第24話① 新しい日常
今回からこれぐらいかもう少し早い時間に投稿する予定です。
==杏耶莉=????・?????==
春、それは出会いの季節なのだろう。数年に一度訪れる、学生にとって一大事な出来事。それは進学である。
そんな進学に際し、私は入学したばかりの高校に居た。
「いやー、無事入学出来て安泰だな。 暫くは勉強したくねー」
入学早々そんな言葉を言い放つ目の前の少女の名前は、六笠 瑞紀。人生の半分は共に過ごしている、所謂腐れ縁な相手だった。
「いや、高校には勉強に来てるんだから、寧ろ勉強はこれまで以上にやらないとでしょ?」
「そういう変なとこだけは真面目ちゃんだよなー。 わたしゃ、一生勉強なんてしたくない宣言してるのにさ」
「……テスト前にノートは貸さないからね」
「え……。 ……アーちゃん? わたしとアーちゃんの関係だろぅ?」
「……知らん」
「んな事言うなよ~」
私の肩を掴んで前後に揺する。その手を振りほどくと、ノート端に小さく文字を書く。
「その文字って、お前が失踪した後からたまーに使う様になったよな。 初めは厨の二に目覚めたのかと感心したが、結局何なんだ?」
「……なんでもいいでしょ?」
時折あの世界の事を忘れたくなくて、無意識に向こうの単語を書く癖が付いていた。どうにもそんな様子の私が瑞紀は気に入らないらしく、調子に乗っていた態度から機嫌が悪くなる。
「……杏耶莉。 そういえば居なくなったあの時も中学進学の四月だったよな」
「そうだね……」
「また、居なくならないよな」
「……今のところはそのつもりだけど?」
私が帰還した後の二年半、瑞紀と何度も繰り返したやり取りを再度する。
「そっか……。 あんま心配かけんなよー。 うりうり」
「もう、止めてよ……」
無理やり元のテンションに戻した瑞紀は、私の肩を突いて邪魔を続けた。
……
入学式当日という事もあり、今日は顔合わせだけで終了である。クラス内での自己紹介も難なく終わらせて、今は放課後になった。
早速とばかりに置き勉不可の教科書を含めて自らのロッカーに仕舞っている瑞紀を呆れながら待っていると、クラスの男子が気になる話を始める。
「隣のクラス見たか!? ヤベー可愛い子居たぞ!」
「あぁ見た! あの金髪の子だろ!? 外国人留学生だって噂だぜ!」
「マジかよ!?」
彼らは知り合いではないが、中学にも美人だなんだと騒ぐ男子は一定数存在した。
「……今の話、わたしも耳にしているな」
そんな声が聞こえていたらしく、ロッカー前から戻った瑞紀はそう話す。
「そんなに騒ぎになってるの?」
「みたいだぞ? けどわたしが聞いたのは、外国人じゃなくてハーフの可愛い女子って話だったな。 金髪とか美人とか、容姿に関する内容は一致してるが、噂だからそんなもんだろ?」
「ふーん……」
噂とは無責任なもので、根も葉もない内容がさも真実の如く語られる。
仮に本当に綺麗だとしても、それをネタに騒いだりするのは感心しない。本人は慣れているとしても、無用な迷惑はかけるべきではないだろう。
「わたしはとても、興味がある。 そこの男子諸君、詳しい話を――」
「あ、ちょっと! 瑞紀……」
どちらかと言われれば騒がれる側の私達は、そういった配慮が出来ると思うのだが……。どうにも彼女は首を突っ込みたがる。
困っている相手なら兎も角、誰かを困らせかねない事象に私は関わりたくない。
「うんうん、お姉さんに教えてくれよー」
「は? クラスが一緒ってことは、同い年だろ?」
「そう硬いこと言わずにさー。 男が硬くしていいのは――」
(はぁ……)
同じクラスで自己紹介を一度聞いただけの、ほぼ初対面の相手に対して中年男性みたいな絡みをしてドン引きされている。
(知り合いだと思われたくない……)
そう思い、目線を教壇の方に向けると、確実に同じクラスではない金髪の女子が教室に入る。
(え、あれって噂の……?)
噂通り、注目を集める程の美人である。そんな彼女は寧ろ注目を集めながら、教壇に立って口を開いた。
「この中に……私の顔に、見覚えのある方はいらっしゃいませんか!?」
「……は」
開口一番そんな言葉を発したその美人女子に、誰かが間の抜けた返事をしていた。
「私は知り合いを探しています。 もし以前、私を見た事のある方がいらっしゃいましたら、教えてください」
「「「……」」」
何かの聞き間違いではなく、本当に『この顔にピンときたら』をやっているらしい。基本的に目立つ容姿の彼女を一目見れば忘れなさそうなので、私に心当たりは存在しない。
「……俺、知ってるかもしんねー」
男子の中の一人がぼそっと呟く。
「本当ですか!?」
美人女子はその一言を聞き洩らさずにその男子に近寄る。その態度からちょっとした出来心だったのだろう。明らかに嘘であったので、それに驚いた男子がたじろぐ。
「貴方は、私について何を知っているのでしょうか?」
その男子の手を取って、嬉しそうに笑う美人女子。
「えっと……その……なんとなく……多分……」
「もっと詳しく教えてくださ――」
そこまで話した時点で、他の男子はチャンスだと思ったのだろう。「俺も駅前で――」だの、「実は俺の姉ちゃんが――」だのと言って、その美人女子や男子に群がる。
「ヤベェ、祭りだー!」
そこに瑞紀が加わって、めちゃくちゃになる。
「うわ、不思議ちゃんじゃん」
「そこまで男子に媚びうるとか、どんだけ必死なの?」
それを遠巻きに見ていた他の女子は、聞こえないことをいいことに、そんな感想を口々に発する。
(いや、そんなことはない。 あれは本当に困った人の顔だ……)
どうしようもなくなった、あれ後の瑞紀や、あの時の私の顔に近しいものを感じた。
そんな騒動を聞きつけた教師が来て、無理やり解散させられるまで、教室内の混乱は続いた。




