第26話⑤ フェアルプに着く
==カーティス=フェアルプの森==
「ぐわああぁぁぁ!」
「ふぅ、これで終わりか……」
グラドンを倒した翌日、偶然見つけた翼兵士の拠点を見つけた俺達は襲撃戦を終えていた。
最後の翼四天とは遭遇していないのだが、フェアルプの町に近づいたのもあってか、敵の人数が多すぎてドロップを使いざるを得なかった。だが、なんとか捕らわれたこの世界の住民を助け出すことは出来た。
「助かったー」「有難てぇ」「狭かったなぁ」
アヤリが檻から住民を脱出させると、どこか呑気な会話が交わされる。
「この世界の方はなんというか……、危機感がないですよね」
「だよね。 私もそう思う」
アヤリはドロップで生成していた剣を消失させ、首を回す仕草をする。
「怪我無しで勝てたのは構わんのだが、ドロップがもうないな」
一旦メグミやアヤリに預けていたドロップを見るが、剣が三つに、火と風が二つ。それに大槌と弓、水、氷、レイピアに託宣が一つのみである。
「流石に心許ないだろ」
「その通りですね」
「な? だから一旦補給に戻りたいんだが」
俺がそう言うと、リスピラが大声で反対する。
「それはやなの! すごくつかれるし、きたみちをもどらなきゃなの!」
「そうなのか?」
「そうなの。 カティさんのとことくっつけるにはさいしょにいったばしょまでもどらないとむりなの」
「マジかよ……」
それを知っていれば、この世界に来た当初に無理を言って戻っていただろう。今からあの地点まで戻るのは現実的ではない。
「いちおー、おしろのせつびをつかえばかんたんにつなげられるはずなの。 だからフェアルプをたすけたらすぐにかえってもらうことはかのーなの」
「とは言ってもな……」
散々酷使していつ折れるかというメブリンム……最初に倒した翼四天の槍は期待できない。そもそも俺自身ドロップ以外の武器はそれ程使うのが得意とは言えないので、強敵相手ならどの道使用するつもりはないが。
その上アヤリとメグミはドロップがなければ戦力外だろう。リスピラの能力は強力だが、消耗が激しいのも手伝ってこの状態になってしまっていた。
「勇者さま、勇者さま」
「……ん、どうした?」
助けた者の一人が俺に話しかける。
「詳しくわかりませんが、近々この世界を完全に支配する何かを計画していました」
「支配する何か……?」
「はい。 それでこの世界は終わりだと兵士が話していました。 なので、時間は残されてないと思われます」
「わたしもそーおもうの! はやくたすけるの!」
「……」
万が一負けてしまえば命はない。ドロップの残りが見えてしまっている今となってはその可能性は否定できなくなっている。
「……二人はどう思う」
俺はアヤリとメグミにそう質問する。
「――私は助けるべきだと思う。 リスピラちゃんもそうだし、犯罪者は殺さないと」
「お、おぅ……」
迷わずそう答えたアヤリに対し、メグミは暫く考えた末の結論を口にする。
「私は反対です。 そも、無理に連れられて来ているので恨みこそあれ、危険を冒してまで助けたいと思っていません。 それに、御二人程正義感溢れる性格でもないので」
「そうか……」
俺の考えと違うとはいえ、その意見を否定はできない。実際彼女はこの世界に来た当初何度も戻す様にとリスピラに進言していた。
その間を取り持って惰性で付き合わせたのも事実なので、寧ろ謝るべき立場にある。
「悪いな、メグミ。 ここまで来てもらって」
「それは別に構いません。 結果論ですが五体満足ですし。 ですが、無謀な戦いに賛同はできません。 ……カティさんがどうしてもと言うなら最後まで付き合いますが」
「助かる。 ありがとうな」
俺はそれらの意見を踏まえて思案する。先程聞いた情報に間違いがないなら、仮に引き返してもその前に計画とやらの影響を受ける可能性がある。
それに、リスピラが嫌と拒否すれば俺達だけで戻る事は出来ない。今の様子を見るに、説得は難しいだろう。
「……よし、決めた」
「どうするの?」
アヤリに言葉の続きを催促されるので、勿体ぶらずに答える。
「このまま助けよう。 奴らの計画とやらが何かは知らんが、戻る途中に巻き込まれるより直接潰した方が早いだろ」
「それでこそだね」「……わかりました」
「ありがとーなの! カティさんはやっぱり勇者なの!」
俺の頭に乗っかってバシバシ叩くリスピラを払いのけると、拠点を潰した際に倒した兵士の亡骸を片付け始めた。
……
森の中にある小さな峠を越えると、遠くに巨大な都市が見えてくる。
「やっとついたの……」
数日ぶりの故郷への帰還に、少し震え声でリスピラが呟く。
「あれがフェアルプ……」
距離感からして、この世界の住民サイズと思われる建物が建ち並んでいるが、この位置からでも判断できる程に荒れ果てていた。
ドーム状の建物は大部分に大穴が空き、塔らしき建造物は半ばで折れ曲がっている。焼けた後らしき焦げ臭さがここまで伸びていた。
「うぅ、みんな……」
これまでは気丈に振る舞っていたのだろう。それまで見せていなかった涙をリスピラは流している。
彼女は俺達が数日間で踏破した道のりを休まず無理して逃げて来たその先で、エルリーンに転移したと言っていた。
(故郷がこれじゃあな……)
リスピラは涙を乱暴に拭うと、俺達に向けて声を張り上げる。
「それじゃ、はやくたすけるの!」
「いや、それは待て」
「なんでなの! もうすこしなの! がんばるの!」
「そうじゃない。 少しでも勝つ為に一度ここで休みを取る」
「どういう事?」
アヤリに尋ねられたのもあり、俺は作戦の概要を説明し始めた。




