第25話④ フェアルプに向けて
==カーティス=フェアルプの森・湖の畔==
「カティさん、それって……」
「あぁ。 俺も自分でやって驚いてる」
メブリンムの死を確認した俺達は、新たに生成した盾をまじまじと見る。
「もう一回試してみるか……」
誰も居ない空間にその盾を向けて、引き金を引く。すると、先程と同じように矢が高速で射出された。
「っと……」
それでエネルギーを使い切ったらしく、盾も矢も消失した。
「これはまるで……盾と弓が融合しているみたいですね」
「そのとーりなの! わたしがステアクォーツでまぜませしたの!」
「混ぜ混ぜ……、異なるドロップを組み合わせたって事か?」
「マークが知ったら、喜びそうですね」
「……今、話題を出さないでくれ」
本人が居ない場所で彼の話は聞きたくなかった。
「わかったの? ステアクォーツはすごいの!」
「……あぁ、凄かったな」
唯の弓矢であれ程の矢を放出することは出来ない。それもこれも、そのステアクォーツのお陰と言えるだろう。
「だが、それを使うのは俺が頼んだ時だけにしてくれ」
「なんでなの? すごいからどんどんつかったほうがいいの!」
「だがな……」
大量の矢に貫かれたメブリンムの亡骸を見る。明らかにやりすぎだった。
「ドロップは内包されたエネルギーを取り込んで扱う。 だけど、これは燃費が悪すぎるだろ」
「カティさんの言う通りですね」
「……? よくわからないの?」
今回は相手が一人で、且つ倒せたから良かったものの、これを毎回使用すればあっという間にドロップが底を付く。
それに、大量の敵と戦う際はエネルギー切れで無防備になり易いだろう。
「――という訳で、俺が頼んだ時だけにしてくれ」
「……わかったの。 わたしもてつだいもっとしたかっただけなの」
わかり易く落ち込む様子のリスピラ。それを優しく俺の頭に乗せてやる。
「だが、間違いなく戦力にはなるな。 だから、俺が言った時は頼んだぞ?」
「わ、わかったの! たのまれたときはがんばるの!」
「……私の時もお願いしますね」
「わかったの!」
……
中途半端になってしまった彼女の説明を受けて、状況を整理することにした。
現在地はフェアルプにある森の中。俺達のペースで移動すれば数日掛かる位置に占領された町があるらしい。
「いちばんわるいやつをたおせばいーの。 くろいのがなければわたしたちでもかてるの」
どうやら、翼の兵士が話す女王とやらが発生させる黒い霧、それのせいで太刀打ちできずに彼女らは負けてしまったらしい。
「つかまったこははねをとられておりにいれられるの。 それと、よくしてんってひとたちもくろいのをつかうの」
「翼四天……」
メブリンムと名乗った奴も槍を取り出す際に黒い霧を使っていた。
(あれって、影霧みたいだったな……)
もしかすると影霧に関する何かを知っているのかもしれない。俺はあれが単なる感染症ではないと思っていた。
「名前から察するに、その翼四天は後三人と見て間違いないか?」
「たぶんそーなの」
既に一人倒しているが、一歩間違えれば敗北していたかもしれない戦いだった。攻撃範囲外からあれだけの槍を豪速で投げられれば普通は勝てないだろう。
単に対抗手段が存在した事、ステアクォーツの力による事が影響してすんなり勝てただけと考えるべきだろう。
(空を飛ぶ相手か……。 地に足を付けてる相手よりは苦手だからな)
どうしても対抗手段が限られるので、戦いたいとは言えなかった。
湖で飲み水、リスピラの教えで食べられる木の実や野草。そして、ドロップ節約用にメブリンムが残した槍を一本だけ持って、俺達はフェアルプの町へと歩き出した。
==杏耶莉=フェアルプの森==
「喉、乾いた……」
私は翅のない妖精達と共に、森の中を歩いていた。
無我夢中で走ったのもあって、私はおろか彼らも現在地点がわからない状態である。
「飛べればいいのに」「お腹すいたー」「仕方ないじゃん」「もうお菓子ないのに!」
一応踏みつけてしまう危険性を危惧して少し離れた位置で歩く妖精たちは元気らしく、そんなやり取りを延々としていた。
(元気だなー……)
時折、優しい妖精が食べれる野草とやらを持ってきてくれるのだが、むしろそれが口内の水分を消費していて、喉の渇きを加速させていた。
(けど、空腹で倒れる訳にも……)
水分不足からか、視界が歪み始めている。次第に自分が歩いているか、倒れているのかわからなくなっていく。
「もう、駄目……かも……」
「アヤリさん、アヤリさん」
朦朧としていると、定期的に野草を持ってきてくれていた子に話しかけられる。
「な……に……?」
「顔がすごい」
「み、水……」
「お水? それなら……」
ついに私はその場に倒れてしまう。その様子が気になったのか、遠くを歩いていた妖精達が駆け寄る。
「アヤリさん倒れた」「疲れた?」「眠いのかも?」「もう休憩するかー」
そんな会話に反応を示せずに居た私に、先程の妖精が大きな果実を持ってきた。
「お水の実、食べて?」
「……」
口に押し込まれたそれを何とか粗食する。
「……不味っ」
多分に水分が含まれた果実だったが、その味は渋みが強くて吹き出しそうになる。
(た、食べなきゃ……)
それでも、自分が脱水症状になり掛けているのに気が付いていたので、無理にでも胃に押し込んだ。
「……うぇっ」
「美味しくない実」「しょーがない」「大きいと大変だな」
苦い実を食べて、その場で横になってじっとすることにした。
……
「アヤリさん、アヤリさん」
「……何?」
「ここの場所わかった」
暫く休んでいると、偵察をしていた妖精が現在地点を割り出せたらしかった。
「それって何処?」
「フェアルプの南のとこ。 あっちに向かえば町に行ける」
「なら、そっちに行こう」
私がそう提案すると、妖精達は様々な反応をする。
「こわい」「もうくろいのなくなった?」「でも戻りたーい」「行くだけ行こうぜ」
「……そう言えば、黒いのに襲われたと言っていましたね」
彼らの話によれば、町で襲われたので逃げ延びた先のこの森で捕まってしまったとのことだった。あの建物も翼のあの兵士達が建てたものだと言う。
「応援呼ぶって聞いたからもう倒してるかも」「そうなの?」「それは助かる」「でも返り討ちにあってるかも……」
がやがやとしたやり取りを経て、妖精達は結論を出したらしい。
「アヤリさん、アヤリさん。 私達は一度町に戻ります。 付いてきますか?」
「そうするしかないでしょ……」
私はこの森の残されても生きていけそうにない。食べ物一つ判断できないからである。
進行方向は定められたので、その方角に向けて私達は歩き出した。




