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Episode18 Megumi Aptitude


==カエデ==マクリルロ宅・リビング==


「メグミの適性を調べよう」


 ある日の開口一番、マークはそう言い放った。


「てきせー?」

「適性、とはドロップのですね? 何でまた、このタイミングで……」

「このタイミングになったのは単純に気になったのが今だったってだけだよ。 それに、適性の傾向は彼女の出生を知る手がかりになるかもしれないしね」

「カエデ! しゅっせー、ってなに?」

「出生とは、生まれた経緯や境遇、場所に関する知識についてですね」

「……わかんない、れす」


 自分で答えながら理解できないだろうとは思った。どう噛み砕いて説明すべきか悩んでいると、マークは話を続けた。


「どうにもドロップの適性にはそれまでの生きてきた知識や、これからの才覚に影響されるみたいなんだ。 だからこそ、それを紐解く鍵になるかもしれないよ」

「……という名分を得て、単純にメグミを調べたいんですね?」

「えすね?」

「……そう言うことだね。 どうだい、協力してもらえないかな?」

「……それは、私ではなく本人に聞くべき内容ではありませんか?」


 という苦言は吐いたが、彼の言い分も一理あるのも事実であった。


「……わかりました。 調べましょうか」

「しうか」

「よしよし、それじゃあ準備しておくよ」


 私の言葉を聞いたマークは一目散に研究室へと向かった。


「……はぁ、もう少し他への興味は向かないのでしょうか……?」

「マークは、ダメでうね」

「ふふっ、そうですね」


 先のことを考えれば、私ではなくこの子がマークと付き合っていく必要がある訳で、そう言った意味ではこの反応に安心している。


「……この一杯を飲み終えてから、向かう事にしましょうか」

「しょーちし、まちた」


 何かに付けて私の真似をしたがる彼女と、一呼吸整えた後に研究室へと向かった。


 ……


「少しちくっとしますよ」

「あい、しょーちし、まちた……。 うっ……」


 大したことないとはいえ、多少の痛みこそあるはずだが、軽く呻いたのみで反応が薄い。こういう部分も子供らしからぬメグミの反応と言えよう。


「もう外して大丈夫ですよ」

「あい」


 私が手伝って測定器を外してから、マークの眺めるモニターに視線を移す。


「……あれ、測定失敗ですか?」

「いや、間違いなく遺伝子は取得出来ている……のに、何だこの結果は……」


 その画面にはすべてのドロップが零……適正なしと出力されていた。


「あり得ない。 本来なら何らかのドロップの適性を有しているはず……。 なのに何故……」


 これまで見たことのない表情になるマーク。彼と私は同じくしてメグミの方を見る。


「ふぇ?」

「これは、()()をするしかありませんか」

「そうだね。 ()()だろうね」

「あえ……?」


 ()()とは託宣のドロップの事である。私はメグミの手を引いて庭へと出た。


 ……


「これを口に入れて、奥歯で噛み砕いてください。 危ないので絶対に飲み込んではダメですよ」

「しょーちし、まちた」

「……一応、飲み込んでも胃液で溶けて、ドロップは発揮するだろうけどね」

「マークは黙っててください」

「……」


 私は託宣のドロップをメグミに手渡すと、庭の中央に置いて引き下がる。私を追って来ようとしたメグミを手で制すると、その場でディートするよう指示した。


「そこで使ってください」

「……あい」


 メグミはディートしてその場を動かずに私をじっと見つめる。


「……」

「……メグミ?」


 穴が開きそうな程見つめられたので、思わず声を掛けてしまう。

 そんな折、彼女は手のひらを空に向けると、そこを中心に風を巻き起こす。


「あれ? 彼女は風のドロップも適性がなかったはず……」

「そうですよね。 なのに――」


 マークとそんな言葉を交わしている刹那、私は奇妙な光景を目にする。

 それは、メグミは風ではなく、氷塊をも生成していたのだった。


「……は?」

「あれって、私と同じ――」


 今度は反対の手に火球を生成もする。それを見届けた時点で、メグミに止めるよう合図を送った。

 生成物を消しながら、既に三つは能力を披露するメグミ。そして、それ自体は私と同じ能力の多属性のそれと一致するものであった。


「どういう事でしょうか?」

「それはボクが聞きたいよ……」


 適性を持たないはずの能力を使う、それも私と全く同じユニークドロップである。そんな光景に私達は驚くしかなかった。


 ……


 再度メグミの適性を調べることにした。その結果なのだが……。


「おかしい、そんな筈はない。 何故……」


 結果が表示されたモニターには、先程とは全く違う内容が映し出されていた。


「……そうですよね」


 それは、今しがたメグミが行使した属性の適性を有しているという情報だった。それも、火、水、風、氷、雷、岩石、光明といった属性と表現できるものがすべて均一という珍しい結果である。そう、どこかで見た結果である。


「まさか、私とほぼ同じ結果ですよね……」


 正確には私の数値を減らした、下位互換とも言うべき内容である。私は属性系が六の数値だったが、メグミの場合は三である。その他も鑑みるにおよそ半分にまで減少していた。

 尚、属性以外も同様に約半数の値である。


「考えられる要因は、託宣のドロップでしょうか」

「あ、あぁ……。 そうだね……」


 半ば放心状態のマークは当てにならない。……変化の前後を鑑みれば、メグミが託宣のドロップを使ったのが要因なのだろう。

 そう思えば、メグミのユニークドロップが私を模倣する内容なのかもしれない。ディート後に私をじっと見ていたのもそれが理由かもしれない。


「メグミ、思い当たることはありませんか?」

「ん……。 わかりま、せん」

「そう、ですよね……」

「あははははは……」


 この場で収集が付きそうにないので、乾いた笑いをつづけるマークを放置して、リビングへと戻った。


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