第25話③ 妖精の巫女
==カーティス=フェアルプの森・湖の畔==
最低限の支度すら出来ていなかった俺達は、森の中にあると案内された湖で飲み水を準備した。
「それで、結局お前の故郷を助けてほしいって事なんだな?」
「そうなの! たすけるの!」
俺の頭をバシバシ叩きながら、俺にそう答えるリスピラ。
「……助けるという話は構いません。 ですが、私達は帰れるのですか?」
間を置いたことで、多少落ち着いたメグミは不審を含みながら質問する。
「たぶんかえれるの」
「多分か……」
「……では、準備をしたいので、一旦帰らせてもらえませんか?」
「でも、れんぞくいどうでつかれたの。 だから、たすけたあとにしてほしーの」
「そんな勝手な……」
彼女は丁度、洗い物をした後直ぐにこの世界に来てしまったので、実際何のドロップも持っていないらしい。
一応俺はマクリルロ宅に出掛けていたので一式そろえている。
「俺のドロップを幾つか渡しとくぞ。 ……確かお前、属性系のドロップは適正あったよな?」
「はい、ありがとうございます。 ……正確には私の適性ではないですが。 あと念の為、託宣のドロップは持ってますか?」
「……一応一つ持ってるが、これは渡せない。 悪いが、これだけで我慢してくれ」
「承知しました」
「それと、そう易々と託宣のドロップは使うなよ? 使いすぎは危険だからな」
「……知ってます」
そんなやり取りを見ていたリスピラは、不思議そうにドロップを見る。
「それなんなの? きれーないしなの」
「ドロップっていう、俺達の世界の……武器、だな」
「そーなの? ためしてみてほしーの」
「いや、消耗品で補充も出来ないから、無駄遣いしたくない。 戦う時にでも見てくれ」
「えー、いまみたいのー」
リスピラは、俺の頭上で髪を引っ張る。
「それよりも、敵ってのの情報を具体的に知りたい。 黒いとかって言ってたが?」
「そーなの! くろくてわるいのなの。 それと、つばさのはえたおおきなひとたちもいっぱいいたの!」
「翼で大きい……」
「おーきさはカーティスさんぐらいなの。 それで、わたしはこれをもってにげてきたの」
そう言って彼女の身の丈程の大きな水晶を掲げる。
「わたしはこのステアクォーツのみこなの! それで、くろいのがおそってきたからにげたの」
「大事な物なんだな?」
「そーなの。 こくほーなの! これでカーティスさんのところにもいったの」
「……それを使えば異世界転移も出来るって訳か」
「せかーてんい? よくわからないけど、とーくとここをくっつけられるの。 ほかにも、これをつかえばなんでもくっつけたりまぜたりできるの」
「……よくわからんが、凄い糊みたいなもんか」
糊を崇める文化と言えば聞こえが悪いが、異世界すらも繋げるのは凄いのだろう。
「それで、これからはどうすべきか――」
そう呟いた瞬間、何かが勢いよく迫ってくるのに気が付く。俺は盾をディートすると、生成したそれで防いだ。
「ぐっ……」
「あぶないの! けがしたらどーするの!」
防いだそれは、投げ槍の類だったらしく、勢いを失って地面に落ちる。
「我が槍を防ぐとは、中々の手練れらしいな」
「誰だ!」
声のする方角、空を見上げると、そこには長い髪を靡かせる一人の男性が腕組をして立っていた。
……正確には立っていたのではなく、飛んでいるのだろう。背中から生えた大きな翼がはためき、髪や服以外微動だにしないからそう錯覚させていた。
「その小娘を渡してもらおう。 正しくは、その者の持つ石が目当て……なのだがな」
「やーなの! おまえフェアルプをおそったわるいやつなの!」
「だ、そうだぞ? 因みに俺も同意見だ。 初対面で文字通り見下す態度に、不意打ちと来れば俺としてもいけ好かない」
「カティさん、挑発しないでください」
そう冷静に応対する振りをして、懐からしっかりと風のドロップを取り出すメグミの手際に舌を巻く。
「フッ、ならば……我が槍の前に平伏すがいい! 風穴を開けても同じことが言えるかな!」
黒色の靄から取り出した槍を俺達目掛けて投げ付ける。その速度は凄まじく、直撃すれば本当に風穴が開く勢いだった。
「危ない!」
メグミへと投げつけられた槍を防ぐと、俺は小声でメグミに合図する。
「(まずはあれを地面に落とさない事には勝ち目はない。 風のドロップであの翼を狙ってくれ)」
「(承知しました)」
連続で投げられる槍だが、その全てを盾で防ぐ。その様子に調子良く、翼の男性は話を続ける。
「一方的ではないか! いつまでそうして無駄な足掻きをするつもりなのだ! この翼四天が一人、無限槍雨のメブリンム様に手も足もでまい!」
「――無駄なお喋りがお好きなんです、ね!」
俺の後ろで隠れていたメグミが暴風を巻き起こし、そのメブリンムとやらに直撃する。僅かに体制が崩れるが墜落には至らなかった。
「ぐぉっ。 反撃手段があったとは――」
それでも尚、無駄に言葉を並べるメブリンムに追撃すべく、俺は弓のドロップを取り出した。
「わたしもてつだうの!」
俺が弓のドロップをディートしようとした瞬間、リスピラがそう言い放つのと同時に彼女の水晶が光る。
そして、確実に弓のドロップをディートしたにも関わらず、消失せずに残り続ける盾に俺は驚いた。
(何だ……これ……)
それだけではない。生成した盾とは別に、弓と矢を生成できる感覚をも同時に得ていた。そして、もう一つの存在にも気が付く。
俺はその存在を生成した。生成済みであった盾は消失し、新たなそれが現れる。
一見するとそれは盾である。だが、その盾の表面には無数の穴が開いていた。
「――くらいやがれ」
「ごふっ……」
俺は盾裏の引き金を引くと、表面の穴から物理的にあり得ない量の矢が射出される。勢いよく発車されたそれらの矢はメブリンムの体や翼に突き刺さると、彼は力なく地面に落ちた。
「……風穴が開いたのはお前だったな」
「我を倒しても、まだ他の翼四天が……」
メブリンムは、そんな言葉を残して絶命した。




