第28話④ 屋上の話し合い
苗字と名前が入り乱れているので確認用の名前記載
■春宮 杏耶莉
■六笠 瑞紀
■宿理 楓
==杏耶莉=律舞高校・屋上==
私と瑞紀、そして宿理の三人は連休明けの昼休みに屋上で話をしていた。
「――ってな事があってな」
瑞紀の言葉に宿理は一枚のメモを取り出した。そこには向こうの言葉で『私は記憶喪失です』と書かれていた。
「……へ?」
「お前、やっぱりそれが読めるんだな……」
宿理が本当に異世界転移をしていた事実と、突如行われたたカミングアウトに二重で驚く。
「……瑞紀って、このメモに書かれた内容って知ってるの?」
「は? 知らんが。 それがどうしたんだ?」
「いや、メモが気になるんだけど……」
「別にその文はどうでもいいだろ――」
決して無視できない内容だけに私は宿理をじっと見る。彼女は瑞紀の背後に居る事を利用して見えない位置から、悪戯っぽく人差し指を立てて口元に当てた。
(えぇ……)
入学当初自分を知らないかなどと聞いて回っていたのでそんな噂もされていた。そんなミステリアスな雰囲気の彼女だからこそ信憑性があった。
「――おい! 聞いてんのか!?」
「え? あっ、ごめん。 聞いてなかった」
宿理との静かなやり取りに気を取られ、瑞紀に意識が向いていなかった。
「お前なぁ……! もう一度言うぞ? その異世界ってのに本当に行ってたんだな?」
私からすれば同じ境遇らしい宿理と、なんだかんだ信頼している瑞紀であれば打ち明けるのもやぶさかではない。
大きく息を吸って、それを吐き出すと、私は淡々と事実を述べることにした。
「…………およそ三年前、私は裂け目に巻き込まれて異世界、レスプディア国のエルリーンに転移した。 そして、紆余曲折あって帰ることができた」
「……」
私の言葉を静かに聞く瑞紀。その後ろにはやはりという顔になる宿理の姿もあった。
「半年失踪していたのはやむを得ず帰れないから。 そして今回だけど、偶然私は裂け目を見つけたから……それに触れた」
「……で?」
「瑞紀にゴメンとだけ送って、転移した先は別の世界だった。 フェアルプって所だったけど、なんだかんだあってレスプディアを経由してまたこっちに帰って来れた」
「今回は嫌に早いな。 半年滞在するのは止めにしたのか?」
機嫌悪くそう言った瑞紀の言葉に否定を入れる。
「半年帰れなかったのは本当。 今回早かったのは……」
「……早かったのは?」
言っていいものか迷ったのだが、催促されて大人しく話す。
「今回無事帰れたのはこれのお陰」
そう言って取り出したステアクリスタルを二人に見せる。このクリスタルはペンダントになっているので、指から吊るす形で垂らした。僅かに空中で揺れるそれにはどこか神秘性を感じられる。
「綺麗ですね」「……これは?」
「ステアクリスタルっていう異世界転移が出来る鉱石。 今回初めて行ったフェアルプで貰った物で、これで帰ってきた」
「それは本当ですか!?」
以外にも食いついた様子の宿理であるが、それに対して胡散臭い新興宗教でも見る目をする瑞紀。
「……そうか、実演してみてくれ」
話だけで信じれないという態度で言われてしまうが、私は静かに首を振った。
「一回使うと、一日は使えない。 数時間前に使ったばかりだから今は無理」
「……よく出来た妄想……と普段なら信じないけど、今この場では少数派みたいだな」
私と転移経験のあるらしい宿理の二人に対して、いまいち信用していない様子の瑞紀である。
「お前の話が本当だって言うなら、明日なら可能なんだな?」
「……出来るけど、向こうで一日待たないといけないから明日は無理でしょ、学校あるんだし。 試すなら土日じゃない?」
「別に学校なんて――って、高校は出席率とか面倒だな……。 ……週末なら行けるんだろ?」
「うん、そう」
「なら、その時までは保留だ。 ……因みにだが、それって複数人移動可能なのか?」
「……あー、わかんない。 多分使ったステアクリスタルが通った後は扉が閉まるから、その前に転移して貰えば可能……かも」
「なら、わたしも行ってみる。 別に地獄かなんかじゃねぇだろ?」
「私! 私も行かせてください!」
ステアクリスタルの話をしてからそうなる気はしていたが、結局三人で土曜日集まる事になった。
「んで、それまでお前が勝手に居なくなる可能性を考えたわたしは、それを預かりたいんだが?」
「誤って起動しないなら構わないよ?」
「……起動ってどうするんだ? スイッチとかなさそうだが」
「それは、扉よ開け! って念じるだけだね」
「……やっぱり信用できねぇ!」
瑞紀がそう叫ぶのと同時に、予鈴のチャイムが鳴る。あと五分で昼休憩が終わりである。
「あー……」
「話、過ぎてしまいましたね……」
「昼食取ってないね……」
瑞紀は手にしていた赤野特製と思わしき弁当を開くと、その中身を掻き込み始める。
どこかで購入したと思わしき昼食が入っているであろうレジ袋を一瞥した宿理は諦めたらしく、その場に立ち尽くした。
「私、昼食ないんだけど!」
「知らん!」
「分けてくれるって言ってたよね!?」
「……そんな日もあったな。 昔の事だ」
「えぇ……」
私と瑞紀のやり取りを見ていた宿理は静かに会釈すると、屋上の扉を開こうとして鍵が掛かっていた事に気が付く。
「……六笠さん、鍵を……」
「あ? ちょっと待ってくれ――」
「は、早くしてくださいー!」
自分だけ昼食をなんとか済ませた瑞紀と一緒に、三人で次の授業は遅刻した。




