第27話① フェアルプ奪還作戦決行
==カーティス=フェアルプ・都市内側==
寝静まった夜、俺達は息を殺してフェアルプの町へと入っていた。
俺の立てた作戦は単純なもので、真夜中の侵入である。当たり前だがこの町に大勢居る兵士全てを相手取るのはドロップ残量からして難しく、それなら極力戦闘を回避して総大将を叩くという何とも捻りのない内容だった。
一応の理由として、翼兵士をこれまで見てきた様子から、夜目の利く相手でないことはわかっていた。鳥類には夜間活動出来る種とそうでない種が存在するが、彼らはその前者に当たるらしい。鳥目というやつだ。
それに、どういう訳か奴らは空の警戒ばかり気にして、地上の警戒がおろそかな部分があるので想定より楽に侵入出来ていた。
「(こっちなの! はやくするの!)」
「(案内は助かるが、もう少し静かに話してくれ……)」
総大将だと思われる女王とやらは、リスピラの言葉を信じればこの町の中心にある城に滞在している可能性が高いらしい。
どの道当てもなく動き回ることはできないので、その言葉を信じて彼女の案内に従っていた。
「(こっちをみぎにまがるの)」
「(そんな入り組んだ道ばかり選ばなくても……)」
メグミがそんな不満を口にする。
「(いや、この場合はリスピラが正しい。 城みたいな建造物は大通りに面してるが、その分目立つからな)」
「(そーなの! わたしがあってるの)」
「(……)」
巫女という立場故に自由に街を歩く事が出来なかった彼女は、護衛を撒く為に小道について詳しいらしい。直線的に向かえない分時間は掛かるが、戦闘回避を第一考えれば仕方ないだろう。
暫くリスピラの案内に従って歩いた先で、彼女が空中に停止する。
「(ほそいとこはここまでなの。 ここからはふといみちをとおらないとつかないの)」
「(あぁ、それで十分だ。 あとは手筈通り、頼んだぞアヤリ)」
「(おっけぃ!)」
作戦の最終段階、それはアヤリが女王を打ち倒すというものである。
大勢の兵士に守られた城へと入るには、誰かが囮となって陽動し、その間に侵入する他ないという結論を出していた。
翼四天もそうだが、女王の扱う影霧と思わしき物体に対抗するにはアヤリの剣が最も適していたので、その役目は彼女に頼んだ。城内の案内はリスピラが担当する。
そして、一応この槍で継続戦闘可能な俺と、派手な技が扱えるメグミは大立ち回りで時間を稼ぐ。最悪俺は、量産の粗悪品ではあるものの、敵兵士から武器を奪って戦うことも視野に入れての算段だった。
「(よし、行くぞ!)」
「(うん!)」「(はい!)」「(なの!)」
最初に目立つ必要があるので、俺とメグミは火のドロップだけをディートする。僅かな明かりしかない真夜中で、大通りへと飛び出た俺達は、火を生成して近くの兵士に攻撃を仕掛けた。
「(アヤリさんいくの!)」
「(わかった)」
兵士が集まってくる気配を感じて、俺が指示を出す。そうして、リスピラとアヤリが俺達とは反対方向の暗闇へと消えていった。
「最初が肝心だ! 派手に行くぞ!」
「承知しました!」
二人で生成した火を操り、可能な限り目立つように兵士へと投げつけた。
==杏耶莉=フェアルプ・城内==
カティ達が放った炎の一撃を見た警備兵が、慌てながらその地点へと向かうのを見届けた後に、城へと潜入していた。
(外から見た時も思ったけど、この城だけは妖精サイズじゃなくて私達と同じ大きさだよね)
城内は光る鉱石らしき照明がふんだんに使われており、外と比べれば随分明るかった。町進入時程隠密行動は難しいと悟った私は、手にしていた剣のドロップを今一度握りしめる。
「こっちなの!」
嬉しさと悲しさが入り混じった状態のリスピラは、焦りを隠せずにすいすい進む。私も遅れない様にそれなりの速度で追いかける。
「てきなの!」
「ぬっ、曲者め!」
剣を手にした翼兵士と遭遇するが、迷いなく剣のドロップを使って、その片翼を斬り落とす。
「ぐぉっ」
「――終わり」
飛んでいた兵士は翼を失った事でバランスを崩して地面に落下する。それを逃さず私は脳天に剣を一刺しして絶命させる。
抜く手間も惜しんで剣をそのまま消失させると、私達はその場を後にして王の間へと向かう。
(やっぱり、遭遇する兵士の数が少ない)
城内進入時に、窓から飛び立つ気配を幾つも感じていた。直接陽動しているカティ達の所へと向かったのだろう。どうにも空を飛べる人は通路や階段を重視しない文化があるらしい。
(それは寧ろ好都合だよね。 こうして安全に進めてるんだから)
……
そうこうして、城内を走り回った最後の場所へと辿り着く。結局城内に入ってからの交戦は三度のみであった。
残りのドロップは剣が二つに氷と風が一つずつ。それを確認した後、王の間である扉を開く合図をリスピラにする。
「よし、大丈夫。 それじゃあお願い」
「わかったの」
リスピラが扉を開くと、その玉座には一人の女性が座っていた。その背には体の数倍はありそうな巨大な翼が生えているらしい。
「……ん? 原住民が最後の抵抗で何かをしているとおもおたが、その身なりから別の地の者が紛れ込んでいたか」
「貴方が女王ですか?」
「いかにも、妾がその言葉で指すであろう女王であろう。 して、そんな者に会ってどうするのだ?」
「……決まってます。 あなたを殺してこの世界を救うだけです」
「ほう、その意気嫌いではない。 妾も流入まで暇であったからな。 児戯には悪くない余興であろう?」
「――!?」
そう言って立ち上がり、照明の下へと出てきたその姿に私は息を呑んだ。巨大な翼だと思っていた物が、実際はそれに近い別の何かだったからだ。
整えられたシルエットこそ翼そのものだが、その実そう見せかける為だけのオブジェである。色、形、材質……そんな何もかもが違う幾つもの羽根が無理やり接合され、嵌合体と呼べる悍ましい物体であった。
その嵌合翼を本物の翼の様に羽ばたかせると、女王は私に向き直った。




