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第25話① 妖精現る


==カーティス=マクリルロ宅・研究室==


 聖天も終わる頃、俺はマクリルロに呼ばれて彼の家に来ていた。


「手っ取り早く済ませてくれよ」

「ちょっと待ってもらえるかな。 この機械は取り扱いが難しいんだよ……」


 ドロップ適性を調べる機械。それには大量のドロップの情報が記録されているらしい。だが、全てのドロップがとはいかない。

 マクリルロが入手した事のないドロップは登録されているはずもなく、そのドロップの適性を知ることはできない。


「とはいえ、マークは興奮しすぎです。 それ程珍しいドロップが入手出来たのが嬉しいのはわかりますが、付き合わされるカティさんの身にもなって貰えますか?」


 隣でそんな苦言を吐く少女の名前はメグミ。どうも異世界から来た存在らしいのだが、帰る手立てが見つからないのでマクリルロの助手を買って出ていた。


「でも、あらゆる適性を持つのはキミだけなんだ。 将来の役立つ研究の礎として、大人しくしてもらうよ」

「礎って……、大げさだな」


 実際は定期的にマクリルロが新たなドロップを入手した度にこうして試運転をさせられていた。正しく適性の情報が登録されているかの確認が必要だかららしい。


「……よし、準備出来たよ。 では、お願いするね」

「はぁ……。 わかった」


 数分間……いや、数秒じっとしているだけの手伝いなのに、彼の相手をするだけでどっと疲れる。


(こんな奴の相手を日常的にやってたアヤリやメグミ達は凄いよなー。 俺はゴメンだが……)


 それでも、メグミのお陰か以前より暴走気味な様子を見ることは減った。俺の知らない所でストッパーになってくれているのだろう。


「終わったのであれば、昼食にしましょう。 カティさんが来ると聞いて準備してあります」

「お、本当か? それは有難い」


 声を掛けても意味のないマクリルロを放置して、俺達はリビングへと向かった。


 ……


「ふぅー。 やっぱりメグミの料理は旨いな。 今日もありがとうな」

「お粗末様です。 マークもこれだけ美味しそうにしてくれれば作り甲斐があるのですが……」


 年相応の小さい背丈ながら、てきぱきと片づけるメグミに礼を言って、再度研究室へと戻る。

 最後にドロップそのものが想定していた品であったか、俺の適性値が正常に測れているかを調べる為にドロップをディートしなければならない。

 因みに今回のドロップは小舟に銛、そして錨である。どれもこの大地で使い道を見出せない分類だ。ノーヴスト大陸から出た遠くの地で一応の需要がある海用のドロップだった。


「おーい、マクリルロ」

「あぁ、キミか。 手筈通り、ドロップを――」


 そんな言葉を遮る様に、別の機械が鳴り出す。けたたましいその音に反応したマクリルロは、その機械を操作し始める。


「不味い!」

「どうしたんだ?」

「異世界から何かが来る!」

「異世界……、裂け目か!?」


 それならアヤリかもしれないという僅かな希望が芽生える。


「いや違う。 これ程の安定なら(ゲート)だね」

(ゲート)……?」


 そんな疑問の答えも聞けずに、マクリルロは焦りを募らせる。


「近い。 この近辺に何かが向かっている……? そうじゃない、ここに来る――」

「は? ――あだっ!」


 その瞬間、俺の額に衝撃が走る。硬すぎず、適度に柔らかい肉みたいなそれを空中で掴んでまじまじと見る。


「何だこ……れ? 小さな人間?」


 手のひらの上には、透明な羽の生えた人が居た。そして、その小さな人と同じ大きさの水晶に抱きつく形で収まっていた。


「ひぅえ~」


 そして、何らかの呻き声を発している。


「何かの攻撃かもしれない。 気を付けるんだ!」


 口を大きく開けて間抜け顔のそれを見て戦意が削がれた俺に対し、緊迫状態を維持し続けるマクリルロ。

 丁度そのタイミングで片づけを終えたメグミが合流する。


「何ですかそれ?」

「さぁ? 俺もわからん」

「わからないなら討伐すべきだよ!」

「そんな脅威には見えませんが……?」


 俺達と温度差のあるマクリルロだが、彼の言う通り異世界から自らの意思で来たのであれば警戒すべきなのかもしれない。

 そんなやり取りをしていると、その小さな人が、意識を取り戻す。


「ここは……?」


 ノーヴスト大陸の共通語を話すが、その聞こえ方に違和感を感じる。耳ではなく頭に直接話しかけられている感覚だった。


「ここはレスプディアの悪趣味な研究室です。 向こうで変なのが騒いでいますが、安全ですよ」

「ほんとーなの? それじゃあ、あなたがつよいひとなの?」

「私ですか? ……貴方が探している方は私ではなく、きっと彼ですね」

「かれ……? カレなの! カレさん、わたしたちのくにをたすけてほしーの!」

「……俺はカレじゃない。 カーティスだ」

「そうなの? じゃあカーティスさん、たすけてほしーの」

「……よくわからんが、わかった」


 困っている相手はほおって置けない。そんな性格のせいで反射的に答えてしまった。


「じゃあいくの!」

「は? ――」


 ――


 俺の視界は大きく曲がり、気が付くと、見た事もない植物の森に居た。


「えぇ……」


 俺が驚く前に、隣に居たメグミが驚いて、その機会を失う。


「さぁ! たすけるの!」

「――ちょっと待て! 色々整理させてくれ」

「せーりせーとん? いいの、まつの」

「……」


 透明な羽を羽ばたかせ、俺の頭に乗っかったその小さな人は、五秒程経過すると、再度騒ぎ出す。


「もういいの? それじゃ、たすけるの!」


 無言だったからか、完全に自分のペースで話すこの小さな人の相手に嫌気が差す。


「だから待てって……。 一先ず、自己紹介からだ。 お前の名前は?」

「リスピラなの!」

「……それで、助けてほしいってのは?」

「フェアルプをたすけてほしーの。 くろくてわるいのにおそわれたの。 それで、わたしはステアクォーツをもってにげてきたの」


「黒くて悪いの……」


 俺はその言葉に、何だが嫌な予感がした。


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