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第25話② 脱走


==杏耶莉(あやり)=フェアルプの森・掘っ立て小屋内==


 手足が縛られた状態で建物に囚われているものの、身動きが出来ない程ではないので、その声達の方へと進む。

 すると、虫篭大のサイズの檻に大量の妖精が捕らわれていた。


(何でこんな……)


 妖精とはいえ、私の想像する姿とは違い、虫の様な翅はないらしい。だが私の顔を見るなり、あーでもない、こーでもないと騒ぎ続ける小さな存在は妖精と呼ぶに相応しいものがあった。


「貴方達は何でこんな、捕らわれているんですか?」

「しらなーい」「どんくさいから?」「捕まりたい訳じゃない!」「お腹がげんかーい」


 私の質問に大勢が反応するが、その内容は的外れで当てにならない。私が知りたかったのは、捕まった理由なのだが、自分が捕まった理由だったり、感情だったり……。それ以前に関係ない事を話続けるのも居れば、知らないとはっきり答えるのも居る。


「……少なくとも、貴方たちの意思でそうしている訳ではないのですね?」

「お菓子あげるから黙ってて」「そらそうよ」「引っ張らないで!」「何だ? 助けてくれるのか?」

「そうですね。 見捨てる訳にもいかないですし……」


(さっきの兵士、女王がどうとか言ってた。 なら、ここに留まるのは安全じゃないよね)


 伺うとかという話になれば、十中八九安全に帰ることは出来ないだろう。であれば、多少の危険を冒してでも動くべきだと考える。そうと決まれば……。


「良ければ私の脱出を助けて頂けないでしょうか? その見返りとして貴方達を解放します」

「助け?」「バリッバリッ」「翼ないから違う人って事?」「今助けろー」

「今すぐには難しいですね」


 鍵の掛けられた檻を正攻法で開くのは無理だろう。だがそこまで頑丈でもなさそうな檻は、私でも破壊は可能そうだった。

 しかし、その為には大きな音を立ててしまうだろう。そうなれば今以上に私が警戒されて、逃げるのが困難となる予想が出来る。


「ですが、あの兵士達から逃げられれば助けると保証します」

「なら安心だ」「信用できない。 罠じゃないのか?」「バリバリうるさーい」「信用してもいいでしょ」


 そこそこ意見割れがしているみたいだが、その様子を待っていると結論が出たらしい。


「じゃあ、お願いする」「おねがーい」「頼んだぞ!」「もうお菓子ないの?」


 そんなこんなで私は、脱出計画を立てることになった。


 ……


 日の沈んだ真夜中、私は行動を開始した。手足を縛る縄はそこまできつく縛られていないのもあり、時間をかけて外している。

 この妖精達曰く、この翼の生えた人達は夜目がきかないらしい。それは私も同じではあるが、話から察するに私以上に見えていないだろうという結論に至った。

 だが、それでも松明の明かりで気付かれる可能性は十二分に存在する。だからこそ、私は今一切の明かりなしで歩いていた。


「(次こっち)」「(あっちじゃない?)」「(そっちで合ってるぞ)」

「(……もう少し静かにしてね?)」


 私は何も見えない漆黒の中を歩いている。夜目のきくこの妖精達だけを頼りにしていた。

 因みに建物からの脱出は簡単であった。翼を持つ兵士だからこそ空の警戒ばかりしていて、警備は厳重とはお世辞にも言えなかったからである。


(もう少し……。 もう少し……)


 この頼りない妖精の案内に従って真っ暗な森を歩くのは控えめに言って怖すぎる。


「――誰だ!」


 そんな中、捕らわれていた拠点こそ離れられたものの、巡回している他の兵士に見つかってしまった。


「ヤバイ!」

「ぐっ……、不審な輩め。 皆、起きろ!!!」


 すんなり逃がしてもらえるはずもなく、その兵士の声に答える様に、他の翼兵士が集まって来る。


「どうする?」「激しく振らないでー」「見つかった!」「にっげろー」

「そうなるよね――」


 私は兵士達とは反対方向に走り出した。鬱蒼とした森の中、出来る限り狭まった道を選びながら進んで行く。

 こんな暗い中、飛んで私を見つけるのは難しいだろう。それに、あんな翼があったら、狭い場所は通りづらいと判断しての行動である。


「待てっ!」

「……はっ、……はっ」


 喚く妖精の檻を振り回しながら、木の脇を通ったり、巨大な花を飛び越したりして進んで行く。

 道中手足や頬に何かの植物で切った切り傷を幾つも作りながら、無心で走り続けた結果、気が付けば追っては撒く事が出来ていた。


「助……かった……?」

「酔ったー」「もっとやってー」「重い。 早く退いて!」


 満身創痍な私同様、檻の中の妖精はめちゃくちゃになっていた。そんな彼らを解放すべく、適当に拾った石で檻を破壊した。

 檻破壊時の音が五月蠅いだの、逃げる時に檻を振りすぎだの文句を言われるが、それを無視して真夜中の森のど真ん中で、私は寝そべって休みを取った。


 ……


 明るくなった翌日、私はこの妖精から様々な事を教わった。

 まず、この世界はカティの世界とは別の世界だろうという結論に至った。ドロップやレスプディアという単語に理解を示さなかったからだ。

 続いてこの地の名前だが、フェアルプという国の森なのだそうだ。その国は彼らの様な妖精の暮らす場所であるらしい。だが、最近になってあの翼兵士や黒色の何かという曖昧な存在に襲われて、散り散りに逃げた先で捕まってしまったとの話である。

 私は早速後悔していた。カティ達に会えないどころか、別の騒動に巻き込まれてしまっているので当然だった。


(罰が当たったかな……)


 裂け目を見つけて、衝動的に動いた結果がこれである。短絡的な行動が招いた罰が降り注いだと思う他ない。


 それと、彼らは私の想像する妖精であったらしく、本来なら翅があって飛べるのだそうだ。だが、それらを剥がれて檻に入れられていたらしかった。

 「なんて惨いことを……」と思った私だったが、当の本人らは到って楽観的で、「歩くの怠い」だの、「ちょっと不便」だのと口々に話している。人基準なら足を失ったのと同義だと思うのだが、価値観の違いからかそこまで悲観的ではないらしい。


(脱出こそしたけど、これからどうしよう……)


 占領されているであろう彼らの国へと向かう訳にもいかず、かと言って行く先の見当がない今の状況にため息を付いた。


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