第27話③ 最後の翼四天
==カーティス=フェアルプ・都市大通り==
翼四天の一人であると名乗ったサムドラスは、腰に差していた大きな剣を抜いて構える。
「翼を持たぬ者が、わたしに勝てる道理などなし! その命をもって罪を償え!」
「罪罪って、そもそもこの町を襲撃しているのはお前らだろ!」
「否定はせぬ。 だが、それも全ては女王様が望まれた事。 であるならば、それに付き従う事こそ万理の正しさである!」
「……狂信者の類か。 面倒な……」
サムドラスの抜いた剣は真っ直ぐな刃をしておらず、波打つ刀身となっていた。
(フランベルジュってやつか)
斬られれば、荒れた傷が付けられて癒えづらくなる特徴がある。そんな趣味の悪い武器を扱う相手であると再認識した。
「行くぞ! その頼りない矢を以ってわたしを傷付けてみろ!」
そう言ったサムドラスは剣を空中で振ると、その切っ先から透明な斬撃が放たれる。
「くっ!」
捉えづらいその斬撃を何とか回避しつつ、弓矢をサムドラス目掛けて射る。だが真っ直ぐ飛ぶのみの矢は、当然の如く届かずに斬り落とされた。
「――カティさん!」
「平気だ。 メグミはそのまま兵士を抑えててくれ!」
サムドラスが現れたからといっても、兵士の進軍が止まる理由もない。次々と押し寄せる兵士は当初程の勢いこそなかったが、それでも無視できる筈もない。
「届かぬ矢に、止まぬ兵。 そして、わたしの斬撃を避け続けるだけの貴様等が、万が一にも勝てる見込みなどない!」
「うるせぇ!」
だがこの男の言う通り、勝機が一切見えない。
(だけど、どうする……。 空中への移動が出来なければ、勝てる見込みも……)
以前同じスタイルの男、別の翼四天のメブリンム戦では、リスピラの能力によって不意打ちに近い形で勝利する事が出来た。だが、リスピラは今現在城内に居るだろうから、当てにはできない。
兎に角飛んでいる機動力を奪えればと、俺はドロップ生成を応用した速射による連射攻撃を試みた。
「苦し紛れの射撃とは、その程度のごり押しで勝てる筈がなかろう!」
サムドラスは斬撃で向かってくる矢を斬り落としつつ、そこから漏れた矢は剣で直接斬り防ぐ。
最後の矢生成でエネルギーの尽きた俺は、大槌をディートする。
「メグミ!」
俺はそう叫ぶと、メグミは残り一つの風をディートして、その風で俺を宙に吹き飛ばした。
メブリンムとの戦いで難なく勝つことこそ出来ていたが、また似た戦い方をする相手との戦闘に際して、最終手段として直接空中に向かう案を出していた。
今回の作戦実行でも、俺が名前を呼んだ際に巻き上げる様に頼んでいたりする。
「ふっ、武器も持たずにわたしの独壇場に上がるとは。 その無謀さは買ってやろ――な!?」
「誰の武器がないって?」
ドロップの特性に関する知識の薄い相手であれば、丸腰に見せかけることも無理ではない。敢えてディート後生成していなかった大槌を生成すると、俺はサムドラス目掛けて振り下ろした。
「ぬぐぉっ!」
油断していたサムドラスは悠々と剣で俺を斬り伏せようとしていたらしいが、それが裏目に出た。直前で現れた武器に抵抗する暇もなく、翼の片方を大槌で叩かれる。
その後、制御を失ったサムドラスと留まる手段のない俺は、同時に地面へと落とされた。
「痛ってぇ!」
「貴様! よくも!」
翼に大怪我を負ったサムドラスは飛翔できなくなったが、それでも俺との距離を取って剣を構える。背中には痛々しく折れ曲がった翼が目に入る。
「そこまでの怪我をしてでも、従いたい相手なのか? その女王様ってのは?」
「貴様に何と言われようと、わたしの考えは変わらない! あの方こそ、数多の世界の救世主となれるお方なのだ! 貴様にそれ程尽くしたい相手が居なければわからない感情であろうがな!」
(命を賭して守りたい相手、か)
かつての勇者には、それだけの覚悟で忠義を尽くした者も存在する。だが、今の俺にそんな相手は居ない。
「その気持ち自体は否定しない。 だが、リスピラ達の町をこんなにした首謀者を慕う気持ちは理解できない。 だから、お前は俺が倒す!」
俺は大槌をサムドラスに向けてそう宣言する。
「ほざけ! 例え翼を失っても、貴様に負けるわたしではない!」
再度剣を構えたサムドラスは何度も剣を振るい、斬撃を飛ばす。
一度大槌を消失させて身軽になった俺は、その攻撃を掻い潜って距離を詰めていく。
「くらえ!」
「甘いわ!」
再生成した大槌を振り下ろすが、それも剣で防がれる。その後も至近距離で武器のぶつかり合う攻防が続き、敵方の負担だけが肥大してく。だが、その戦いは長くは続かず、エネルギーの尽きた大槌が塵となって消失する。
咄嗟に最後の武器であるレイピアをディートして戦いを続けるが、武器の消失を目の当たりにしていたサムドラスは、今度は守りに徹し始める。
「その武器、使用には期限が存在するらしいな。 それならば、持ちこたえればわたしの勝ちか!」
「それは面白い! 出来るならそうして見ろ!」
大きな獲物である大槌の時程に負担を掛けることも出来ず、小さな傷を負わせるのみで決定力に欠ける。
俺は一度も攻撃を受けていないので一見優性に見えるが、それもドロップの効力が持っている間のみである。
(ぐっ、もうエネルギーが……)
単に扱っているだけの時より、こうして武器同士で打ち合う方が消耗が早く、既に底が見えてしまった。
(後残ってるのは託宣のドロップのみ……。 だが、これを使うのは……)
そうこうしていると、レイピアが打ち合いの末消失した。念の為背負っていた槍を持ちだして、何とか耐えようとした瞬間にサムドラスが突如その場に崩れ落ちた。
「なっ……」
油断を誘うものには到底思えない、意思を感じないその変化に一瞬戸惑うが、それを好機と考えた俺は、一先ず彼の剣を奪ってからその様子を伺うことにした。




