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第26話③ 暴食の刺客


==カーティス=フェアルプの森==


「大丈夫か、アヤリ!?」

「平気だよ。 私に負担は掛かってないし……」


 俺の問いかけにアヤリから、かつての様な受け答えは返って来ない。どうにもメグミ曰く、見知った年下の男の子に身長を抜かされて大きくなっていたら戸惑うものらしい。

 俺の勇者としての記憶には、女性の記憶も含まれている。だが、いつかは背が抜かされるものだと割り切っていたからそういった苦手意識は存在しない。

 そもそも歴代勇者は初代が男性である以上、男性の記憶を持っていたので普通の女性でないと言えなくもないのかもしれない。


「わたしはてつだいできなくて、やーなの! ドロップつかってほしーの!」

「耳元で叫ぶな……。 しょうがないだろ? そもそも事前準備がしっかりできてないのが悪いんだ」


 リスピラは不満を口にするが、そも半ば無理やり連れて来たのが戦いづらさの原因なのだ。


「しらないの。 わたしははやくたすけてほしかったの」

「……まぁ、そうだよな」


 俺ら幾分か気楽なものだが、彼女からすれば故郷が侵略されているのである。そういった焦りは感じているのだろう。


「それにしてもドロップの重複ディートって、私も出来るのかな?」

「とーぜんなの。 アヤリさんもつかうときはわたしにおしえるの」

「おっけぃ、その時はよろしくね」

「まかせるの!」


 俺の髪を引っ張りながら、リスピラは元気よく答えた。


 ……


 本日六度目の戦闘。……その内の二階は、こちら側から妖精を捕えていた拠点に襲撃していたが……。 その後片付けをしている途中で急速に近づく気配に気が付いた。


「みんな作業を止めてこっちに来てくれ。 何かが来る――」


 俺の呼びかけに、アヤリとメグミは俺の周囲に寄ってくる。その直後、翼の生えた巨漢が地面に落下してきた。


「お前らだなあー? おでの縄張りを荒らしまわってる奴わあー」

「何者だ」


 巨漢は両腕を横に広げて、その内側に影霧を纏わせる。


「おでは翼四天が一人、暴食車両のグラドンだあー! 貴様らをおでの養分にしてくれらあー」


 グラドンと名乗った巨漢は、両腕を広げたまま俺達目掛けて走り寄ってくる。


「なんか不味い! みんな避けろ!」


 俺の掛け声と同時に、左右に分かれて突進を回避する。構わず近くの大木に直撃したグラドンは、そのままその木を両腕でへし折った。

 そして、そのまま折った大木を影霧に取り込む形で吸収してしまった。


「硬くてまずいなあー」

「無茶苦茶だな、オイ!」

「カティさん、ぼやかないでください。 次が来るみたいです」


 メグミの言う通り、振り返ったグラドンはもう一度両腕を広げて、今度は翼をはためかせると、跳弾した。


「いただきまーすだなあー!!!」

「くっ……」


 俺は手にしていた槍を放り投げて、石火槍をディートする。


「くらえ!」


 生成した石火槍の引き金を引くと、勢い良く石が発射される。


「まずいだけだなあー」

「――駄目か」


 だが、その石は飲み込まれる様に消滅してしまう。グラドンの発言や状態から()()()()と表現するのが正しいだろう。 あの広げられた腕は、奴の口か何かに見える。纏っている影霧も牙が生えた様な形になっているので腕口とでも表現すべきだろうか。

 腕口を広げてこちらに落ちてくるグラドンを見て、既に俺より先に退避していたアヤリとメグミと同じように、着地点から退いた。


「ちょこまかと、うっとおしいなあー」

「そりゃ、目の前で大木を折って咀嚼してんのを見れば、当たり前だろ! リスピラ、頼む!」

「がんばるの!」


 俺は合図を送ってから、追加で水のドロップをディートする。そして、組み合わされた武器を再生成した。

 地上で俺に対して向いているグラドンにその水火槍を放った。


「んごっ!」


 凝縮された水球が勢いよく発射され、『バシャーン』という轟音と共にグラドンの姿が水蒸気で隠れる。


「やったか!?」

「あー、丁度喉が渇いてたからおいしかったんだなあー」


 水蒸気が晴れ、グラドンの姿が見える様になる。だが、無傷でその場に立っていた。


「―ヤバイ!」

「なら、私に任せてください! リスピラさん、私も頼みました!」

「わかったの!」


 俺の反対側、グラドンの背中に回り込んでいたメグミが、雷と風のドロップを同時にディートする。


「風雷の一撃!!!」


 雷を纏った竜巻を発生させて、それをグラドンにぶつける。舞い上がった土煙で、再度奴の姿が見えなくなる。


「あー。 ピリピリするけどまずくはないなあー」

「これも駄目ですか……」


 土煙が晴れる前に、その中心からそんな声が聞こえる。視界が確保されたその中には、口をもぐもぐさせるグラドンが居た。


「おでに攻撃は効かないんだなあー。 おでは空腹である間はどんなものでも食べれるんだなあー」

「それなら、満腹にすれば――」

「一度どれだけ食べれば腹いっぱいになるか調べてみたけど、大都市を丸々食べつくしても足りなかったんだなあー」

「そんなにですか……」


 メグミの言葉に、グラドンはそんな反応を返す。


「うぅー、もうきついのー」


 俺とメグミが同時にステアクォーツの力を行使した影響で、限界を迎えたリスピラが力なく地面に落下する。

 同時に、俺の生成していた武器が消失し、メグミの様子から効力が切れた事がわかる。


「――危ない!」


 すんでの所で俺がリスピラをキャッチするが、息を荒くして俺の手のひらにへたり込んだリスピラを頼るのはもう難しいだろう。


「もう終わりかあー? なら食っちまうんだなあー」


 残りのドロップを使うのはこの後の戦いを考えれば難しい。


(どうするべきか……)


 継続戦闘が厳しい状態に、攻撃の吸収に特化した相手……。厳しい戦闘を余儀なくされている。


(もう、残りのドロップを使い切ってしまって――)


 そう考えていた瞬間、俺やメグミとはまた違う位置に移動していたアヤリが叫んだ。


「折角食べるなら、デザートからどうぞ!」


 そう言って、彼女は何かをグラドンに投擲した。


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