第26話① 森の再会
==杏耶莉=フェアルプの森==
「わたしが……やられるなんて。 でも、わたしを倒しても、まだ他の翼四天が……」
「その言葉は聞き飽きた」
そう答えた槍の男性は、駄目押しの一撃でヴィーセルにとどめを刺すと、私に凄まじい速度で接近する。
「へ――」
「アヤリ! 会いたかった!」
自分より背丈の高い男性に思い切り抱きしめられ、分厚い胸板を押し付けられる。
「ちょっ、ちょっと離れてください!」
私はその男性を全力で押し返す。数歩後ろに下がった男性は、この上ない笑顔だった顔がこの世の終わりという表情に変貌する。
「な……。 もしかして、覚えていないのか?」
「何言ってるんですか? 初対面でいきなり抱き着いてきたりして……。 助勢やドロップはありがとうですが、そういうのは困ります」
私がきっぱり言い放つと、彼はその場に崩れ落ちた。
「そん……な……」
「大丈夫ですか?」
それを見ていた彼の仲間と思わしき電撃の女の子が駆け寄る。
一方同じく仲間らしき翅のある妖精は、私が共に行動していた妖精と再開のやり取りをしていた。
「あれがつよいひとなの とおいとこからつれてきて、フェアルプをたすけるやくそくなの」
「流石巫女様!」「巫女様凄い!」「巫女様さいきょー!」
そんな彼らのやり取りをしていると、先程の電撃女の子が私に近寄る。
「貴方はアヤリさんで間違いないですか?」
「……そうだけど? 私、名前教えたかな……」
「お初にお目にかかります。 私はメグミと申します。 その質問に関してはこの話の後に。 それで……彼、なのですが……」
メグミが振り返り、件の男性を横目で見る。当の本人は完全に崩れ落ちてしまっていた。
「カーティスという名に聞き覚えは?」
「カーティス……って、カティくん!? メグミちゃん、カティくんの知り合いなの!?」
意外な知り合いの名が呼ばれ、私は驚き混じりにそう聞き返す。
「そう……ですか。 それで、そのカティさんなのですが……」
メグミはもう一度男性の方を見て、話を続けた。
「……アレです」
「え……」
「あそこで情けなく泣き崩れている方がそのカティさんです」
「え……。 えーーーーーー!」
私が頭に手を置ける程の身長だった少年は、私の事を追い越して、長身の男性になっていた。
言われてみれば髪色等、一致する部分はあったのだが、私より小柄という固定概念が邪魔をして気づけなかった。
……
私とメグミとで見た目の変化の所為でわからなかったとカティに説明する。すると、見る見るうちに元気を取り戻したカティは再度私にハグをけしかける。
「アヤリー!」
「危なっ――」
それを私は回避した。二度目だったので、動きを見てから反応してで間に合った。
「アヤリ。 俺の事嫌いになったのか?」
「……そういう訳じゃないけど、色々待ってくれない?」
年下とはいえ、自分より大きな男性になってしまった彼の変化に、頭で理解していても、心が追いつかない。今は、数年前程ベタベタしてほしくなかった。
「……」
「そんなわかり易く落ち込まないでください。 面倒です」
「うっ……」
辛辣なメグミの態度も相まって、一旦は彼も冷静さを取り戻したらしい。改めて、現状についての説明をする事にした。
私は裂け目を通って来たのだが、その直後に兵士に捕まった事。連れられた先で翅のない妖精達を出会って共に脱走した事を話した。
カティとメグミはこの妖精、リスピラに半ば無理やり連れて来られた事。その後、翼四天の一人と戦って勝利している事を話された。
「――で、今倒した奴が翼四天の二人目なのか」
「そう、だと思う。 自分でそう名乗ってたし、影霧も使ってきてたしね」
ヴィーセルは、本気と宣言した後、黒い靄を伸ばしたり纏わせて速度上昇に使ったりしていた。
影霧を扱えるのが翼四天だけだというリスピラの証言を信じるなら間違いないのだろう。
「おはなしおわったの?」
そんなやり取りを見ていたのか、リスピラというらしい妖精が、私達の会話に加わる。先程までは私が助けた他の妖精と何かの話をしていた。
「一応現状説明は終わった」
「わたしたちのほーもはなしおわったの。 それで、あっちのはねとられたこはかくれることになったの」
「隠れる?」
「そーなの。 わたしはあんないするし、ステアクォーツでおたすけできるの。 でも、あのこたちはたたかえないの。 フェアルプにつれてくとあぶないの」
「そうだな。 案内は一人で良いし、それならリスピラが適任だろ」
「あたりまえなの、てきにんなの」
リスピラはそう言いながら、胸を張る。
「それで、アヤリはどうするんだ?」
「私は――」
「あなたもくるの! さっきのきったやつすごかったからてつだってほしーの」
私が答える前に、リスピラにそう遮られる。
「……そうだね。 どの道フェアルプを助けるまでは私もどうしようもないし、それならカティく――カティを助けるようにするよ」
「……」
なんだか自分より大きな相手をくん付けで呼ぶのに気恥ずかしさを覚えて訂正する。
「私からもお願いしようと思っていました。 アヤリさんについては聞いていますし、力となってくれるのではと期待してましたので」
「そーなの。 たすけてほしーの」
「……俺もそうして貰いたい」
三人に次々とそう答えられ、私は彼らに同行する事になった。
「アヤリさん、アヤリさん」
「……ん?」
何度か野草を持ってきてくれた妖精が、最後に私に何かを手渡す。それを受け取ると、あの渋い果実であった。
「また倒れると大変だから、けんじょーします」
「あ、ありがとう……」
カティ達は余裕を持って飲み水を準備しているらしいし、私は二度とこの果実を食べたくなかった。だが、純粋そうな目で渡されると、拒否もしづらくて受け取った。
助けた妖精達と別れを告げて、私達一行はフェアルプの方角へと進み始めた。




