第27話④ 影翼との戦い
==杏耶莉=フェアルプ・城内王の間==
影の兵士を霧散させるが、大した効果もなく新たに兵士が生み出される。
「これじゃキリがないの!」
「だよね……」
私が戦闘できる回数には限界が存在する。ドロップは今使用している風の剣のものとは別に氷と剣のドロップが一つずつのみである。
「むぅ……。 悪くない児戯ではあるが、そう同じ行動のみでは退屈であるのう」
「なら、兵士を出すのを止めて貰えませんか、ね!」
「断る。 其方が真の実力を見せていない以上、手を抜くつもりはないわ」
「だから何! 私は今でも全力なんだけど!」
影の兵士を斬り伏せ、それを構成していた影霧を霧散させる。
「それはもう飽いた。 そして、この戦いにも……であるな。 外も其方の仲間が暴れておる様だし、適当に終わらせるとするかの」
そう言った翼の王女は手を上げると、それを振り下ろした。それと同時に翼から、先程見せていた尖った羽が射出され、同じく触手が私目掛けて伸びてくる。
「うぐっ!」
影の兵士に阻まれながらでも羽はどうにか防いだが、触手はそのまま私の足首に絡みつき、地面へと叩き付けられる。
「アヤリさん!」
「ふはっ、無様よのう」
それでも近寄って剣を振り上げた兵士はもう一度斬って風で霧散させた。だがその後、触手によって宙吊りに持ち上げられてしまう。
「これで終いよ。 呆気ない幕引きであったな」
「うっ……」
「アヤリさん!」
逆さに吊るされた状態でなんとか足首に巻かれた触手を切断しようと藻掻くが、届きそうもない。
(抜け出すにはこれしか……)
女王の影の翼がはためき、尖った羽が射出される予兆に気づく。このままではハチの巣なので、一刻の猶予もなく私は唯一の脱出案を実行した。
「――うぅっ!」
「なぬっ!?」
触手に捕まれていた自らの左の脚を斬り裂いた。そして支えを失った私は地面へと落とされ、同時に射出された羽を回避する。
地面に叩き落される寸前で風を発生させて受け身を取ったが、それによって風の剣はエネルギーを失って消失する。
「ぐぅっ!」
斬り裂いた脚から激しい激痛が走り、転げまわりそうに、叫びそうになるのを何とか踏み留める。
「――リスピラ!!!」
「っ――まかせるの!」
私以上に涙を浮かべながらも名前を叫ぶとそれに答える。私は氷と剣を同時にディートして、氷の剣を生成した。
失った脚の代わりとなる氷の脚を生成して、私は翼の女王へと駆け寄った。
「流石の執念であるな」
「――」
戦闘の開始から彼女はほぼ位置を移動していない。それならば、無理やりにでも距離を詰めて短期的に決めるしかない。そう考えた私は、一直線で走り寄った。
「むぅ、そうきたか。 しかしそれはさせられぬ!」
影の兵士を生み出し、その行く手を遮られる。私は歩みを止めずにその兵士の全身を凍らせて対処する。
「これ以上は寄らせぬ!」
「邪魔だあぁぁぁ!」
射出された羽も伸ばされた触手も、空中に生成した氷の刃で斬り裂く。
「むっ、危ういか」
「これでぇ!!!」
危機を感じた翼の女王は、展開していた影の翼を引っこめると、私を避けようと動く。だが、それを逃さずに私は氷の剣を振り下ろした。
「くっ、届かないか――」
想像以上の速度で回避した翼の女王に致命の一撃を入れることは出来なかった。だが、その代わりに背に生えていた嵌合翼を半ばから斬り落とした。
くっつけられていた別々の羽根が、その場に崩れながら散らばる。
「あ――あああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」
「!!?」
直接攻撃を命中させる事は出来なかったのだが、明らかな作り物の翼を壊された女王はとてつもない叫びを上げる。
「な、なんなの!」
「さぁ、私にも何が何だか……」
叫び声が止むと、その場に崩れる翼の女王。先程までの余裕は感じられず、呼吸は乱れて明らかに普通の状態ではなかった。
「羽根……。 妾の、羽根ぇ……」
私が斬り落とした事で周囲に散らばった羽根をかき集めて、その場に蹲ってしまう。
「……さよなら」
「あ、アヤリさん。 ちょっと待つの――」
リスピラに何故か静止されるのだが、その言葉を聞く前に私は剣を振り下ろしてしまった。
呆気なく彼女の首が落とされて、戦いは終わった。
……
「これでおーきゅしょちはできたの。 でも、しっかりとせんもんのひとにみてもらったほうがいいの」
「わかった。 ありがとうリスピラ」
「どういたしましてなの」
自ら切断した脚を拾って、リスピラの持つステアクォーツの力で接合した。だが、無理に氷で脚を生成していたからか、若干の違和感を感じる。この後レスプディアにでも転移した際に診てもらう事にした。
「それで、このひとだけど……」
リスピラは翼の女王だったものを見る。
「そういえば、何であの時止めたの? この人がここを襲った首謀者でしょ?」
「ちょっとかわいそーだなっておもっただけなの」
「……因みに私の脚みたいに繋げられたりするの?」
「くっつけるだけならできるの。 でもしんじゃってたらもううごかないの」
「そう……」
私に関する何かを話していたので、それを聞きたい気持ちはなくはなかった。だが、それも今となっては後の祭りである。
(我等、とか力とか……私がこの人と同じ存在みたいな話しぶりだったよね)
だが、私にこんな翼はないし、そもそも日本生まれの大した取り柄のない人間だと認識している。
「おーい! アヤリー!」
そんな事を考えていると、背後からカティの声が聞こえる。振り返ると、どうやら無事だったカティが城内まで来ていたらしい。
「カティ、外の状況は?」
「……一応俺もメグミも無事だ。 だが、さっき突然兵士も最後の翼四天も動かなくなってな。 一応メグミに見張ってて貰ってるんだけど、何が起きてるんだ?」
「その兵士が動かなくなったのって、どれぐらい前?」
「……今から五分位前だな」
「それって、私がこの女王を倒した時ぐらいかな?」
翼の女王を倒した事で、何らかの影響が出たとみて良さそうだった。
「ん? それが件の女王か」
「うん、何とか倒せた」
そんなやり取りをカティとしていると、リスピラが思い出した様に大声を上げる。
「そーなの! じょおうさまなの!」
「女王って、この?」
「ちがうの! わたしたちのじょおうさまをわすれてたの!」
そう言ったリスピラはどこかへと飛んで行ってしまう。カティはそれを追いかけて走り出してしまった。




