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Episode15 Strategy


==カエデ==エルリーン・南商業街のある建物内==


 賊摘発の為に、意図的な豪華さに身を包んだ私は、ある建物内で待機していた。


「カエファちゃん、準備はいいか~?」


 摘発の指揮を執るランケットのリーダー、グリは私にそう問いかけた。


「はい……。 大丈夫です」

「そういう顔には見えねぇぞ~? それなりの細工はしてるが、ランケットだけじゃなくて騎士連中にも応援を頼んでる。 だから気にすることはない」

「承知、しました……」


 今回の作戦は主にこうだ。

 先ず、市場で大規模な催しを開催している。賊を引き寄せる名分の噂だけで良いという意見もあったのだが、実際に開催される方が格好も付く。今現在活気のある声が聞こえてくる。次第に広がる賊被害で落ち込んでいる雰囲気の改善も期待しての意味も含まれているのだが、それ自体は成功しているみたいだ。

 だが、それだけでは賊を引き寄せるのにはいまいち理由が強くない。そこで、珍しい異国の品がオークションで出品されるという噂。そしてそれを運ぶ他国の重鎮とされる令嬢の噂である。


「オイラの立場上、絶対安全と言い切ることはできねぇ。 だからこそ、気を付けてくれよ~」

「はい……」


 その他国の令嬢という事になっているのが私である。まさに火中の栗と言えよう。それに合わせて準備された特注衣装は的としての役割を忠実にこなすべく、悪趣味な程に豪華絢爛だった。

 最終的に戦闘となると予想されるが、血生臭い事になるからこその憂鬱である。一応ランケットの最実力者を護衛に付けると聞いているが、その本人はまだこの場に到着していない。

 それ以外にも、捕縛に適した技能や適性を持つ方をランケットや騎士から応援で呼んでいる。私の移動経路にはそういった方々が待機しているので、無防備ではないのだが……。


「……オイラは他の調整もしなけりゃならんからな。 心を落ち着けて待っててくれ~」

「承知しました……」


 グリがこの場から去り、私は取り残される。近くではランケットや騎士と思われる方々が世話しなく準備を進める中で、何もせずに座っているだけの私はどうも申し訳なくなっていた。


「おやー?」

「???」


 そうしてじっとしていると、一人の女性が私に近づく。全体的に柔らかい雰囲気を纏っているのに、目だけは私を見据え、歩く姿にどこか風格を感じる女性であった。


「……ふむ。 これはなかなかー」

「あの……。 どうかされましたか?」


 その女性は私を……正確には私の()を穴が開くほど見つめてくる。対するその女性の胸も見返すと、贔屓目に見てもなかなかに豊満である。


「あの……」

「……ぐっ! 負けだなー。 これでも自信あったのにー……」

「え?」


 謎の敗北宣言だけすると、その女性はそそくさと建物外へと出て行った。


(いったい、何だったのでしょう……)


 ランケットの方々と明らかに違う雰囲気から、おそらく騎士と思われる……のだが、意図の読めないその言動にただただ呆然とするしかなかった。


 ……


 私は異国情緒あふれる格好に負けないような凛とした表情で市場を歩いていた。当然人目を引き、注目の的となる。

 近くを歩くフードの護衛が「近づくな」と威圧しながら歩くので、むやみに近づこうとする輩は現れない。だが、晒される視線からは嫉妬や不信感という悪感情しか伝わってこないので、早くも心が折れそうである。

 因みに護衛がフードなのは、実力者だからこそ顔がそれなりに知られていることに加え、単純に予算的な都合で異国の服を揃えるのが無駄だろうという意味もあった。


「……」「……」


 私も護衛も一言も言葉を発することはできない。何故なら異国の言葉とやらがしゃべれないからである。私は日本語や英語であれば話せるのだが、それをカモフラージュに使うのはどうかと進言したが、結局無言で通す様に結論付けられた。


(……今の所、不審な方々は現れませんね)


 予測ではオークション会場前で襲われる可能性が高いとされていた。会場には警備にランケット等が配置されるのでそれ以前の移動中に襲う方が賊としても成功し易いと考えるからである。

 現在私の手には珍しい異国の品という事になっている小さな木箱が手元にある。実際はなんてことはない唯の宝石なのだが、私の格好や纏う雰囲気でそれが特別品という意味が付与されていた。


(もう少しで会場まで半分の距離ですね。 気を引き締めましょう)


 ちょうど半分となる位置には少し開けた広場が存在し、そこが狙い目となるだろう。

 戦闘を想定して一応私もドロップを準備している……のだが、可能なら私の手で他者を傷つけたくないというのが本音だった。


「……安心しろ。 君は俺が守る」

「え……?」


 最も近くに居る私にすら僅かにしか聞き取れない声量でフードの護衛にそう声を掛けられる。


「はい……」

「……」


 その後、無言に戻った護衛を引き連れて、広場に到着した。

 遠巻きに人々から注目されるのは当然だが、賊と思わしき姿は見えない。


(まさか……。 賊が現れない可能性も……)


 別に示し合わせで賊が来る予定がある訳ではない。ここまで準備をしているからこそ無駄になる予測はされていた。


(その時はその時なのですが……)


 勇み足で躓くならそれでも構わない。一応私本来の目的である情報を得ることは可能なのだから……。

 そう良い方向に考えていると、人混みの中から、短剣を持った男性が私達の方へと突撃してくる。


「おらぁ!」

「――っ!」


 賊とはいえ、格好が賊らしい風貌というわけではない。他の民と同じくどこでも見る服装をしている。


(間に合わ――)


 完全に油断していた私は、飛び出してきた賊の方に対応できず、どうにか腕で身を防ぐ仕草をするのみだった。


「……?」


 目を瞑っていた私は、その賊が一向に到着しない事を疑問に思って目を開けると、フードの護衛がその賊をどこからともなく取り出した槍で倒していた。


「大丈夫か?」

「は、はい。 ありがとうござ――みゅぐっ……」


 そのお礼を言う暇もなく、私はその護衛に担ぎ込まれ、オークション会場まで高速で向かう事となった。


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