第3話③ 少女の話と新たな仕事
==カーティス=エルリーン・南中央道==
(面倒だ……)
ランケットのメンバーとして連日巡回をしていた。
基本は誰かとペアを組んでの巡回だと言われたが、正直な話一人の方が動きやすいので断ってしまった。
(平和なことは良いことだと思うが、やることがないな……。 別に事件が起きて欲しい訳じゃないが)
今日は南区画の巡回なので昼食は厚切りのステーキを売りとする飲食店で済ませた。辛目のソースを絡めた牛肉はとてつもなく旨かった。
満腹で気分良く歩いていると、遠くからラッヅとそれに追いかけられる少女を見かける。
「待つじゃんねー!!!」
(何やってんだあいつ……)
その後ろからガルロも追いかけていたので、手を振る合図を送って引き留める。
「ガルロ、どうしたんだ?」
「カーティスか、済まないのだが窃盗をしていた少女を追いかけていてな。 悪いが失礼させてもらうな」
それだけ告げると、ラッヅを追いかけて彼も走って行く。
(窃盗犯ぐらいならあの二人に任せれば大丈夫だろう)
欠伸を噛み殺しながら、ラッヅ達とは反対の方へと歩き出した。
……
(これが噂のドロップ製品……)
あてもなくぶらぶらと歩いていると、ドロップ製品を取り扱っているという店を見つけた。
話に聞いていたが、見たことはなかったので興味を惹かれてその店へと入る。
高級な店内に入ると、身なりから金持ちに見えなかったのだろう。あしらう様に退店させられそうになるので、仕方なしに大会の賞金を見せびらかす。
すると態度が急変し、丁寧に取扱い商品の説明をし始める店員に不信感を持つものの、黙ってそれに付いて行った。
「――とするとカーティス様はあの闘技大会を優勝なさっておいでなのですか?」
「そうだ、とはいえこの町に来たばかりで住む場所も借りている状態だ。 だから今日はあくまでドロップ製品を見に来ただけだ」
「承知しております。 その際は是非、ドロップ製品の仕入れを国から認められている、我が商会でのご購入を検討してくださいませ」
「……そうだな」
嘘にならない範囲で適当に購入意思がないことを告げる。ドロップ製品を購入するにしても、最初の対応が気に入らなかったので別の店で買うことになるだろう。
「まずは此方、コンロで御座います。 火のドロップを使用して、スイッチ一つでなんと! 自由に火を起こすことができる製品で御座います。 料理用の商品で御座いますので、ご自宅がお決まりの際には是非購入の検討をして頂ければと」
「ふーん」
俺は料理はできるが、少なくとも俺自身は好きじゃないので、することはないだろう。
「続いては此方、掃除機で御座います。 風のドロップで塵を吸い込み、このタンクに収納される仕組みになっております。 掃除用具で御座いますので――」
その後もあまり興味の惹かれない製品の説明が続くが、最後の説明を聞いた時点で考えが変わる。
「――此方の商品、冷凍庫で御座いますが、氷菓子の保存にも使用することができます。 暑い灼天や炎天日中のといった暑い季節に持って来いで御座います」
「へぇ……」
暑い季節に冷たい菓子を食べる。とてつもない贅沢なのではないだろうか。唯一冷凍庫にのみ興味を持ち、それを覚えたまま宣言通り退店する旨を伝える。
数分間に何度聞かされたかわからない、家が決まったらドロップ製品の仕入れをしている我が商会で買ってくれ。という文言を聞きながら、店を後にした。
……
ランケットの溜まり場であるウィズターニルに戻ると、既にラッヅ達は巡回を終えて戻っていた。
二人が座る席に同席させてもらい、日中の出来事について聞くことにした。
「追いまわしてた女の子は捕まえられたのか?」
「おう、それは当然じゃん!」
自分より小さな女の子を捕まえたという功績に自信満々なラッヅ。それに対してガルロは気落ちした様子だった。
「そういえば実武器の鉾槍はどうした?」
「それがだな……」
椅子の下に置いてあったのだろう、その鉾槍を取り出すが、その柄は中央で真っ二つになっていた。
「何があったんだ?」
「それだけど、途中窃盗した女の子が別の女の子に助けを求めて、その子と戦闘になったじゃんね」
「その娘の生成した剣が特殊だったらしく、一撃でこのザマでな」
「すげーじゃんな。 カーティスも断面触ってみるじゃん? 鑢掛けしたみたいにぴかぴかじゃん」
ガルロに断りを入れて鉾槍を手に取る。その斬られた面は驚くほどに綺麗だった。まるで斬れ味の鋭すぎる剣に切られた様に……。
「オレの短剣も斬られたけど、ドロップの方だったから被害無しじゃんね」
「実物も生成物も関係なしにか」
「その娘自体は戦闘経験が浅いのだろうな。 未熟な構えではあったが、カーティスも気をつけたほうが良いな」
「……そうするよ」
そのようなドロップ能力は聞いたことがない。どういった理由かはわからないが、これ程の斬れ味なら腕だろうが簡単に持っていかれてしまうだろう。
「そういえば、そんな相手にどうやって二人は勝ったんだ?」
「いや、勝ったのではなく中断だな」
「話し合いで平和的に解決したじゃんね」
話の通じる相手ではあるらしいので、出会った際は是非にその秘密について聞いてみることにでもしよう。
……
「戻ったぞ~、みんなお疲れ~!!」
ラッヅ達と話を終えて食事を取っていると、グリッドがウィズターニルへと戻って来る。これまでは俺が戻った時点で既に居たので、不思議に思っていた。
「よっ、カーティス。 今日も助かった~」
「特に何も起きなかったけどな」
「それでいんだよ。 大事なのは巡回することで犯罪の抑制になることだからな~」
「……そうだな」
果実水を一口飲む。この店での支払いはグリッド持ちになっているので、今日だけ三杯目だった。
「そういえば、明日も今日みたいに巡回すれば良いのか?」
「いや、明日は人手が足りてるから自由に過ごしてくれ。 ……その代わりなんだが、一つ頼みたい事があってな~」
歯切れが悪そうに言葉を詰まらす。なにやら面倒事の予感がする。
「……断っていいか?」
「頼む! ……ってまだオイラが言ってないだろ~! っと……。 明後日、今節の社交界が開催されるんだが、その警備を手伝って欲しい」
社交界ということは貴族といった権力者が関わってくるのだろう。生憎そういう輩は好きではない。
「やっぱり断る。 別を当たってくれ」
「そこを何とか、頼むぜ~」
手を合わせて懇願するが、それを突っぱねる。
そんなやり取りを何度かしたのち、仕方なしといった様子で耳打ちをしてくる。
「(実は今回の一件、ダルクノース教の影がチラついてる。 少しでも戦力が欲しい)」
「!?」
ダルクノース教。ノービス教から派生した反ノービス教を掲げ、勇者を目の敵とする団体だった。
この単語を聞いただけで頭を抱えたくなるが、無視するわけにもいかない。
「……わかった、具体的な内容を教えてくれ」
休みとはいえ、対ダルクノース教のために準備をせざるを得なくなっていた。




