第26話④ 僅かな違和感
==カーティス=フェアルプの森==
アヤリの投擲した果実は、吸い込まれる様にグラドンに吸収される。
「アヤリ! こんな時に何を――」
「ぐ……ぐぅっ……」
俺がそう問い詰め様とした瞬間、グラドンは藻掻き苦しみ始めた。
まさか、毒か何かをアヤリは持っていたのだろうか……。だが電撃すら飲み込んでしまうグラドンに、ちょっとした毒類が効くとは思えない。
「ま……、ま……」
「ま?」
「マズイんだなあー! こんなに渋くてマズイ果実は初めてなんだなあー!」
「は……?」
のた打ち回るグラドンに呆気に取られていると、気が付けばアヤリが何らかのドロップを二つディートしていた。
「なっ……」
「これで――」
俺の手の平で倒れているリスピラのステアクォーツが輝き出し、同時にアヤリは燃え盛る炎の灯った剣を生成してグラドンを焼き斬った。
「ごぶぅぅぅぃいい!」
人体の焼ける異臭と共に、片腕を斬り落とされたグラドンが呻き声を上げる。
「うっ、影霧が……」
先に倒した翼四天より保有量か何かが多かったのか、切断した体から大量の黒色の霧が溢れ出る。
「よぐもぉ! よぐもおでをおぉ!」
「……五月蠅い」
形勢逆転した状態で俺とメグミが動き出す前に、アヤリは容赦なく、グラドンの首を斬り落とした。
「おぐ――」
「……はぁ……」
アヤリはため息を付くと、手にした炎の剣で宙に舞った影霧を焼き斬る。その後、落とされた頭を蹴って死亡確認した所で手にしていた剣を消失させた。
俺はアヤリに近寄ると、目の前で見ていた疑問を彼女に聞くことにした。
「アヤリ、一体何を使ったんだ?」
「え? 単に美味しくない果実を投げただけだよ?」
彼女曰く以前別れた翅のないここの住民に渡された物らしい。俺達と合流する前に水分不足で倒れかけた際に仕方なく食したのだそうだ。
因みに多くの水分を有している一方、渋みが強くてまともに食べられた味ではないらしい。
(それにしては、苦しみ過ぎだった様な……)
首を落とされて絶命したグラドンを見る。いくら不味い果実でも、大木すら食べていた奴がその程度で苦しむものだろうか。
(それと、気になる事もある)
ステアクォーツはリスピラの補助がなければ行使する事ができない。だが、それをアヤリ本人の意思のみで扱っていた。
ドロップに余裕がある訳でないので試していないので、実際はリスピラの言葉とは違って補助なしで使えるものかもしれないが。
「あっけなく倒してしまいましたね……」
「そうだな……」
俺とメグミは同時にアヤリを見る。吸収能力で苦戦していたのに対して、なんてことはないといった雰囲気で前の戦闘で片づけられていない兵士の亡骸を運び始めた。
「カティもぼーっとしてないで手伝って」
「あ、あぁ……」
元々サボる気はなかったが、今回の戦闘の功労者であるアヤリに言われてしまえば従う他ない。
俺はメグミにリスピラを渡すと、兵士やグラドンの亡骸の片づけに加わった。
……
「リスピラ、ちょっと良いか?」
グラドンを倒した日の夜。野営で見張りをしていた俺は、何故か森の奥へと入って行こうとしたリスピラを呼び止める。
「……なんなの? はやくしてほしーの」
「悪い。 ちょっと気になる事があってな……」
俺はアヤリをちらっと見て、僅かに上下に動いて寝息が聞こえる。確実に寝ているのを確認してから話を続けた。
「そのステアクォーツだが、勝手に使う事って本当に出来ないのか?」
「そーなの。 これはすごくあつかいがむずかしくて、フェアルプでもわたししかせいぎょできないの。 なにをまぜるかしっかりおしえてあげないとだめなの」
「教える、ね。 まるで生き物みたいなんだな」
「そのとーりなの。 しょくにんさんがかこーするとだれでもつかえるよーになるけど、げんせきのこれはほんとーはだれもつかえないの」
「職人が加工しないと駄目、か。 それで、原石だっていうそれを扱えるのが巫女であるお前だけなのは、間違いないのか?」
「あたりまえなの。 わたしはすごいの」
リスピラは両腕を腰に当て、踏ん反り返る。
「……グラドンを倒した時、アヤリがその力を使ってたんだが……」
「そーなの? わたしはカーティスさんとメグミさんにしかつかってないの。 だからありえないの」
「……そうは言うが、現に使ってただろ?」
「おぼえてないの。 そのときわたしはいしきがもーろーとしてたからわかんないの」
「……もしも、アヤリがその力を制御できる可能性は?」
「えー、それはないの。 だってアヤリさんはわるいかんじがしないの」
「悪い感じ? それって――」
「もーいいの? わたしはいそいでるの!」
そう言って、野営地から離れようとするリスピラ。
「ちょっと待て。 こんな夜中に何処に……」
「おしっこなの! でりかしーがないの!」
「あ……。 す、すまん」
少しして戻って来たリスピラに話の続きを聞くのが気まずく、そのままメグミと交代するまで呆然と過ごした。




