルの号令によって模擬戦が開始された。
私もマローザも相手の出方を見る事なく、直線的に駆けるので距離はすぐさま詰められた。
「はぁっ!」
私が木剣を振ると、それをマローザは同じく木剣で受け止める。本来ならここで相手方の木剣が斬り裂かれ――
「ん!?」
実際の戦闘なら、確かに斬れる軌道だったのだが、それを模擬戦の木剣とはいえ、切断されない動きで私の剣をマローザは受け流した。
「実践なら、って言い訳されたくないからねー!」
「そういう、事ですか!」
そんなやり取りを何度も繰り返す。時折私の隙が大きいポイントですかさずマローザに一太刀突かれるが、それを的確に見ていた私は回避に成功していた。
「お互い、一歩も引かずにかつ、一撃も食らわずに攻防してるな」
「……カティスが漫画みたいに解説し始めた」
「……漫画?」
観戦していたカティと瑞紀が絶妙にかみ合わない会話をしているのが耳に入る。
だが、それにツッコミを入れる余裕が私にはなかった。
(――よし!)
意を決して行動を決めた私は、半歩下がってから体を捩じって蹴りを叩き込む。それにカウンターで剣を構えたマローザだったが、蹴りは囮で本命の剣での一閃が彼女の胴体に確実に届く確信の後はそれの威力を緩めた。
同じくマローザも私の脚に直撃はさせず、木剣寸止めさせると、大の字になってその場に倒れ込んだ。
「負けたー」
「ですね、私の勝ちでした」
マローザの一撃は勢いからして普通の剣でも私の脚は叩き斬られてしまっていただろう。だが、同じく、私の剣ならあの時の勢いでも彼女の胴体を真っ二つにしていた。この模擬戦は致命傷を与えられたと推測できる私の勝ちである。
「ん……どゆことだ?」
「恐らくアヤリ達は実際の戦いを想定して模擬戦をやってたんだ。 だから、本来なら戦いが終わった時点で攻撃を止めてた」
カティが瑞紀へと説明している。その通りで、真剣勝負ならこうだった、とどちらも話し合いが出来る程度に精練されていた。
「でも、実戦ならマローザさんは氷のドロップを使いますよね。 私の動きを封じれるどころか、何ならそれだけで勝てたはずです」
「そうだねー。 でも、あくまで剣の訓練、剣の模擬戦だからさー。 これでも先輩として負けないように頑張ったんだけどー……」
「私も同じですので」
私とマローザが向上心の高い話をしていると、最後に瑞紀が私にしか伝わらない内容で締めた。
「……スポ魂漫画みてぇだな」




