表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

118/341

Episode17 Indulge


==カエデ==マクリルロ宅・自室==


 賊掃討作戦から数か月が経過した。

 私はあの掃討ののち、外出を極力減らしていた。あの惨状が忘れられず、また襲われることを妄想して足がすくんでしまうのだ。完全な引き籠り状態とまではいかないが、確実に考え方への影響は出ていた。

 そして、賊掃討の後、私は兼ねてより約束していた情報を知ることが出来た。


 まずこの国、エルリーン王国は長期に渡り、東の隣国であるギルノーディア帝国と冷戦状態にある。それはノートより知っていたが、より詳しく知ることが出来た。

 最前線で小競り合いが頻繁に発生しているのだが、まず死者が出ない小規模なものらしい。

 だが、それよりも不確定情報ではあるのだが、その国を拠点とする宗教団体、ダルクノース教が引き起す事件が後を絶たないらしい。その一部はノートに記載されていたが、その前後でも発生していたらしかった。

 裏でかの帝国の上層部と繋がりがあるのではと示唆されているのだが、その実態はこの国では判断できようもないのだそうだ。


 続いて南の隣国、ドレンディア共和国だが、本来この大陸一の技術大国であり先進国として幅を利かせていた。だが、マークの介入によってその地位は脅かされ、これまでより優位に立てなくなっているらしい。

 同盟国なので、嫌な介入こそあまりないが、定期的に技術提供を迫られてエルリーン上層部は辟易しているとの事だ。

 とはいえ、かの国との交渉はし易くなったので、結果的には良い関係なのだという。特に鉱山資源の少ないエルリーンではそれらの品を輸入しているのだそうだ。


 そして、南東の隣接していない国、ノーヴィスディア聖王国の動向はあまり掴めていないらしい。

 聖王国を総本山とする宗教、ノービス教だが、一応この国でも教会が設置され、国教の存在しないエルリーンでは多少の浸透はしているらしいが、それだけだと言う。

 それと、今代の勇者……実際は偽物らしいが。その勇者が聖王の地位を得るのではという噂こそあるが、確証はないので眉唾としている。

 もともとこの大陸は聖王国から帝国、共和国と分裂し、さらに共和国から分裂して王国が出来たという歴史があるらしく、この国としてはあまり関わりたくないのだそうだ。


 因みに分裂当初の帝国と王国は国名が現在とは違い、治める王や帝も今の血筋の者は簒奪で得た地位らしい。旧国どちらも圧制や戦争で民を蔑ろにしていたので革命にあったのだそうだ。こういった話は聞く分には面白くて好きである。関わるのは御免だが……。

 それも数百年以上昔の話なので、当時を知る者はもう生きていない。そも、圧制から解放されて政権交代後から支持されていたのであまり気にしなくて良いのだそうだ。


 これらの情報を知ること自体は不安解消になったのだが、その為に危険を冒したのは誤りであったと今は振り返っている。

 実はあの後、グリから正式にランケットに誘われたのだが、何も聞かずに断った。作戦立案時にしていた様々な提案から私に可能性を感じていたらしいのだが、荒事はもうこりごりである。

 安全圏から支援のみで良いとも聞かされたのだが、私の意志は固く、最終的に彼を折ることに成功している。


 そして、メグミの語学学習だが、想像を超える速度で進行していた。

 サフスの教え方が優秀なのもあるのだが、それ以上に知識の吸収力が凄まじかったのが最大の要因である。元々何故か此方の言葉を理解していたらしいし、片言であれば会話が出来るようになっていた。

 それよりも気になっているのが、メグミの行動である。私が近くに居る間は特筆すべき事のない少女なのだが、私が近くに居ないと気絶していると勘違いする程に動かないのだ。

 以前からその兆候には気が付いていたのだが、それはメグミの勉強で一時私が席を立った際に露呈した。マーク曰く、元の世界で何らかの事情や、成長過程の特殊な環境が要因ではないかと思われるが、それより先は想像するしかないだろう。

 現状はそれでも構わないのだが、いつか私がここを去った際にどうなるかが気になる。植物状態のまま静かに死んでいくのではないかと嫌な想像を危惧してしまう。

 もう少しすれば語学学習を切り上げる予定なのだが、今はその後の事を考えている。以前話があったチェルティーナから上流作法を教われば何か変わるのかもしれない。


 ふと窓の外を見ると、綺麗な青空が広がっている。

 どうも勘違いしていたのだが、私が来たた時期は紅天の節という季節だったらしい。常に夕焼け空になるのが特徴らしく、私はそういう世界なのだと思っていたのだ。

 現在は寒天の節と呼ばれる季節らしい。寒さが身に染みる冬のような季節で、厚着をしなければ風邪を引いてしまう。それも外出が億劫になる要因の一つでもあったりする。

 この世界は地球ではないので季節も私の感覚で三年を一周期と呼んでいる。太陽系ではない惑星なのだろう。夜空の星模様も知らない天体が広がっており、それも天文学すら習得している私にとって奇妙な光景に移った。


 そもそも、異世界という定義は何なのだろう。広大な宇宙を経由すれば地球に帰れるのか、それとも別の宇宙なのだろうか……。パラレルワールドなんて単語も存在するので、裂け目を経由しなければ移動不可なのだろうか……。

 マークに異世界転移に関する説明を求めたのだが、詳しくは教えてもらえなかった。管理官として異世界転移に関する知識を広めることは彼の職務に抵触するのだそうだ。管理する側が問題を広げかねないので当たり前だと納得した。

 ノートには自由に行き来したいと綴られている。それが可能なら、私も此方で仲良くなった人と一生会えないのは寂しい。特にメグミが心配なのだ。だが、それを可能にする技術をマークが提供することはできないそうなので、やはり無理だろう。


 結局今の所私の記憶が戻る気配は存在しない。ゆくゆくは日本に戻る訳だが、その後の指針も考えてみた。

 先ず、必要になるのは戸籍だろう。日本には就籍という制度があるので、それを利用するしかない。確か、記憶障害によって就籍を利用した方の前例は存在する。だが、流石に未成年は家出少女の妄想か何かだと判断されて補導されるのがオチだ。幸か不幸か頭の傷は跡が残らない様に治療されれているので証拠にもなり得ない。

 異世界に行っていましたなんて話そうものなら、精神科に放り込まれるだろう。仮に私が役所の職員ならそうする自信がある。だからこそ代わりに保護者となってくれる方に出会うのが最善だろうか……。


 既に記憶を取り戻すことを半ば諦め、これからどう動くかを考えるあたり、私の嫌な人間性が露呈していた。そんな自分が好きになれそうもない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ