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第24話② 噂の女子生徒


==杏耶莉(あやり)=天桜市・律舞高校までの通学路==


「おっす、杏耶莉(あやり)~」

「おはよう、瑞紀(みずき)


 高校まで徒歩で行ける距離に住んでいる私と瑞紀(みずき)は、待ち合わせてからのんびりと高校に向かう。


「珍しいね。 瑞紀(みずき)が遅れずに来るの」

「そらそうよ。 実はあの後、私なりに調べたからそれを報告したくて、な」


 あの後とは、美人女子での騒動の事だろう。


「またそんな嗅ぎ回って……」

「いーだろ? ……で、それについて説明してくぞ」


 私が止めても彼女は話を続けるだろう。私は諦めてその内容に耳を傾けた。


「まずあの美人っ子の名前は宿理(しゅくり) (かえで)。 私達1-B組のお隣さんの1-C組に在籍する一生徒だな」

「……一年なのは、リボンの色で分かったけどね」


 私達の入学した天桜市立律舞高等学校には、学年色というものが存在する。学年別に女子ならリボン、男子ならネクタイにその色が使われるのだ。

 因みに、私達の学年は赤色である。順繰りとなっているので三年間この色のままで、私達が卒業した後の一年が同じ赤色になる。二年は青、三年は緑のはずである。


「でもって、彼女の扱いは特殊らしい。 昨日騒動の元凶にも拘らず、彼女だけ御咎めなしだっただろ? 詳しくは調べられなかったが、お偉いさんとの繋がりがあるんじゃないかって事だったから、教師陣も扱いに困ってるみたいだな」

「ふーん……」


 確かに進んで騒動を起こしたのに、それを指導される様子はなかった。


「適当に返事すんなよー。 ……んで、ハーフとか留学生とかってのは頻繁に耳にしたが、確証的な情報は誰も持ってなかったから信憑性に乏しいな。 どうにも日本人っぽくない顔立ちと髪色から、どっかでそういう噂が生まれたんじゃねぇのかな?」

「……噂って、誰かの想像が勝手に独り歩きして出てくるもんね」

「そういうこったな」


 私も瑞紀(みずき)も、その経験があるので噂を鵜呑みにしない耐性が付いていた。


「それで、昨日の私を見た事がーっていうのは結局何だったの?」

「それは……、よくわからん」

「わからんて……」

「しょうがないだろ? 話題こそ持ち切りだったのに、正確な情報を持ってる奴が全然いなくてな。 調査が難航したのだよ、杏耶莉(あやり)警部補」

「誰が警部補だ……」


 まるで自らを警部とでも言いたげな態度に不満を返す。


「まー、わたしの調査力では一日でこれが限界だな。 後は直接聞くことにしようぜ」

「……頑張れ」


 恐らく昨日の熱意から、まだ彼女に近づくのは難しいだろう。そう予想した私は一方的に瑞紀(みずき)を突き放す。


「おう、任せろ!」


 無理に私を巻き込むつもりもないらしい瑞紀(みずき)はそう返事すると、私を置いて通学路を走り出した。


「あいつも物好きだよね」


 私は一人、通学路をのんびり歩き出した。


 ……


 休憩時間の度にどこかへ飛び出す瑞紀(みずき)を放置して、私は一人昼食を取れる場所を探して歩いていた。

 進学して間もないので、多くの同級生はまだ同中の生徒と共に行動しているらしい。特別親しい相手は瑞紀(みずき)しか同じ高校に進んでいないので、一人寂しく歩いているのである。


(小学生の頃は友達作りし易かったけど、あれがあったり、異世界転移したりで人付き合い苦手になっちゃったからな……)


 どちらかと言えば、私の方が壁を作ってしまう傾向にあるので、折角人間関係がリセットされたのを機に新たに話せる相手は作りたいものである。


(屋上って……あ、開いてるんだ)


 人気のない方向へと歩いていると、屋上に続く階段を見つけた。その扉は開いていないだろうと思いつつも、ドアノブを回すとすんなり回ってしまう。

 中学では進入禁止となっていたので、扉が開いている事に驚きながら空の下に出た。


「あ……」


 先客が居たらしく、一人で持ち込んだサンドウィッチを齧る一人の女子を見つけた。座っている傍には鍵らしき物も置かれているので、本来屋上は開いていなかったのかもしれない。


「……すみません。 鍵を掛け忘れていた様ですね。 本来この屋上は生徒が勝手に使用するのは禁止なのですが、無理を言って使わせてもらっていました」


 そう丁寧な口調で話すのは、今校内で話題沸騰中の美人女子、宿理(しゅくり) (かえで)であった。


「そう、だよね。 それなら私は出ていった方が良い?」

「いえ、構いません。 昼食ぐらい落ち着いた場所で食べたいと思っていただけですし、私はもう食べ終わります。 鍵をお渡ししますので、返却は河井先生に返却だけお願いします。 私から受け取ったと話していただければ大丈夫ですので」

「あ、うん……」


 彼女は残りのサンドウィッチを口に入れて、そそくさと飲み込む。その所作はどこか優雅で気品を感じる。


(チェルティーナさんを思い出すな……)


 彼女も普段の言動こそそそっかしかったが、言動は貴族と呼ぶにふさわしいものがあった。それとはまた違うが、洗礼された動きを私は読み取っていた。


「えぇと……、同じ一年の方ですよね?」

「そうだよ」

「すみませんリボンの色で判断してしまいましたが、他クラスの方はまだ名前を覚えていなくて……。 それで、私の顔を見た記憶とか……ありませんか?」

「うーんと……。 それは入学前の話だよね?」

「はい。 正確には、一年程前の……三月以前に見かけたりはしていませんか?」

「……見てないかな。 多分日本で宿理(しゅくり)さんを見かけてたら、印象に残ってるし……」

「やはり、見てませんよね。 回答、ありがとうございます」


 宿理(しゅくり)はそう答えると、少し寂しそうにしながら私に鍵を渡して屋上の出入り口へと向かう。


(やっぱり、何か抱えてそうだよね)


 本来使用禁止だからこそ、私はしっかりと鍵をしてから昼食を取った。


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