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第24話⑤ 飛び込んだ先で


==(かえで)=天桜市・杏耶莉(あやり)宅前==


 私と六笠(むかさ)とで春宮(はるみや)の自宅へと到着していた。


「ちょっと待っててくれ。 今日は買い物に寄らずに帰ると言ってたから、もう居るはず……」


 六笠(むかさ)がインターホンを押すのだが、暫く待っても対応がされない。


「出て、きませんね」

「おかしいな……」


 暫くして諦めたのか、彼女は鞄から鍵を取り出す。


「極力使いたくなかったんだがな」


(合鍵……? 何故それを六笠(むかさ)さんが?)


 明らかに二世代で暮らす規模の戸建て住宅の鍵を、いくら仲が良いとはいえ唯の同級生が持ち歩いているという事態に違和感を感じる。


(明らかに普通じゃありません……。 どういう経緯でそれを……)


 そう考えを巡らせていると、六笠(むかさ)は玄関の鍵を開けて入って行く。玄関前で待つよう言われていた私は大人しくその場で待ち続ける。


「……」

「おい! 杏耶莉(あやり)! 居ないのか!」


 建物内で叫びながら春宮(はるみや)を探しているらしい。そうこうして諦めたのか、宅内から六笠(むかさ)が現れた。


「居ねぇ……。 一体どこに行ったんだよ」


 そう言って彼女は徐に携帯を取り出す。何度かボタンを押して確認を取ったのち、顔面蒼白になった。


「どうかしましたか?」


 申し訳ないと思いつつも、携帯の映像を見ると、そこには春宮(はるみや)から送られて来たと思わしきメールに短い一文が書かれていた。


『ごめん』


 小さいその一文を見て、異常を察知した六笠(むかさ)は何処へともなく走り出した。


「くそっ! 馬鹿野郎!!!」

「――同行します」


 当てがある様には見えないが、それでも探すことにしたであろう彼女に付いて、春宮(はるみや)探しを手伝うことにした。




==杏耶莉(あやり)=天桜市・自宅周辺の住宅地==


 下校した私は、特に用事もないので真っ直ぐ帰宅していた。


(買い物は昨日したし、休日はどうしようかな……)


 別段予定などない生活をしているので、連休だからと別に足取りが軽い訳ではない。

 近頃は瑞紀(みずき)も休みに部活があるので、共に出かける機会も少なかった。そんな日は料理か鍛錬をして、充実した一日を過ごしていたりもする。


「…………え?」


 そんな事を考えながら歩いていると、ふと視線を動かした先、周囲を囲まれて死角となりやすい空き地に異様な存在が浮かんでいた。

 何もない空中に亀裂が走っている様なそれは、レスプディアから帰還日に見かけた裂け目のそれであった。


「何でこれが……」


 確実に異様である光景。それを見た私は、その裂け目が既に閉じ始めている事に気が付く。


(!? 飛び込むなら今しかない……)


 こう考えた瞬間、私を気にかけてくれていた友人の顔が思い浮かぶ。

 取り出した携帯でなんとか謝罪の一文だけ送信すると、迷わずその裂け目へと触れた。


 ――


「痛っ……」


 まっすぐ立っていた重力がいきなり横にズレた感覚と同時に、『ドサッ』という音と共に地面へと叩きつけられる。


「ここは……」


 私は考えなしに裂け目へと触れた事を早速後悔する。そこには、明らかにレスプディアではない場所の光景が広がっていた。

 うっそうとした森……というよりはジャングルの様な光景に、サイズ感を間違えていそうな大きすぎる木や花といった植物。その色は鮮やかと表現するより禍々しいや毒々しいという表現が正しいだろう。


「誰だ!」


 そう考えていると、どこからか大きな声で叫ばれる。 その言葉は日本語に聞こえたのだが、エコーが掛かっている様な不思議な感覚だった。


「えぇと、怪しいものでは――え!?」


 そう返答する者が怪しくない訳がない。草木をかき分けて現れた人は、背中から翼を生やした男性二人組であった。


「デカいな」

「この世界の奴らはこの大きさじゃないだろ?」

「……へ?」


 私の感覚とそう違わない身長であるの翼の男性だが、それを大きいと表現する。それに、この世界という言い方にもどこか引っかかる。


「わからんが害があるかもしれんし、捕まえるか……。 おい! 大人しく付いてこい!」

「は、はい……」


 相手は手に槍らしき獲物を持っている。それに対して私はドロップは疎か武器になりそうな物はなにもない。人数差もあって、従う他なさそうだった。


 ……


 私は警戒こそされているが別に縛られるでもなく、その後ろを付いて歩いていた。

 暫く歩くと、簡易的に建てられた建物が現れる。その場には彼ら二人とは別に、翼の生えた兵士という印象の人達が屯していた。


「この者は何者だ?」


 隊長みたいな兜をした人が、私を連れてきた二人に質問している。


「森の中枢に居ました。 敵対姿勢はありませんが、念のため連れ帰った次第です」

「そうか」


 連れて歩いた片方がそう答えると、隊長は考え込む仕草をする。

 そのどちらも日本語で話しているので違和感が凄まじい。


「我々の脅威となるやもしれん。 が、牢には入らんだろうし……適当に縛って捕らえておけ」

「「はっ!」」


 そのまま私は手足を縄で縛られ、適当な建物に押し込められた。


「大人しくしていろ! 作戦が終わってから、お前の扱いについて女王から伺うことになる」


(作戦……? 女王……?)


 そんな単語が気になりながらも、私は一応命の保証がされた事に安堵する。


「また捕まった?」

「どんな子?」

「大きい。 でも翼ない」

「見えないから退いて」


 扉が閉められたのと同時に、部屋の奥からそんな話声が聞こえる。だが、それ程大きな部屋ではないのに、十数名は居そうな喧しさに驚く。


「……誰か居ますか?」


 私がそう尋ねると、同時にめちゃくちゃな返答が返る。


「居るよー」「お腹すいた」「ほんとだ大きい。 でも飛べなさそう」

「女の子!」「変な服装」「足踏まないで!」「大人?」

「引っ張らないで!」「地味」「暗い色の子」「狭ーい」

「えぇ……」


 取り留めのない声のみが響く様子に、私は呆れるしかなかった。


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